↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/84

第20話『星降る宿屋』

夜。


星降る宿屋は、今日も賑やかだった。


暖炉前では冒険者たちが酒を飲み、

ミリアは仕事終わりの紅茶を飲んでいる。


「今日マジで疲れた……」


「お疲れ様です」


レインが静かに焼き菓子を置く。


「……なんで毎回タイミングいいんですか?」


「疲れてそうだったので」


「怖いくらい察しがいいですね」


ミリアは苦笑しながら焼き菓子を口へ運ぶ。


甘い。


優しい味だった。


その時。


「リアちゃん追加ー!」

「はーい!」


「ミア、パン!」

「は、はいっ!」


賑やかな声が店内へ響く。


リアは忙しそうに走り回り、

ミアも少しずつ動けるようになっていた。


以前の彼女なら、

こんな賑やかな空間で働くなんて想像もできなかっただろう。


「…………」


ミリアは静かに店内を見回す。


不思議な宿だった。


豪華じゃない。


特別大きいわけでもない。


でも。


ここへ来ると、

皆どこか安心した顔になる。


冒険者たちも。


商人も。


旅人も。


そして、自分も。


「なあレイン」


ガルドが酒を片手に笑う。


「最近ここ、“第二の家”みたいになってんだけど」


「いいことですね」


「普通もっと驚けよ」


レインは少しだけ首を傾げた。


「帰る場所は多い方が良いと思うので」


その瞬間。


店内が少し静かになる。


暖炉の火が揺れる。


誰かが笑う。


木の香りと、料理の湯気が混ざる。


リアはふと立ち止まり、

その光景を見つめていた。


昔。


星降る宿屋は、

もっと静かな宿だった。


客も少なくて、

笑い声も少なくて。


でも今は違う。


毎日誰かが帰ってくる。


「…………」


リアは小さく笑った。


その時。


「リアさん」


ミアが小声で近づいてくる。


「どうしました?」


「……なんか、今すごく嬉しそうでした」


「えっ」


リアは慌てて頬を押さえた。


そんなに顔へ出ていただろうか。


するとミアが少しだけ笑う。


「この宿、前よりもっと温かくなりましたね」


その言葉に。


リアは静かに店内を見回した。


暖炉。


常連席。


笑い声。


穏やかな空気。


そして。


自然にそこにいる、

灰銀色の髪の青年。


「……うん」


リアは小さく頷く。


「きっと、みんなのおかげ」


そう言いながらも。


胸の奥では、

ちゃんとわかっていた。


この宿を変えたのは、

きっと――


「レイン、飯追加!」


「はい」


穏やかに笑う、

あの人なのだと。


その夜。


星降る宿屋には、

今日も優しい灯りがともっていた。


そして。


まだ誰も知らない。


この小さな宿が、

いつか“英雄たちの帰る場所”と呼ばれることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。