何も覚えてないの!
あぁ、昨日は楽しくてつい飲み過ぎちゃったわ。
自分のペースで飲んでたらあれ位全然平気なのに、かれんのペースに巻き込まれて飲んでたから昨日の記憶がちょいちょい抜けてる。
「あー、頭痛い」
もう! 服のままメイクも落とさずそのままベッドに倒れ込んだのね。鏡を見たら酷い顔! えっ!? 膝擦りむいてるし?
てか、……どうやって私、家に着いたのかしら?
私は必死に昨日の記憶を辿った。
かれんの恋バナ、と言うか浮気してた彼氏の愚痴を散々聞かされてたのまでは覚えてるのよね。
後は、……っ! 成田くん居たわよね? なんで?
私、成田くんに事務所所属おめでとうって……っ!
成田くん、蓮さまと同じ事務所になったって言ったわよね? うん、言った言った!! 凄〜い!! 今度会った時改めておめでとうって言おう♪
…………あれ? そこから全っ然思い出せないわ。
この足の擦り傷は多分帰り道転んだのよね。ドジだなぁ、でもまぁお店駅前だったし目を瞑っても帰れるか!
まだ朝の八時だし、もうちょっと寝よ。
※
もうちょっとのつもりが、目が覚めたら昼過ぎだった。まぁ休みだし一日中寝ててもいいけど、とりあえずお風呂沸かしてゆっくり浸かろう。
冷蔵庫からミネラルウォーターとさけるチーズを取り出して、お風呂が沸くまでスマホを見ながら待つ。
あ、かれんからメッセージが届いてる!
『おはよー、昨日無事だった?』
『私、愚痴言って途中で寝ちゃったから今度は楽しく飲もうよ!』
『今日は夕方からだからもうちょい寝るわ』
と、パンダがよだれを垂らして寝ているスタンプが送られて来ていた。
『仕事頑張って!』
『休みが合う日にまた飲もうねー♪』
私もパンダが頑張れーって言ってるスタンプを送った。嬉しいなー、飲み友達も出来たし、成田くんも蓮さまと同じ事務所だって分かったし! ふふっ、いつかは共演とかしないかなぁ? 推し活も更に充実しそうだわ♡
※
ゆっくりお風呂に浸かって体を温める。ちょっと擦りむいた所が沁みるけどね。
それから蓮さま主演の今期アニメをサブスクで見ながら昨日サボったお肌の手入れをする。
蓮さまの演じる今回のキャラはバンパイアで、可愛い女の子から綺麗系のお姉さん、真面目な眼鏡っ子にヤンキー姉さんと四人の巨乳の女の子に囲まれるハーレムラブコメ。四人の女の子を担当する声優さんは、今売り出し中のアイドル声優ユニットだから完全に引き立て役よね?
毎話担当回の女の子とイチャイチャするもんだから、両方のファンのネット民はもう大騒ぎよ!
あー、私も蓮さまに血を吸われてみたい〜♡
もう今日は一日中家でまったり過ごそう。とりあえずお腹空いたからパンを焼いてコーヒーを飲んで、夜はもうデリバリーでいいわよね?
ソファーで横になりながらスマホのマンガアプリで連載中の少女マンガを読んでたら、あっという間に夕方になった。やっぱ昼過ぎに起きると一日早いわ!
ピロン♪
すると通知音が鳴りメッセージと画像が届いた。かれんからだ!
『歩夢のヤツ、首筋に絆創膏つけて怪しーんですけど?』
『問い詰めても顔真っ赤にしてしらばっくれるし』
『もしかしてあの後二人、……ヤッたの?』
……っっっ!!??
画像はヤクザ店長に羽交締めにされた成田くんの首筋が写されていた。
えーーっっ!? ヤッてない、ヤッてない、……わよね? うん、だって私、服着たまま寝てたし! 万が一してたとしたら起きた時隣に居るでしょ?
『してないからっ!!』
『服着たまま寝てたし!』
『今から行く!!!』
記憶が無いから怖いけど、部屋には絶対入れてないハズ! それに成田くんは酔った私を襲う様な事しないもん!
私は慌てて服を着替え、軽くメイクをしてコンビニへ急いだ。
※
「いらっしゃいま……っ!!」
首筋に絆創膏をつけた成田くんくんがレジで私を見るなり、みるみる顔が赤くなった。えーっ、そのリアクションは私、何かやらかしたの?
すると奥の部屋からかれんが出て来て、
「いづみんさぁー、正直に言って! 昨日あれから歩夢と何があったの? コイツ全然口割らないんですけど?」
下を向いたまま、耳まで赤くしている成田くんを指差しかれんはニヤニヤしている。
「ごめんなさいっ! 実は記憶が曖昧で……、どーやって家に帰ったのか分からなくて……、もしかして成田くん、私の部屋まで、……その、ベッドまで運んでくれたの?」
すると成田くんはあたふたしながら否定した。
「入ってません! 入る訳無いじゃないですかっ! あれからタクシーに乗ってコンビニの前でかれんさんと別れて……
「えっ、だってあのお店駅前でしょ? それなのにタクシー乗ったの?」
かれんと成田くん、二人して頭を抱えてるわ。
「そっ、……その後私、ちゃんと帰れたのよね? だって起きたらベッドに居たもん!」
「いえ、コンビニ前で別れた途端に転んで……」
あっ、その時の擦り傷だったんだ!
「鈴森さんがしゃがみ込んで両手を広げて『おんぶして』って言うので……」
……っっ!! なっ、何言ってんの私っ!?
「いづみんマジウケるっ! んで歩夢はおんぶしたんだ?」
かれんは笑いながら成田くんの頭を突っついた。
「はい。……足も擦りむいてたし、その、……あんな可愛い顔で言われたらするしか無いじゃないですかっ?」
今度は私が耳まで赤くなってるわ! もう恥ずかし過ぎる〜っ!!
「それで部屋の前まで送って帰りました。それだけです」
「ほっ、良かった! 成田くんは将来有望な新人声優なんだから、酔った私に変な事する訳ないもんね!」
するとかれんは首筋を指差して、
「それじゃこれはどーしたんだよ? 昨日はそんな所に絆創膏つけて無かったじゃん?」
「これは、……その、帰る途中に転んで……」
「転んでそこだけケガする訳ねーだろ? いーから取って見せてみ!」
嫌がる成田くんを振り切り首元に手を伸ばした。ちょっと二人共っ、レジで何取っ組み合ってるのよ!
「あっっ!!」
一瞬の隙をついてかれんが絆創膏を剥がした。
そこには、……クッキリとした歯形と吸い付いた後が……。
「成田くん、これってもしかして、……私?」
「…………はい」
二人で顔を赤くしているのを見てかれんは腹を抱えて笑っていた。
「あはははっ、ははははっ! あー可笑しい! いづみん覚えて無いのーっ?」
「ごめんなさい成田くんっ、全然覚えて無いの!」
「ウケるー♪ いづみん欲求不満なんじゃね? 歩夢ぅ、お前相手してやんなよっ♡」
「違うんです! 帰り道、おぶってる最中に鈴森さんはその、……三上先輩の主演のアニメ『ラブ・バンパイア』の吸血鬼の真似をして噛みついただけで、……決していやらしい事するつもりじゃ無かったんです!」
何やってんの私ぃーーっっ!! 酔っ払って記憶が無いとは言え酷過ぎるーっ!!
「ごめんなさい。おんぶまでしてもらった上に、成田くんの善意の行動を踏みにじる様な事をして、……本当にごめんなさい」
私は恥ずかしさと情けなさでいたたまれなくなり、頭を下げて九十度に体を折り曲げた。
「いいんですよ、頭を上げて下さい鈴森さん。ビックリしたけど俺、鏡見て笑っちゃいましたもん!」
「それじゃ私の気が済まないわ! せめてご飯位奢らせて!」
「うーん、それじゃあと一時間で俺上がるんで、今度はアルコール抜きでお願いします」
笑いながら許してくれた。それを見て更に笑いが止まらないかれんは成田くんの肩を叩いて、
「良かったな歩夢っ、いづみんと二人っきりでご飯食べに行けるなんて結果オーライじゃん! その後もしかしたら本当のキスマークつけて貰えるかもよー♪」
「なっ、何言ってるの!? そんな事する訳無いでしょ? 私は成田くんのファン第一号なのよ! ……って話はした?」
成田くんは『その話も覚えて無いんですかぁ〜?』なんて言って肩を落としてしまった。
お酒は自分のペースで程々に飲まないと駄目だと、改めて思い知ったのでした。




