第十四話 村正、初使命
第十四話 村正、初使命
翌朝目覚めると、同じベッドにはシルフィエがすやすやと眠っていた。
「……ああ、結局一緒に寝たんだっけか」
昨晩の会話を思い出しながらシルフィエを起こさないようにゆっくりとベッドを出る村正。
まだ日が登りかけでいつもより少し起きるのが早いが、どうせ起きてしまったのだからと木刀を持ち庭に出る。
朝特有の澄んだ空気が肺に入ると体の汚れが少し消えていくような気がする、この匂いと毎朝素振りをすることでだんだんと頭が冴えていく感覚が好きなのだ。
定位置に立ち、目を閉じて一呼吸おいて村正は剣を振り始めた。
シルフィエと契約を済ませた後の会話で分かったことが徐々に整理されて蘇ってくる。
この思考がクリアになる感覚も村正が早朝の素振りで気に入っている感覚の一つだ。
(まずシルフィエはこの世界の楔と自称していた。それは霊王の使いで、この世界の崩壊を防ぐ役目を持った者のこと)
木刀が空気を切る。周囲も少しづつ明るくなり、どこからともなく鳥が飛んで来ては屋根の上に止まりさえずる。
(契約を済ませた楔と契約者はなにかの力で繋がれる。一定の感覚を共有したり、回りに聞こえないような意思の疎通が出来たり。お互いの力を利用したり出来る)
徐々に鳥達のさえずりも大きくなるが集中した村正には聞こえていない。
(シルフィエは霊的な状態になって俺と同化することもできるし、いつでも実体化して姿を表わすことも出来る)
いつの間にかシルフィエが目を覚まし村正の斜め後ろであくびをしながら見ているのにも当然気がつかない。
(霊王からの世界を守る使命は必要な時が来ればシルフィエ達に連絡が来る……世界の楔はシルフィエ以外にもいる)
『はい、よくできました』
「うわっ!?」
突然頭のなかに響いた声に驚く。
「そんなに驚くこと無いじゃない、おはよ、ムラマサ」
「あ、ああシルフィエか。おはよう」
振り向くとにこにこと微笑んでいるシルフィエがいた。
「もしかして声に出てた?」
「ううん、でもダダ漏れ?」
どうやら思考する際にも自分だけのための思考とシルフィエに伝わる思考の二つがあるようだった。
使い方を覚えないと常に考えていることがシルフィエに伝わりっぱなしになってしまうということだ。
「まぁ私はそれでもいいんだけどね」
「いや、俺はちょっと恥ずかしいかな」
「恥ずかしがること無いのにー」
そう言いながら腕に抱きついてくるシルフィエはあまりにも無邪気で正直困ってしまう。
「それでねムラマサ、使命なんだけど」
朝食を食べている時にシルフィエが切り出した。
「ん、早速ある?」
「うん、そのうちこの国にモンスターを召喚して潰そうとする奴が現れる」
「それを阻止すればいい……のか?」
「うーん、最終的にこの国が壊滅するのを防げばいいって言ってたけど……」
「逆に何を失えばこの国が壊滅するのか聞きたいところだな、それさえ抑えておけばひとまずは何をすればいいのかが分かりそうなもんだけど」
「確かに……」
「また聞くことは出来ないの?」
「基本向こうからの一方通行だから……ごめんね?」
それならしょうがないと少しうなだれるシルフィエを慰める。
「わからないならしょうがない、基本的にこの国はグリッターが守ってて、一応王国制だから王様とかがいなくなると困るって感じかな」
「そうなの?」
「多分……目に見えて甚大な被害が出そうなのはグリッターの壊滅か王族の死だとは思うけど、他に何かあるんだろうか……」
「とりあえず、私は基本的にムラマサの思うとおりに動く手助けをするよ」
「そういえば使命を果たせないとどうなるの?」
「使命で阻止しなきゃいけない脅威にもよるんだけど、一回失敗しただけで世界が終わることはない、かな。それに近づくって感じ」
「なるほど……まぁ失敗しないに越したことはないな」
ほどなくして玄関の扉が開く音が聞こえる。
保護観察官だろうか?と思い席を立つと同時にシルフィエが同化する。
「どうした?」
『そもそも契約者意外と顔を合わせるのも好きじゃないんだけど、基本的に私ってわりと強い力を持ってるから面倒なことになりやすいの』
「なるほどね」
きっと前回、前々回の契約の時にいろいろあったんだろうな。
「あ、ナタリーさん」
「はぁ……」
顔を見るなりため息をつかれてしまう。こちらの世界では失礼にはあたらないんだろうか。
「なんで私が継続して保護観察なのよ?」
「俺に聞かれてもわかりませんよ、拘束義務は無くなったそうですからナタリーさんもある程度は自由にできるのでは?」
「はー、私は研究がしたいの、こんなところにいて研究は出来ないでしょ?わかる?」
「わかりますね、グリッター本部じゃダメなんですか?」
「私の研究房はモンスターの召喚の苗床になってもう使い物にならないのよ……」
手を握りすこし震えた声で言うナタリーになんと言葉をかけていいかと悩んでいるとナタリーは堰が切れたようにしゃべりだした。
「私が延々研究してた召喚術をあのドレシーとか言う女は知ってた上に秘密にしてたのよ!?信じられないわよねほんと」
「えっと」
「あいつそもそも妙に親切に近づいてくるとは思ってたのよね、全部知ってて今回の騒動で私をダシにしやがったのよ」
「誤解は解けたんですよね?」
「それも調査中よ、私はあの女と召喚に関しては一切のやり取りをしていない……っては主張してるけど、他の奴らにとっちゃどうだかって感じでしょうしね」
「それでも召喚の研究をしたいんですか?いったい何のために……?」
「アンタには関係のない話よ、はぁ……とりあえず休むわ、問題を起こさないでちょうだいね」
そう言って二階へと上がっていくナタリー。殆ど放ったらかしにしてくれるというのはこちらとしてはありがたいが……
とりあえずは復興の手伝いをしつつ、まずはもう少しこの国に付いてちゃんと調べるべきだと思い村正は家を出た。
街は見渡す限りいつもどおりの騒がしさを保っているように見えた。
まだ朝早くだというのに荷台を引いた馬車は行き来しているし、商店ではそれぞれ呼び込みが始まっている。
「あ、お兄さん。おはよー」
以前カバン等を買った服屋の看板娘が声をかけてくる。
「あ、おはよう。この間はありがとう」
「いーえいーえ。こちらこそいっぱい買ってくれてありがとう」
「今日は予定があるから見れないけど、また買いに来るよ」
そう言うと笑顔で両手を広げる、どことなく西洋チックな感情表現に感じる。西洋に行ったことはないが。
「うんうん、そんな感じでご贔屓にねっ。あ、お兄さんお名前は?」
「ああ、そうだ忘れてた。俺は村正、君は?」
「私はベルって呼ばれてるよ」
「呼ばれてる?」
「うん、本名はフレスヴェルカって言うんだけど、長いからベルって呼んでくれたらいいよ」
「そっか、いい名前だな。よろしくベル」
「うん、よろしくねムラマサ」
そんな会話をして店を離れるとベルは清々しく手を降って見送ってくれた。
『なかなか可愛い子じゃない?』
『ああ、元気でいい子だな』
『こういう活気のあるところはいいよね、見てる分には好き、人混みに塗れるのは嫌いだけど』
なかなかシルフィエも複雑なようだ。
村正は朝から商業に勤しむ人の波を抜けてグリッター本部へと歩いた。




