表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/24

第18話『見えないところで』

夜。


星降る宿屋は、静かな眠りに包まれていた。


暖炉の火も小さくなり、

客室からは規則正しい寝息だけが聞こえてくる。


「……よし」


小さな声。


厨房では、ミアが一人で立っていた。


水色寄りの銀髪を揺らしながら、

真剣な顔でパン生地をこねている。


「もう少し……」


昼間は失敗した。


形が崩れて、

焼き加減も上手くいかなかった。


リアは優しく笑ってくれた。


セリアも気にしていなかった。


レインも怒らなかった。


――でも。


「ちゃんとできるようになりたい……」


ミアは小さく呟く。


この宿へ来てから、

初めてだった。


“頑張りたい”

と思えたのは。


その時。


「まだ起きてたんですね」


「ひゃぁっ!?」


ミアが飛び上がる。


振り返ると、

レインが静かに立っていた。


「れ、レインさん……!」


「すみません、驚かせました?」


「い、いえ……!」


ミアは慌てて失敗作のパンを隠そうとする。


だが。


レインはそのパンを見て、小さく目を細めた。


「発酵、昨日より上手くなってますね」


「……え?」


「空気の入り方が良いです」


ミアはぽかんと固まる。


失敗したと思っていた。


まだ全然ダメだと思っていた。


なのに。


「……わかるんですか?」


「毎日見てるので」


レインは穏やかに笑った。


その言葉だけで、

胸が熱くなる。


「でも焼き加減はもう少しですね」


「うぅ……」


ミアが小さく肩を落とす。


するとレインは、

静かに隣へ立った。


「火、少し弱めましょうか」


「……はい」


静かな夜だった。


薪が弾ける音。


パンの香り。


そして、

ゆっくり流れる時間。


レインは自然に生地へ触れる。


「ミアは丁寧に作るので」


「え?」


「焦らない方が合ってると思います」


ミアは目を丸くした。


そんなこと、

考えたこともなかった。


今までずっと、


“早く”

“ちゃんと”

“迷惑かけないように”


ばかりだったから。


「…………」


胸の奥が、

少しだけ温かくなる。


数十分後。


焼き上がったパンを見て、

ミアは息を呑んだ。


「……きれい」


前よりずっと綺麗だった。


形も整っている。


香りも良い。


するとレインが小さく頷く。


「かなり良いと思います」


その瞬間。


ミアの青緑の瞳が、

少しだけ潤んだ。


「……ありがとうございます」


その声は、

とても小さかった。


だが。


確かに嬉しそうだった。


その時だった。


「……何してるの?」


入口から、

眠そうなリアが顔を出す。


そして。


「わぁ……!」


焼き立てパンを見るなり、

目を輝かせた。


「ミア、すごい!」


「っ……!」


ミアの顔が一瞬で赤くなる。


リアは嬉しそうに笑った。


「絶対お客さん喜ぶよ!」


その言葉に。


ミアは小さく、

でも確かに笑った。


星降る宿屋の夜は、

今日も優しく温かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ