成田くんと二人でご飯
「お待たせしました!」
「……それじゃ、行こっか」
ニヤけ顔のかれんに見送られ私達はコンビニを出て駅前へ歩いて行った。今日は一日中家にこもるつもりが思わぬ展開になってしまったわ。
「あの、……鈴森さん」
「ん、……何、成田くん?」
「本当に気にしないで下さいね、俺、全然平気ですから!」
「駄目よ! 明日とか声優のお仕事入って無いの? 新人なのにそんな所に絆創膏貼って現場行ったら変な目で見られちゃうよ」
「でも可愛いかったなー、鈴森さん。普段と全然違うんですもん、ギャップ萌えですよ! あれは反則です!」
「なっ、何言ってるのよ! 恥ずかしい〜」
イタズラっぽい顔で微笑んでくれて、少しだけ罪悪感が和らいだ。
「もうっ、今日は遠慮しないでお寿司でも焼き肉でも好きな物思いっきり食べてよ! 何食べたい?」
「それじゃ遠慮なく食べますよ! 焼き肉でもいいですか?」
「うん! えへへ、実は私が行きたかったの! 一人じゃ行くのハードル高いから中々行けないのよねー♪」
「あっっ、すっ、鈴森さんっ!?」
「あっ、ごめんっ!」
無意識のうちに成田くんの腕を組んでしまった!
顔を赤くする成田くんを見て私まで恥ずかしくなってしまった。でもなんか可愛い♡
※
「それじゃ遠慮なく、いただきまーす!」
「はーい、いっぱい食べて食べてー♪」
ちょうど個室の座敷が空いていたので、ここならゆっくり落ち着いて食べられそうだわ。
私は焼き肉奉行と化し、次々とお肉を焼いていく。
凄い勢いで食べていく成田くんを見てるとこっちまで嬉しくなっちゃう。勿論私も頃合いを見計らってはつまんでいる。
「ねぇ成田くん、実は私ね、昨日成田くんが来るか来ないかって位から記憶が飛び飛びなの。正直に言って、他に何か変な事しなかった?」
気になっていたので聞いてみたら成田くんの箸が止まりみるみると顔が赤くなった。分かりやすいよー、もうっ何やったの私?
「いえ、変な事はしてません。俺の事いっぱい褒めてくれて嬉しかったです」
あー、だから顔赤くなったのね。とりあえず変な事はしてないのが分かり、安心してお肉を頬張った。
※
「はぁ〜っ、腹一杯です! ご馳走様でした!」
結構食べたわね。私もなんだかんだ摘んでたらお腹いっぱいになっちゃった。と、言いながらもデザートのアイスは頼むんだけどね。
「それよりも聞いて下さい鈴森さん! 今朝事務所から連絡があったんですけど、俺、オーディションに受かって初めて名前のある役貰えたんです!」
「えーっ、おめでとう! これで声優として一歩踏み出せたわね!」
私達はウーロン茶のグラスを手に取り乾杯をした。
「作品名はまだ言えないんですけど、バディ物で主役が三上先輩で、俺はその相棒役なんです!」
「えっ、いきなり蓮さまと共演なの? しかも相棒役だなんて! 嘘っ、もう私夢が叶っちゃったわ!!
その作品がヒットしたら一躍人気声優になるわよ! だって成田くん、声だけじゃなくルックスも良いから世間がほっとかないわ! あー楽しみがまた一つ増えたー!」
「俺も憧れの三上先輩と二人で主役をやるなんて思ってもいなかったから、正直ビビってます。でも憧れだった人と共演出来て光栄だし、吸収できる事があれば全て吸収したいと思ってます」
「成田くん……」
少しだけ顔が強張っているけれどその真剣な眼差しは、この作品にかける思いや覚悟がひしひしと感じられて、ドキッとする程良い顔をしていた。
「だから三上先輩だけじゃなく、俺の事もちゃんと見て下さいね! だって鈴森さんは俺のファン第一号なんだから!」
「あ、当たり前じゃない! 蓮さまは私なんか居なくたって全然平気だけど、成田くんにはまだ私しか居ないんだもん全力で応援するわ!」
私は向かいの席から成田くんの隣に座って両手を包む様に握った。
「すっ、鈴森さんっ!?」
「ふふっ、成田くんがこの先上手くいく様におまじないしてあげる」
私は握ったその手を自分のおでこに当て、目を閉じてお祈りをした。
「成田くんが上手くやれますように……」
「鈴森……さん」
「はい、これで絶対上手くいくわ! 小さい頃、緊張しぃだった私にママが良くやってくれたの♪」
「ありがとうございます! なんか不安だった気持ちがすーっと楽になりました!」
それじゃ後は……、
「ねぇ、……成田くん、ちょっと見られてるの恥ずかしいから目、閉じて」
「えっっ!? …………はい」
私は首に手を当てて、キスマークがついてしまった所に下地を塗りコンシーラーとパウダーで仕上げる。
「はいっ、出来た!」
「…………鈴森さん?」
私は鏡を取り出して成田くんに首元を見せた。
「あっ、……目立たなくなってる!」
「でしょ♪ これなら現場に行っても変に思われないんじゃないかな? やり方教えるからとりあえずキスマークが消えるまでこれ使って!」
すると成田くんは大きく息を吐いてとんでもない事を言った。
「はぁ〜っ、なーんだ。いきなり手を握って来て目を閉じてとか言うからまたキスしてくれるのかと期待しちゃいましたよ。あはは」
「え!? ……ちょ、ちょっと!? またって何? 私っ、成田くんにキ、キスしちゃったの?」
「あっ、……ヤバっ!」
成田くんは慌てて手で口を塞いだ。
みるみると顔が熱くなった。本当何やってんのよ私っ、噛み付くだけじゃなく本当にキスまでっ!
「流石にかれんさんの前では言えませんでしたけどね。あっ、でも口じゃなくて頬っぺに軽くちゅって感じですけどね、あはは♪」
ホッ…………じゃないわよ! 口じゃなくてもそんなの絶対駄目でしょ? 私は成田くんに向かって正座をして、三つ指をついて深々と頭を下げた。
「やめて下さいよ! むしろご褒美だと思ってますから!」
「そんな訳無いでしょ? 知り合ったばかりのこんな年上の酔っ払いにキスされて嬉しいはず無いじゃない! 本当ごめんなさい!!」
「もうっ、いいから頭を上げて下さいっ!!」
「でもっ、でもっ!! ……あぁっっ!?」
成田くんは私を抱き抱え無理矢理体を起こした。
「それじゃ、……これでおあいこって事で」
「えっ!?」
そしてそのまま私の頬に優しくキスをした。
「…………成田……くん」
「この位の軽いヤツだったんです。だからもうこの話は終わりにしましょう」
そんな事言っても成田くんは茹でダコかって位顔が真っ赤になってる。私の罪悪感を消すためによっぽど無理してくれたんだろうなぁ。
「ありがと、成田くん。私、応援する位しか出来ないけど、もし力になれる様な事があったら何でも言ってね」
「はい。それじゃまた俺とご飯行って下さい。それだけでめっちゃ元気出るんで!」
※
その後私達はデザートのアイスを食べて、たわいもない話をしているとまだ連絡先を交換してない事に気がつき、
「なんか飲みに行ったり、こうして二人でご飯も食べてるのに連絡先知らなかったなんて可笑しいわね♪」
「でも、こんなに話をしたの昨日が初めてだったんですよ」
そうだった! 昨日までは成田くんの事何も知らなかったんだわ。かれんのおかげでプロフィール的な事は知れたけど。あぁ、もっとお話しして成田くんの事知りたいな。そしたら……、
「俺、もっと鈴森さんの事が知りたいです。だから休みの日や空いてる時間、また俺と会って貰えませんか?」
真剣な眼差しで、力強い声でそんな事言われたら頷くしかないじゃない? あーやっぱり私、成田くんの声好きだわ♡
「ふふっ、今ね、私も同じ事考えてたんだ。成田くんの事もっと知りたいって! だって私、成田くんのファン第一号だもん♪」
隣にコンビニが出来ただけなのに、この一ヶ月で平凡だった私の生活が劇的に変化した。
私にとっての推しは、遠くから見守るだけの神の様な存在だったのに、推しが近くに居るってこんなに楽しい事だったんだ!
第一章 終わり




