最終章 この先の二人……。
そして季節はあっという間に春になり、歩夢くんのお仕事は益々忙しくなっていった。
『バディーズ』の人気が止まらない! 放送終了してワンクール経つのに今冬アニメよりも未だに話題になっている。
そんな事もあり、二期も決まって急ピッチで制作が進められているらしい。
そして一番驚いたのは歩夢くん個人のラジオで初の冠番組がスタートした!
アニラジとかじゃなく一人喋りなんて出来るの? なんて思ってたけどゆみちゃんを筆頭に名だたるメール職人達に助けられて、大事故にはならずになんとかやれている。実は慣れて来たらこれが一番心配、間違っても私の事とか口走らないでね!
春アニメも主演作は評判も上々で、この先夏、秋も主演作があるみたい。正にノリに乗ってるとはこの事を言うのね。
蓮さまは、春に事務所を退所して新たに個人事務所を立ち上げた。そしてその事務所の社長はなんと小石川乙葉!!
かねてから何度も噂になっていたけど、結婚してたなんて! 私も歩夢くんから聞いた時は結構驚いたけど、それより驚いたのは蓮さまガチ勢も乙葉さんなら仕方ないわよね、と言う驚きの歓迎ムードだった。
そんなだから今、声優業界は熱い! と、私達みたいな界隈ではとても盛り上がっている。
そして私はと言うと、ゆみちゃんがバンド活動を本格的に始める事で出勤が減り、新しくバイトを雇った。
ゆみちゃんと比べるのは失礼なのは分かるけど、覚えが悪いし愛想もあまり良くない。改めてゆみちゃんがこのお店に欠かせない人だと思い知ったわ。
でも、その新人さん……里菜ちゃんもアニメが大好きで、……だから採用したってのもあるんだけど(笑)だってそーでしょ? 一日中一緒に顔合わせて仕事するなら、共通の趣味がある人の方が楽しく働けるじゃない? だから里菜ちゃんがもう少し慣れてくれるのを待つしか無いわ。
そしてそんな里菜ちゃん、最近歩夢くんが気になってるみたい。この前里菜ちゃんの最推しの梅村遥斗くんのライバル役を演じたのがキッカケみたい。何かにつけて私に歩夢くんの事を聞いて来る様になった。
あ、勿論付き合ってるなんて言ってないし、歩夢くんは私の最推しって事にしている。蓮さまゴメンなさい。
まぁ私の仕事の事は置いといて、肝心の私達の関係は……、あんなに忙しいのにも関わらず歩夢くんは最低でも一週間に一度は私に会いに来てくれて、私の料理の上達ぶりを褒めてくれる。食べてすぐに帰っちゃう日もあるし、お泊まりする日も勿論ある。
流石に初めての時みたいに何度もするって事は無くなったけど、とても愛されてるのが伝わって来るし、あの優しい声で素直な気持ちを言葉にして言ってくれる。
なのに私はもっと一緒に居たいと別れ際にいつも歩夢くんを困らせてしまう。年上なのに駄目だなぁ……。それでもそんな私も可愛いとか言って宥められてしまい、なんかすっかり私の方がメロメロにされてしまっている。
本当なら二人でもっと遊びに行きたいし、たまには美味しい食事を食べにも行きたい!
でも、今、歩夢くんは声優界で確固たる地位を築いてる真っ最中だし、それも現実になりそうな勢いだ。
……私、なんか歩夢くんの迷惑になってないかな?
今、私の様な存在が居る事が世間にバレて人気が落ちたらどうしよう? なんて思う反面、そこそこの人気で生活出来る位の仕事があればもっと一緒に居られるなんて酷い事も考えてしまう。
彼女としては失格、だよね? 彼の夢を一番に応援してあげたいのに……。
「…………づみさん、いづみさん? 聞いてる?」
「あっ、……ごめん、ボーッとしてた」
歩夢くん、いつの間にシャワー浴びて出て来てたの? それさえ気付いてないなんて……。
「なんか最近元気ないね? ……最近入った子と上手くいってないの?」
「うぅん、全然! 不器用で覚えもあまり良くないけど全然平気! なんか最近歩夢くんの事が気になるみたいで色々聞いて来るし、その内歩夢くんに推し変するんじゃないの? ふふっ♪」
「そ、それならいーけど。いづみさんは推し変しないで俺だけ見ててよ!」
そう言って優しく唇を重ねて来た。なんか最近色気も出て来て、二人で居る時はすっかり歩夢くんに主導権を握られてしまっている。
「お互い言いたい事言える関係だけは続けていこうよ」
最近の私を見て歩夢くんも何か思う事があったのね。こんな事言うの恥ずかしいけど、今の私の気持ちを歩夢くんにぶつけてみた。
「……ごめんね、何か最近歩夢くんが益々男らしくなって、カッコよくて、もう私ばっかり好きになってんじゃないかって、その内私なんか飽きて他のもっと愛想が良くて可愛い子の所に行っちゃうんじゃないかって不安になるの。私、そんな事思うタイプじゃないと思ってたのに、……もう、本当自己嫌悪だわ」
言っちゃった!
…………歩夢くん?
何も言ってくれないの? ……幻滅しちゃった?
こんな事言わなきゃ良かった! 言ったら余計に胸が締め付けられ惨めな気持ちになってしまった。
すると、
歩夢くんは何も言わずに暫く私を強く抱きしめて、恥ずかしそうに耳元で囁いた。
「……そんなの、俺、いづみさんと付き合う事になってからずっと思ってましたよ。
俺ばっかり好きなんじゃないかとか、会う時間が少ないからもっと他にいづみさんだけ見てくれる男に取られちゃうんじゃないかって! 年下だけど俺だって男だし、いづみさんの前ではカッコつけたいから言えなかったんですよ!
あーでも良かった! いづみさん、俺の事大好きじゃん♪」
子供の様な無邪気な笑顔で私の顔を覗き込んで来た! やめて! 恥ずかしいよぉ〜!!
「ふふふっ、同じ事考えてたのね! なんかバカみたい! どっちの方が好きとか関係無いよね? 今、こうして一緒に居る時間を大切にしたいのに」
「でも、しょうがないよ。職種も時間帯も違うから不安に思う時間の方が長いもん。だからさ……」
ん、……今、何て言ったの?
「俺達、……そろそろ一緒に住まない? 勿論ここでも良いし、二人で新しく探すのもいーし」
嬉しい! そもそも歩夢くんと一緒に住む為に料理を上手くなりたいって思ってたんだもん!
「うん! そろそろ、いーよね。私達♡」
私は歩夢くんの胸に飛び込んだ! 少しよろけながらも私を抱きしめて……、
「それで、……一緒に住むのならもう俺達、…………結婚しない?」
えっ、えぇ〜〜っっ!??
驚いて顔を上げると歩夢くんは茹でダコの様に顔を赤くして目を閉じていた。




