きっと特別なこと
フワリちゃんとシロウさんのクリスマス。
引き続きフワリちゃん視点でお送りいたします。
裏口を開けると、降りだした雪の中、シロウさんが息を白くして、待ってくれていた。
温かいコートにマフラー、手袋をしているが、私が長時間待たせたからだろう、鼻先が赤い。
「シロウさん、お待たせしてすみません。寒かったですよね」
腕を伸ばし、シロウさんの頬を挟み込むように触ると、凍えるほどに冷たい。
「フワリちゃんの手、あったかいね。でも、冷たくなっちゃうから、オレに貸して。」
シロウさんは、つけていた大判のマフラーを外すと、私の頭が濡れないようにしっかりと巻き付けてくれた。
私も白いモコモコのケープにマフラーをつけているのに、シロウさんのマフラーを上から巻かれたことでより温かい。
そして、左手の手袋を外すと、私の手にはめた。
シロウさんの手は大きいから、私の手にはブカブカだ。
残った私の右手は、シロウさんの左手がしっかりと恋人繋ぎで握られると、シロウさんのコートのポケットの中に入れられた。
「ごめんね。傘、忘れちゃった。」
「いいんです。私も持ってないですから。それより、マフラーもらっちゃったら、シロウさんが寒くなっちゃう」
「オレは、もともとの体温高いから大丈夫。生まれて一度も風邪引いたことない、健康体だからさ。それより、オレとのデートでフワリちゃんが風邪引いたら困るから、守らせて」
シロウさんの低い声が、右耳の上に囁かれた。
私の歩幅にペースを合わせてくれた一歩一歩は、シロウさんにとっては遅く感じるはず。
それなのに、冷たい雪が頭や肩に積もるのにも関わらず、歩くスピードは普段のデートと変わらない。
こういうところが、シロウさんが自分をとても大事にしてくれていると感じる。
シロウさん、優しい。
ゆっくりしたペースで、路地裏から表の通りへ出る。
辺りはイルミネーションとカップルで溢れていた。
「この辺りは、町並みもイルミネーションも綺麗だから、人が多いね」
繋いだ手をポケットの中で、ぎゅっと握られる。
「はぐれたら大変だから。」
「……温かいです」
「オレもだよ」
少しずつイルミネーションの光が減っていって、街灯だけになる。
周りには、店よりもアパートが多くなってきて、シロウさんはそのうちの一つで立ち止まった。
「ついたよ。ここの3階」
レンガ造りのしっかりとした建物は、年月を感じるが、エントランスも昇った階段も綺麗に掃除がされていた。
シロウさんの家の玄関の前に来た。
シロウさんは、手早く鍵をあけると私から自分のマフラーを外し、雪を払ってくれた。
「寒いから、先に中で待っていて。机の上にエアコンがあるから、暖房つけておいてくれる?」
「はい!」
玄関に入ると家の中から、シロウさんの匂いがした。
つけている香水と、シロウさんの匂いが混ざった香り。
足が止まりそうになる。
だ、暖房、暖房をつけないと、心を奮い立たせる。
シロウさんが寒そうだから、暖房をつけて部屋を暖めないと。
ゆっくりと靴を脱ぎ、扉をあけるとリビングだった。
机の上にリモコンを見つけると、暖房のスイッチをいれる。
机の上には、他に手のひらサイズの多肉植物が置かれていた。
白い壁のシンプルな部屋だ。
床には無地のアップルグリーンの色をしたラグがしかれ、低い明るい茶色の机とベージュのクッションがいくつか置かれていた。
「お待たせ。暖房ありがとう。夕飯買ってあるから一緒に食べよう!」
シロウさんが冷蔵庫から取り出したのは、クリスマス用のオードブルとチキンだった。
お湯をわかし、レンジで温め、2人分のココアとクリスマスディナーが用意された。
テレビをつけると、クリスマス特集の番組をやっていた。
「外、寒かったね。フワリちゃんは、ずっと働いていたから、お腹減ってるだろうし、いっぱい食べて」
ピーニャで、ディナーを食べてきたはずのシロウさんも、たくさん食べているから私も食べやすい。
デパ地下のオードブルやチキンを今日の午前中に買っておいてくれたそうで、とても美味しかった。
「さあ、ケーキもどうぞ」
それはイチゴのタルトだった。
この街に住んでいるなら知らない人は誰もいない、有名なお店の一番人気のケーキだ。
サクサクのタルト生地の上には、なめらかで濃厚なカスタードクリーム。
その上を、宝石のように煌めいた鮮やかなイチゴが、これでもかと並んでいた。
「綺麗……。」
「ここのケーキが美味しくて、給料がでるとつい買っちゃうんだよ。今日はフワリちゃんもいるから、特別に大きいやつにしちゃった」
シロウさんは、ホールのタルトを大きめに切り分けてくれた。
「甘いの好きだよね?せっかくだから、フワリちゃんの好きなだけ食べて。残ったら、オレが食べるから」
イチゴのタルトを目にして、輝くような笑顔を見せたシロウさん。
私達は、お腹いっぱいに、美味しいタルトを食べて、たくさん笑って、お話して、クリスマスの聖なる夜はゆっくりとふけていった。
読んで頂き、ありがとうございます!




