第24話『ギルドで広がる噂』
「……最近、“星降る宿屋”って名前よく聞きますね」
冒険者ギルド。
昼時のカウンターで、
若い受付嬢がぽつりと呟いた。
その言葉に。
ミリア・ノクスの手が、一瞬だけ止まる。
「……そうですか?」
「はい。“めちゃくちゃ寝れる宿”とか」
「“帰りたくなる宿”とか」
周囲の冒険者たちも頷いていた。
「飯うまいんだよな」
「あと宿主が変」
「武器修理までしてくれる」
「最後なんなんですか最後」
ミリアが思わずツッコむ。
だが。
否定はできなかった。
実際、
星降る宿屋は不思議な宿だ。
暖かい。
落ち着く。
安心できる。
そして何より。
“また行きたい”
と思ってしまう。
「ミリアさんも行ったことあるんですか?」
後輩受付嬢が興味津々で聞いてくる。
ミリアは少しだけ迷い――小さく頷いた。
「……何度か」
「えっ、どうなんですか!?」
「…………」
少し考える。
だが結局。
「……落ち着きます」
それしか言えなかった。
その瞬間。
近くにいた冒険者が笑う。
「だろ!?」
「一回行くと帰りたくなるんだよ!」
「最近あそこで飯食うのが日課だわ」
「暖炉前取られる前に行かないとな」
「常連席争奪戦やめてください」
ギルド内に笑い声が広がる。
ミリアは小さく苦笑した。
少し前までは、
ただの小さな宿だったはずだ。
なのに今では、
ギルドで名前が出るくらいになっている。
「…………」
不思議だった。
だが。
少し嬉しくもあった。
その日の夕方。
カラン、と扉の鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ!」
リアが笑顔で迎える。
「ミリアさん!」
「……ただいま、みたいになってきましたね」
ミリアは苦笑した。
すると。
「おかえりなさい」
レインが自然にそう言った。
その瞬間。
ミリアの動きが止まる。
暖炉の火が揺れる。
焼き立てパンの香り。
穏やかな空気。
そして。
自然に返ってきた、
“おかえり”という言葉。
「…………」
胸の奥が、
少しだけ熱くなる。
するとセリアがニヤニヤ笑った。
「はい、完全に常連入りー」
「ち、違います」
「いや帰ってきてる時点で同じだから」
リアも小さく笑っていた。
ミリアは少しだけ頬を押さえ――やがて小さく息を吐く。
「……本当に変な宿ですね」
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
今日もここへ来れて、
少し安心している自分がいた。




