表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/15

第12話『少しずつ変わる宿』

朝。


星降る宿屋の入口で、リアはぽかんと立ち尽くしていた。


「……え?」


宿の前に、荷車が止まっている。


しかも二台。


「頼まれてた木材持ってきたぞー!」


荷台の上から、商人風の男が手を振った。


リアは目を瞬かせる。


「え、木材……?」


「昨日注文してただろ?」


「ちゅ、注文?」


完全に聞いていない。


リアがゆっくり振り返る。


すると。


「届きましたか」


レインが普通に立っていた。


「レインさん!?」


「床の修理をしようかと思いまして」


「いつの間に!?」


レインは少し首を傾げる。


「昨日の夜ですが」


「鍛冶した後ですよね!?」


「はい」


「寝てください!!」


セリアが吹き出す。


「リアちゃん最近ツッコミ忙しそう」


「忙しいですよ!」


ミアはおろおろしながら木材を見る。


「で、でも……修理するお金、大丈夫なんですか……?」


その言葉に、リアも少し不安そうな顔になる。


確かに最近客は増えた。


でも、

大規模修理できるほど余裕があるわけじゃない。


するとレインは静かに答えた。


「最低限です」


「最低限?」


「今の宿の良いところは残したいので」


リアが目を丸くする。


レインは宿の壁へそっと触れた。


古い木材。

年季の入った柱。


「この宿、ちゃんと手入れされてますから」


「…………」


「大事に使われてきたのがわかります」


リアの胸が、少しだけ熱くなる。


この宿は、

両親が残してくれた場所だった。


古くても、

ずっと大切にしてきた。


だから。


「……壊して作り直すんじゃないんですね」


リアが小さく呟く。


レインは穏やかに頷いた。


「その必要はないと思います」


「……っ」


リアは少しだけ俯き――やがて小さく笑った。


「……ありがとうございます」


その日の午後。


星降る宿屋では、簡単な改装が始まった。


「ミア、そっち持てる?」

「は、はいっ!」


「セリアさんそれ重くないですか!?」

「余裕余裕!」


賑やかな声が飛び交う。


そして。


カン、カン――


レインは静かに床を直していた。


軋んでいた木材は綺麗に補強され、

古かった椅子も丁寧に磨かれていく。


だが。


宿の雰囲気は変わらない。


暖かくて、

どこか落ち着くまま。


それが不思議だった。


「……なんかすごいですね」


ミアがぽつりと呟く。


「古いのに、新しくなってる感じ」


その言葉に。


レインは少しだけ笑った。


「長く使われてきたものって、残した方が良い時もありますから」


夕方。


改装を終えた宿には、

柔らかな夕陽が差し込んでいた。


以前より綺麗。


でも、

ちゃんと星降る宿屋のまま。


リアは静かに店内を見回す。


そして。


「……好きです」


ぽつりと呟いた。


「え?」


「前よりもっと、この宿好きになりました」


レインは少しだけ目を丸くし――穏やかに笑う。


「それなら良かったです」


その時だった。


カラン、と扉の鈴が鳴る。


「……あれ?」


入ってきた冒険者が、驚いたように周囲を見る。


「なんかここ、前より綺麗じゃね?」


その言葉に。


リアは少しだけ誇らしそうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ