第23話『閉店後の時間』
夜。
最後の客を見送ったあと、
星降る宿屋には静かな時間が流れていた。
「ありがとうございましたー!」
リアが扉を閉める。
外はすっかり暗い。
暖炉の火だけが、店内を優しく照らしている。
「……終わったぁ」
リアはカウンターへ突っ伏した。
「今日は忙しかったですね」
ミリアが苦笑する。
今日は珍しく、
ギルド帰りの冒険者が多かった。
そのせいか、
宿は夜まで賑わっていたのだ。
「でも楽しかったです」
ミアが小さく笑う。
その言葉に、
リアも少し嬉しそうな顔になる。
「うん。なんか最近毎日あっという間だよね」
以前は違った。
静かな時間ばかりだった。
客も少なくて、
夜になると不安ばかり考えていた。
でも今は。
「リア、紅茶どうぞ」
「ありがとうございますー……って、いつの間に!?」
レインが自然に紅茶を置いていた。
しかも全員分。
「なんでそんな気づけるんですか……」
「疲れてそうだったので」
「便利すぎません!?」
セリアが吹き出す。
「もう宿主っていうよりお母さんじゃん」
「違います」
レインは真顔だった。
店内に笑い声が広がる。
その時だった。
「……なんかいいですね」
ミリアがぽつりと呟く。
「え?」
「閉店後のこの時間」
暖炉の火。
静かな空気。
紅茶の香り。
誰も急いでいない時間。
「ギルドだと、こういう時間ないので」
ミリアは少しだけ目を細めた。
するとセリアが笑う。
「わかるー。ここいると帰りたくなくなるんだよね」
「……それ、冒険者たちも言ってました」
ミリアが苦笑する。
その時。
「…………」
ミアが静かに店内を見回していた。
暖炉前。
常連席。
磨かれた床。
少し前まで、
自分はここにいなかった。
でも今は。
「ミア?」
リアが首を傾げる。
「どうしました?」
ミアは少し迷い――やがて小さく笑った。
「……ここ、好きです」
その瞬間。
店内が少し静かになる。
暖炉の火が揺れる。
そして。
「……うん」
リアが、
とても嬉しそうに笑った。
「私も」
その空気を見ながら、
レインは静かに紅茶を飲む。
穏やかな時間だった。
誰かが帰ってきて。
笑って。
安心して休める。
そんな時間。
星降る宿屋は今日も、
少しずつ“帰る場所”になっていく。
そして。
その変化を、
誰より嬉しく思っているのは――
きっと、
リア自身だった。




