第17話『ギルド受付嬢の休日』
「……休みたい」
昼過ぎ。
冒険者ギルドの受付カウンターで、ミリア・ノクスは小さく呟いた。
「ミリアさん、依頼書追加です!」
「討伐報告きてます!」
「第三窓口クレーム対応お願いしまーす!」
「……はい」
笑顔。
笑顔。
また笑顔。
受付嬢という仕事は、想像以上に疲れる。
冒険者対応。
書類処理。
トラブル仲裁。
一日中気を張り続けなければならない。
「…………」
ミリアは小さく息を吐いた。
その時だった。
「おい受付嬢」
常連冒険者のガルドが、依頼書を置きながら笑う。
「疲れてんな」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「悪い悪い」
全然悪いと思っていない顔だった。
すると隣で、ユーリがニヤニヤしながら口を開く。
「じゃあ今日あそこ行けば?」
「あそこ?」
「星降る宿屋」
その瞬間。
ミリアの動きが少し止まる。
「……またその宿ですか」
最近よく聞く名前だった。
冒険者たちの間で妙に評判になっている。
“落ち着く”
“飯が美味い”
“めちゃくちゃ寝れる”
などなど。
正直、少し気になっていた。
「仕事終わりに行くとマジで帰りたくなくなるぞ」
「あと飯が優しい」
「宿主が変」
「最後なんですか?」
ユーリは大笑いした。
「行けばわかるって!」
その日の夜。
気づけばミリアは、
星降る宿屋の前に立っていた。
「…………」
暖かな灯り。
木造の外観。
窓から漏れる笑い声。
それだけで、
少しだけ肩の力が抜ける。
カラン、と扉を開ける。
「いらっしゃいませ!」
リアがぱっと笑顔を向けた。
「あ、ミリアさん!」
「こんばんは」
その瞬間。
ふわり、と良い香りが漂う。
焼き立てパン。
シチュー。
暖炉の薪。
ギルドの慌ただしい空気とはまるで違った。
「空いてますよ」
レインが静かに椅子を引く。
「……ありがとうございます」
座った瞬間。
ミリアは少し驚いた。
椅子が座りやすい。
硬すぎない。
妙に落ち着く。
「座面、調整したので」
「……なんでわかったんですか?」
「疲れてる時は、椅子大事なので」
「…………」
やっぱり変な人だった。
だが。
嫌じゃない。
むしろ。
「今日は甘いものありますか?」
気づけば、
そんな言葉が口から出ていた。
リアが目を丸くする。
「ミリアさん甘いもの好きなんですか!?」
「仕事終わりだけは」
少しだけ本音だった。
するとレインが静かに頷く。
「わかりました」
数分後。
ミリアの前に、小さな焼き菓子が置かれる。
ほんのり甘い香り。
「……綺麗」
一口食べる。
瞬間。
「……っ」
自然と、肩の力が抜けた。
優しい甘さだった。
疲れた身体に染み込むみたいに。
その時。
「……ふふ」
リアが嬉しそうに笑う。
「なんかミリアさん、ちょっと顔柔らかいです」
「え?」
ミリアは思わず頬へ触れた。
そんな顔、
ギルドではしたことがない。
けれど今は。
暖炉の火。
穏やかな空気。
誰かの笑い声。
全部が心地よかった。
そしてミリアは、
少しだけ理解する。
――ああ。
皆がここへ帰ってきたくなる理由、
なんとなくわかるかもしれない。




