第19話『いつもの宿』
朝。
星降る宿屋には、焼き立てパンの香りが広がっていた。
「……いい匂い」
ミリア・ノクスは、入口を開けた瞬間に小さく呟いた。
仕事前だった。
本当は軽く食べて、そのままギルドへ向かうつもりだった。
……つもりだったのだが。
「おはようございます、ミリアさん!」
リアが笑顔で迎える。
「今日は少し早いですね」
レインが静かに紅茶を置いた。
「……なんでまだ何も言ってないのに紅茶出てくるんですか?」
「最近よく頼まれるので」
「覚えられてる……」
ミリアは小さく苦笑した。
気づけば、
自然にここへ来るようになっていた。
ギルド前に少し寄るだけ。
そう思っていたのに。
「ミリアさん! 昨日の焼き菓子どうでしたか?」
ミアが少し緊張した様子で聞いてくる。
「あ……美味しかったです」
「っ……!」
ミアの顔がぱっと明るくなる。
その反応に、
ミリアは少しだけ目を丸くした。
「……なんか家族みたいですね」
ぽつりと漏れる。
するとセリアが笑った。
「今さら?」
「今さらなんですか?」
「もう完全にそんな感じだよここ」
暖炉前では、
既に常連冒険者たちが騒いでいた。
「今日のスープなんだー?」
「腹減った!」
「……パン追加」
リアが慌てて走り回る。
ミアが皿を運ぶ。
レインが自然に料理を仕上げる。
その空気が、
妙に落ち着いた。
ミリアは静かに店内を見回す。
古い木造宿。
豪華じゃない。
でも。
椅子は座りやすい。
暖炉は暖かい。
空気が穏やか。
そして何より。
誰も無理をしていない。
「…………」
ギルドとは正反対だった。
あそこでは、
皆ずっと気を張っている。
冒険者も。
受付嬢も。
休める場所なんて少ない。
だから。
「……また来ちゃいました」
ミリアが小さく笑う。
するとレインは穏やかに頷いた。
「帰ってきたくなるなら良かったです」
その瞬間。
ミリアの動きが、少しだけ止まる。
帰ってくる。
その言葉が、
妙に胸へ残った。
「……ずるいですね」
「何がですか?」
「そういう言い方です」
レインは少し困ったように笑った。
その時だった。
「レインさん!」
リアが慌てて厨房から顔を出す。
「パン足りません!」
「追加焼きます」
「あとシチューも!」
「わかりました」
「あとガルドさん三杯目です!」
「食べすぎですね」
「聞こえてるぞー!」
店内に笑い声が広がる。
ミリアは小さく息を吐き――そして少しだけ笑った。
外は忙しい。
今日もギルドは大変だろう。
でも。
仕事が終わったら、
またここへ来よう。
そんなことを、
自然に思ってい




