第11話『預かった剣』
昼過ぎ。
星降る宿屋は、今日も賑わっていた。
「リアちゃん追加ー!」
「はーい!」
リアが元気よく返事をする。
ミアは一生懸命パンを運び、
セリアは冒険者たちと笑いながら接客している。
そして。
カン、カン――
店の裏庭から、金属音が響いていた。
「……やっぱここだよな」
宿泊客の冒険者が、苦笑しながら呟く。
裏庭ではレインが、黙々と剣を打っていた。
以前預かった剣の修理だ。
淡い灰銀色の髪を揺らしながら、
静かに火花を散らしている。
その姿は、
とても“戦えない便利屋”には見えなかった。
「レインさーん!」
リアが裏口から顔を出す。
「お客さん、“まだ預けたい”って」
「わかりました」
レインは手を止める。
すると客席では。
「俺の盾も頼める?」
「このナイフもいけるか?」
「防具の留め具壊れててさ」
次々と武器や装備が集まっていた。
リアは呆然とする。
「……宿ですよねここ」
「半分鍛冶屋になってない?」
セリアが笑った。
だが。
それには理由がある。
「レインに預けると装備の調子が良くなる」
そんな噂が、冒険者たちの間で広がり始めていたのだ。
「なんでそんなことできるんですか……」
リアが半目になる。
レインは少し考え込み――静かに答えた。
「使う人に合わせて調整してるだけですよ」
「だけで済ませないでください!」
すると近くにいた冒険者が驚いた顔をする。
「……え、そこまで見てんの?」
「剣の癖を見ると、だいたいわかるので」
「怖っ」
しかし冒険者はすぐ笑った。
「でも確かに使いやすくなってんだよなぁ」
その時。
レインが一振りの古い剣を手に取る。
かなり使い込まれていた。
刃こぼれも多い。
だが。
「……大事に使われてますね」
レインが静かに呟く。
持ち主の若い冒険者は、少し驚いた顔をした。
「……親父の形見なんだ」
リアとミアが目を丸くする。
冒険者は苦笑した。
「だから捨てられなくてさ」
「でもボロボロで」
レインは剣を優しく見つめる。
「わかりました」
「え?」
「ちゃんと直します」
冒険者は少しだけ黙り込み――やがて頭を下げた。
「……頼む」
その夜。
カン、カン、と静かな音が裏庭へ響いていた。
レインは一人、黙々と剣を打ち続ける。
すると。
「……寝ないんですか?」
リアが毛布を持って現れた。
「もう遅いですよ?」
「もう少しで終わるので」
リアは隣へ座る。
夜風は少し冷たかった。
だが、
鍛冶場の火は暖かい。
「……なんでそこまで頑張るんですか?」
リアが小さく聞く。
レインは少しだけ手を止め――静かに答えた。
「大事なものを預けてもらえるのって、嬉しいので」
「…………」
リアは目を見開く。
レインは、穏やかに笑った。
「だから、ちゃんと応えたいんです」
火花が夜空へ舞う。
その横顔は、
どこか少しだけ寂しそうで。
でも、
とても優しかった。




