第16話『常連席』
朝。
星降る宿屋には、焼き立てパンの香りが広がっていた。
「わぁ……」
ミアが目を輝かせる。
「今日のパン、いつもよりすごいです……」
「少し発酵時間を変えてみました」
レインは平然としていた。
リアが呆れた顔をする。
「また普通にすごいことしてる……」
「補助部隊では普通でしたけど」
「絶対普通じゃないです!!」
セリアが吹き出す。
「もうリアちゃんのツッコミが日課になってるね」
そんな賑やかな朝。
カラン、と扉が鳴った。
「おはよーさん!」
「お、もう開いてるか!」
入ってきたのは、いつもの冒険者たちだった。
最近よく来る常連組だ。
ガルド。
ユーリ。
ディオ。
気づけば自然に来るようになっていた。
「今日は窓際座るぞー」
「いや暖炉前だろ」
「……いつもの席でいい」
ディオが静かに呟く。
その瞬間。
店内が少し静かになった。
「……いつもの席?」
リアが目を丸くする。
するとユーリが笑った。
「なんか自然に決まってきてんだよな」
確かにそうだった。
暖炉前にはディオ。
窓際にはユーリ。
カウンター近くにはガルド。
いつの間にか、
皆座る場所が決まっている。
「……常連席、みたいですね」
ミアが小さく呟く。
その言葉に。
リアの胸が、じんわり温かくなる。
常連席。
そんなもの、
昔の星降る宿屋にはなかった。
「…………」
リアは静かに店内を見回す。
笑い声。
料理の匂い。
落ち着いた空気。
そこには、
ちゃんと“帰ってくる場所”があった。
その時。
「リアちゃん」
セリアがニヤニヤしながら肩を叩く。
「顔ゆるんでる」
「えっ!?」
リアは慌てて頬を押さえた。
するとガルドが笑う。
「そりゃ嬉しいだろ」
「この宿、前よりかなり良くなってるし」
「……ありがとうございます」
リアは少し照れながら笑った。
その様子を、
レインは静かに見ていた。
「レイン、いつもの頼む!」
「わかりました」
「ディオは?」
「……シチュー」
「ユーリは?」
「今日は甘いの」
「ありますよ」
リアが目を丸くする。
「……覚えてるんですか?」
「よく頼まれるので」
「いや普通そんな覚えませんって……」
するとレインは少しだけ首を傾げた。
「帰ってくる場所なら、覚えていた方が良いかと」
その瞬間。
店内が少し静かになる。
暖炉の火が揺れる。
誰かの笑い声。
湯気立つ料理。
そして。
自然に交わされる、
“いつもの”会話。
リアは小さく思った。
――ああ。
星降る宿屋は、
本当に変わったんだ。
そして。
その変化が、
少しだけ嬉しかった。




