第十三話 村正、契約
第十三話 村正、契約
村正に出来る救援活動が全て終了した後、アルマンディンから呼び出された。
かなり疲れた体をおして執務室へと向かう。
「入ります」
「ああ、ムラマサ、来てくれたか」
「話というのは何でしょうか」
「急で悪いがムラマサの保護観察を終了する、本来であればもっと長期間活動実績を見ながら働いてもらうはずなんだが、今日の事件で色々と状況が変わった
グリッターの復旧作業等にとにかく人が足りないのだ、悠長に保護観察を行っていられなくなったというのが正直なところだ」
恥ずかしい話だがなとアルマンディンは頭をかきながら話す。
「ムラマサの事は私が個人的に信頼することにした、規律には外れることになるが、懸命な救護活動等からそう判断した。質問はあるか?」
「二つほど……厚かましい質問なのですが、保護観察で使用していた家も利用できない、ということでしょうか」
「ああ、そうかそうだったな。ムラマサは身を寄せる場所が無いのか」
「一つ提案なのですが、私がグリッドランドに居る間は可能な限りグリッターの助力を行うので、あの家を貸しておいていただけませんか?」
「それは願ってもない話だが……正式にグリッターに入団というわけには行かないのか?」
「お誘いは嬉しいのですが……どうしてもやらなければいけないことが必ず来ます、その際に不自由な場所には身を置けないのです。
身勝手なお願いをしていることは承知の上です」
「いいだろう、保護観察で使用していた家の使用を認める。ただし保護観察官は一人付けさせてもらう」
「ありがとうございます」
「保護観察官とは言ってももはや拘束力はない、あの家を借用する以上は何かあっては困るからな、それにムラマサに協力して貰うことも多くなる」
「尽力します、もし私の使命を果たさなければいけなくなった時には必ずご連絡します」
「そうしてくれ、借用の他に協力してくれた分にふさわしい給与は出そう。今後任務を依頼する場合は保護観察官に一度連絡が行くはずだ」
「わかりました、そしてもう一点。ドレシーが探しだした宝石をお返しします」
「ああ……これはムラマサにやろう」
「いいのですか?重要なものでは……」
「どうにも不思議な話でな、グリッターの誰に聞いてもそれの存在は知らないというのだ、私も知らなかった」
誰も知らなくても大切なモノとして安置してあったのではないだろうか……と思うがここは黙っておく。
「研究対象として返還を求めてもいいんだが、状況から見るに精霊か何かが封じられていた魔石だろう、そういったものは一度封印を解けば価値も無く研究対象にもならんそうだ」
「それで私が頂いても構わない……ということですか」
「そうなるな。さて、話は以上だ、ムラマサ……部下の命を救ってくれてありがとう、感謝している」
「いえ、自分にできることをしたまでです。失礼します」
そう言って執務室を後にした。
広間へ戻ると既に復旧作業が始まっていた。
広間の片隅に並べられた袋が被害を物語っている。建物自体に被害はあまりないのだが、やはり人や物資に損害が出ている。
「あ、アンタは」
そう声を上げ駆け寄ってきた兵士がいた。
「アンタが俺達の怪我を治してくれたんだろう?ありがとう」
「ああ、なに。自分にできることをしたまでだよ」
「へぇ……アンタヒーラーなのにずいぶんと腰が低いんだな……」
「そうかな?」
「ヒーラーといや貴重な存在だからな、どいつもこいつも治してやったんだから感謝しろみたいなのが透けて見える」
いやだいやだと顔を降る兵士、ハッとしてこちらをむいて慌てて弁明を始めた。
「あ、いやアンタにはもちろん感謝してるぜ!?」
「気にしてないよ、それよりヒーラーが貴重って」
「何だ、知らないのか?怪我を治すヒーラーはどこの軍なり冒険者パーティなりでも大人気だからな、更にあんな速度で回復できる奴はそう多くない。国によっちゃヒーラーの心得があるだけで軍に強制収容なんてところもあるくらいだ」
恐ろしい話を聞いた、むやみにヒーラーとして行動すればその国がヒーラー確保のために襲いかかってくるようなものだ。
そんなところに捕まったら使命どころじゃない……
「あ、やべぇ呼んでら。じゃあ俺は行くわ、本当にありがとうな」
そう言って手を上げて去っていく兵士。
(感謝されて嬉しい事は嬉しいけど、力をどう使うかを考えなければいけないな)
目的達成のために癒やすことが出来ても見捨てなければいけない人が今後出てくるのかと考えると晴れやかな気持ちになることはなかった。
受付に挨拶をして出ようとすると呼び止められた。
「ムラマサさんですか?」
「はい」
「ミレイさんからです」
そう言って渡された小袋にはおそらく給与と思わしきGと治癒に対する感謝の手紙が入っていた。
家に帰り、リビングに行くとジェイドの置き手紙が置いてあった。
上からの命令で保護観察が終了したから俺は戻る。達者でな。
あと見かけたら声かけろよ ジェイド
といった簡素なものではあったが、すこしの気遣いが嬉しかった。
二階へ登ると人の気配はなく、今は誰もいないようだった。
保護観察官が一人になると言っていたから、順当に考えればナタリーが残るんだろうか……
誰であってもやることに変わりは無いだろうが。
自室で荷物を下ろし、ベッドに座るとどこからともなくあの少女の声が聞こえてきた。
「やっと一人になったね」
気づけば目の前で空気が渦をまき、一瞬光ったと思うとそこには可憐な少女が立っていた。
薄い緑色の髪を二つに結い、涼し気なワンピースにサンダルを履いた少女。腕には細身の体に似つかわしくない大きめの腕輪がついていた。
「ええと……」
不思議と敵ではないことが感じられるものの、なんと声をかけていいかわからず戸惑う。
「あ、そっか。まだ自己紹介してないね、私はシルフィエ。風の使いで、この世界の楔の一つ」
風の使いは何となく分かる、所謂精霊のようなものだろう。しかしこの世界の楔とはなんだろうか。
「あ、ごめん、質問は後で聞くからまずは私のお願いを聞いてくれない?」
「お願い?」
「うん、私と契約を交わして欲しいの」
「契約……交わすとどうなるの?」
「細かい話は面倒だから省くけど、要は私がアナタの味方になることを許してください、ってことかな?」
「味方……」
日中の戦闘であの強力なモンスターを一撃で屠った風の使いが味方になるというのはとても心強い、のだが……
「あ、もしかして疑ってる?こればっかりは信じてもらわないとダメなんだけど……まぁ多分アナタに選択肢はないよ?」
「どういうこと?」
穏やかじゃない物言いに表情が険しくなる。
「やだな、そんな怖い顔しないでよ。アナタってこの世界に連れて来られた人でしょ?」
「知ってるのか!?」
「私を呼び出せるのは霊王の使いだけのはずだからね」
霊王……とはおそらくあの神(仮)のことだろう。
「私の使命は霊王の使いであるアナタの力になり、世界の崩壊を防ぐこと。つまり目的は同じなのよ」
「もしかして俺に課される使命ってのも」
「そう、私や他の使いに伝えられるわ。だから契約してくれないと話が進まないのよね」
なるほど、そういうことならば契約しても大丈夫だろうか。
「わかった、契約しよう」
「そうこなくちゃ、じゃあ立って」
そうして手を引かれるままに部屋の中央へ立つ。
シルフィエが何か聞き取れない声で唱えると、足元に緑色の陣が描かれていく。
そしてシルフィエが手を取り、そこに口付けをするとなにかが繋がったような感じがした。
「はい、これで契約は終わり。これで私とアナタはいつでも一緒」
「いつでも?」
「そう、いつでも。基本的にはアナタの中にもいれるし、こうやって実体化して傍にいることも出来る、人間でいうところの魔力で繋がってるから力の受け渡しもできるよ」
よくわからないな、というのが顔に出ていたのかシルフィエは微笑んで言った。
「まぁずっと一緒にいるんだしゆっくり教えていくよ」
「そっか、よろしく。シルフィエ、俺のことは村正って呼んでくれ」
「わかった、よろしくねムラマサ」
この日は他に誰も帰ってこなかった。
そのおかげで色々とあったといえばあったのだが……またそれは別の話。
ひとまずは保護観察を抜け出し、使命への手がかりを得た事を喜ぼう。
いったい何があったんですかねぇ
明日はこちら側の更新はナシです。
何のことかわからない方も居るでしょうが何ともいえないのでご了承下さい。




