第20話『星降る宿屋』
夜。
星降る宿屋は、今日も賑やかだった。
暖炉前では冒険者たちが酒を飲み、
ミリアは仕事終わりの紅茶を飲んでいる。
「今日マジで疲れた……」
「お疲れ様です」
レインが静かに焼き菓子を置く。
「……なんで毎回タイミングいいんですか?」
「疲れてそうだったので」
「怖いくらい察しがいいですね」
ミリアは苦笑しながら焼き菓子を口へ運ぶ。
甘い。
優しい味だった。
その時。
「リアちゃん追加ー!」
「はーい!」
「ミア、パン!」
「は、はいっ!」
賑やかな声が店内へ響く。
リアは忙しそうに走り回り、
ミアも少しずつ動けるようになっていた。
以前の彼女なら、
こんな賑やかな空間で働くなんて想像もできなかっただろう。
「…………」
ミリアは静かに店内を見回す。
不思議な宿だった。
豪華じゃない。
特別大きいわけでもない。
でも。
ここへ来ると、
皆どこか安心した顔になる。
冒険者たちも。
商人も。
旅人も。
そして、自分も。
「なあレイン」
ガルドが酒を片手に笑う。
「最近ここ、“第二の家”みたいになってんだけど」
「いいことですね」
「普通もっと驚けよ」
レインは少しだけ首を傾げた。
「帰る場所は多い方が良いと思うので」
その瞬間。
店内が少し静かになる。
暖炉の火が揺れる。
誰かが笑う。
木の香りと、料理の湯気が混ざる。
リアはふと立ち止まり、
その光景を見つめていた。
昔。
星降る宿屋は、
もっと静かな宿だった。
客も少なくて、
笑い声も少なくて。
でも今は違う。
毎日誰かが帰ってくる。
「…………」
リアは小さく笑った。
その時。
「リアさん」
ミアが小声で近づいてくる。
「どうしました?」
「……なんか、今すごく嬉しそうでした」
「えっ」
リアは慌てて頬を押さえた。
そんなに顔へ出ていただろうか。
するとミアが少しだけ笑う。
「この宿、前よりもっと温かくなりましたね」
その言葉に。
リアは静かに店内を見回した。
暖炉。
常連席。
笑い声。
穏やかな空気。
そして。
自然にそこにいる、
灰銀色の髪の青年。
「……うん」
リアは小さく頷く。
「きっと、みんなのおかげ」
そう言いながらも。
胸の奥では、
ちゃんとわかっていた。
この宿を変えたのは、
きっと――
「レイン、飯追加!」
「はい」
穏やかに笑う、
あの人なのだと。
その夜。
星降る宿屋には、
今日も優しい灯りがともっていた。
そして。
まだ誰も知らない。
この小さな宿が、
いつか“英雄たちの帰る場所”と呼ばれることを。




