第22話『少しずつ慣れていく』
昼過ぎ。
星降る宿屋は、今日も穏やかに賑わっていた。
暖炉前では常連冒険者たちが昼食を食べ、
ミリアは仕事前の紅茶を飲んでいる。
「……平和ですねぇ」
リアが小さく呟いた。
少し前までは、
毎日余裕なんてなかった。
宿を回すだけで精一杯。
でも今は違う。
「リアさん、パン追加焼けました……!」
ミアが少し緊張した様子で厨房から顔を出す。
以前より声が大きい。
リアはぱっと笑顔になる。
「ありがとうミア!」
「っ……!」
ミアの顔が少し赤くなる。
そんなやり取りを、
セリアがニヤニヤ見ていた。
「ほんと慣れてきたねぇ」
「ま、まだです……!」
「最初皿全部落としてたのになー」
「セリアさん!?」
店内に笑い声が広がる。
ミアは恥ずかしそうに俯いた。
だが。
少しだけ嬉しそうでもあった。
その時。
「ミア」
レインが静かに呼ぶ。
「は、はいっ!」
ビクッと肩が跳ねる。
「パン、かなり綺麗でした」
「……っ」
ミアの青緑の瞳が揺れる。
「火加減、昨日より安定してます」
「……わ、わかるんですか?」
「毎日見てるので」
レインは穏やかに笑った。
その言葉だけで、
胸の奥がじんわり温かくなる。
ミアは小さく俯きながら呟いた。
「……もっと頑張ります」
その時だった。
カラン、と扉が鳴る。
「お、やってるな!」
入ってきたのは、
見覚えのない若い冒険者たちだった。
三人組。
だがガルドたちを見るなり、
ぱっと顔を明るくする。
「やっぱここか!」
「最近皆ここ来るよな」
リアが目を丸くする。
「えっと……初めてですよね?」
「ああ。でも噂は聞いてる」
男は笑いながら店内を見回した。
「“帰りたくなる宿”だって」
その瞬間。
リアの動きが止まる。
暖炉の火が揺れる。
笑い声。
穏やかな空気。
そして。
自然に“帰ってくる人たち”。
「…………」
胸の奥が、
少しだけ熱くなる。
すると隣で、
レインが静かに口を開いた。
「良い噂なら嬉しいですね」
「……はい」
リアは小さく笑った。
その時。
「リアちゃーん!」
ガルドが大声を上げる。
「いつもの追加!」
「はいはい今行きます!」
リアは慌てて走り出す。
その姿を見ながら、
ミリアがふっと笑った。
「……本当に変わりましたね、この宿」
レインは少しだけ目を細める。
「元々良い宿だったと思いますよ」
その言葉に。
リアは少しだけ足を止めた。
昔から、
大好きだったこの場所。
でも今は。
もっと好きになっている気がした。




