第14話『雨宿りの少女』
雨が降っていた。
昨日から続く冷たい雨だ。
「今日は静かですねぇ……」
リアは窓の外を眺めながら呟く。
普段なら昼頃には賑わい始める宿も、
今日は客足が少ない。
「雨の日は移動を控える人が多いので」
レインは静かに紅茶を淹れていた。
「でも、こういう日嫌いじゃないです」
「わかります!」
リアがぱっと顔を上げる。
「暖炉の音とか落ち着きますよね!」
「はい」
そのやり取りを見ながら、
セリアがニヤニヤしていた。
「ほんと息合ってきたよね二人」
「せ、セリアさん!?」
リアが顔を赤くする。
ミアはおろおろしていた。
その時だった。
コンコン、と小さな音が響く。
「……?」
リアが扉を見る。
しかし誰も入ってこない。
「気のせいでしょうか?」
だが。
レインは静かに入口へ向かった。
扉を開く。
するとそこには――
小さな少女が立っていた。
びしょ濡れだった。
茶色の髪は雨で張り付き、
薄い服も完全に濡れている。
年齢は十歳くらいだろうか。
少女は怯えたように後ずさった。
「……っ」
だが次の瞬間。
ふわり、と温かな布が肩へ掛けられる。
「中へどうぞ」
レインだった。
少女は目を見開く。
「……え?」
「風邪引きますよ」
その声は、とても穏やかだった。
数分後。
少女は暖炉の前に座っていた。
リアが慌ててタオルを持ってくる。
「だ、大丈夫?」
「これ飲めますか?」
ミアは温かいスープを運び、
セリアは薪を追加する。
少女は呆然としていた。
まるで、
こんなふうに優しくされたことがないみたいに。
「……なんで」
小さな声が漏れる。
リアが首を傾げた。
「え?」
「なんで……こんな」
その瞬間。
レインが静かに答えた。
「困ってる人を助けるのに理由はいりませんよ」
暖炉の火が揺れる。
少女の瞳が、大きく揺れた。
やがて。
ぽろっ、と涙が零れ落ちる。
「え、えぇっ!?」
リアが慌てる。
少女は必死に涙を拭う。
「ご、ごめんなさい……!」
「謝らなくて大丈夫ですよ」
レインは優しくスープを差し出した。
「温かいうちにどうぞ」
少女は震える手で器を持つ。
そして。
一口飲んだ瞬間。
「……おいしい」
か細い声だった。
でも。
確かに笑っていた。
その様子を見ながら、
リアは静かにレインを見る。
この人は本当に不思議だった。
大げさなことはしない。
自分から誇ることもしない。
でも。
自然に誰かを救ってしまう。
「…………」
リアの胸が、
少しだけ高鳴る。
その時。
セリアが小声で呟いた。
「……ほんと、聖騎士って感じ」
レインには聞こえていない。
彼はただ、
少女が安心できるよう暖炉の火を調整していた。
外ではまだ雨が降っている。
けれど星降る宿屋の中だけは、
今日も優しく温かかった。




