予想外の展開!?
「……実は私、自分が声優とか全然興味ないの。だって顔や体映らないんだもん。じゃあなんでこの仕事引き受けたかって言うと……、この前見た特番で歩夢さんの声と顔に一目惚れしちゃったから! ……ねぇ、ここまで言ったらもう分かるよね?」
そう言って舐める様な目付きで俺の体にもたれかかって来た!
ヤバい! いくら鈍感な俺でも分かる! これは誘っている! 影山さんの言ってた通りになってしまった! 彼女から漂う甘い香りが俺の脳内を刺激する。
腕にあの豊かな柔らかいモノが押し付けられて……、ヤバいぞ! 休み中あれだけいづみさんとしたのにまた元気になって来た!
「……歩夢さん、これからウチ、来ます?」
その言葉を聞いたら、逆に冷静になる事が出来た。
俺にはいづみさんが居るんだ! 彼女を悲しませる事なんて出来ない!
「…………小日向さん。俺、そーゆーのは好きな人としかしないから。君が練習するって言うから付き合おうって思ったのに、違う目的で俺をここに誘ったのならこれで帰るよ、ごめん」
「えっ、……なんでっ!?」
俺はもたれかかっていた彼女の体から離れ、向かい側の席に座った。
「確かに声優は顔や体はスクリーンには映らないけど、その分色々な役に自分の声を当てはめれば何にだってなれるんだよ! 俺はこの先も自分の声で感動やときめき、興奮をみんなに届けたい! だから良い作品を作る為に協力はするけど、そうじゃ無いならもうここには用は無いよ。それに俺、心に決めた人が居るから! 君は魅力的だけどそういう関係になるつもりは無いから!」
すると、小日向さんはさっきまでのエロモードから一転して、
「あ〜ぁ、なぁ〜んだ。もっと歩夢さんってチョロくて軽い感じだと思ったなになぁ〜? まっ、のんが迫っても断る位だからよっぽど好きなんだね、その人の事。……それじゃもうこの仕事やる意味無いじゃん! 分かったわよ、ごめんね〜、今日の事は忘れて! それじゃ!」
そう言って小日向さんはすっと立ち上がり背を向け手を振り部屋を出て行った。
……なんだ? これってもしかして練習する気なんて最初から無くて俺を誘ってたのか?
俺は呆気に取られて暫くの間閉まった扉を茫然と眺めていた。
良かった! 手を出さなくて! いづみさんとして無かったらマジでどうなってたか分からなかったぞ、既にギンギンになってたし!!
あぁ、いづみさんに会いたくなっちゃったな。
※
〜次の日〜
スタジオに行くと朝から何やら騒がしい。
「おはよ、夏希、なんかバタついてんな、何かあったのか?」
「それはこっちが聞きたいわよ! 歩夢、昨日小日向さんと練習してたのよね? 本当に練習した? 変な事してたんじゃ無いわよね?」
夏希は俺を見るなり詰め寄って来た。練習なんてほとんどして無いんだよなー。
「なっ、なんだよ? それがどーかしたのか?」
「今日になって突然彼女、役降りるって!
……まぁ元からやる気無さそうだったからそんな気もしたんだけどねー、それより歩夢、昨日どーだったの?」
マジか!? だとしたら本当この仕事舐めてるよな! 俺は煮え繰り返る気持ちを押し殺して昨日の出来事を夏樹に小声で話した。それを聞いてかなり驚いてはいたけど逆に手を出さなかった事を褒められた。
「偉い! 私が男だったら絶対泊まりに行ってたわ! 歩夢カッコイイよ! 惚れちゃいそう♡」
「夏希に惚れられても困るし! だって俺達は同期の心を許せるライバルだからな! ……それよりどうなるんだ、メインの役だぞ? 今からオーディションするのかな?」
辞めるのは想定外だったから俺にも多少罪悪感はある。だけどあんな中途半端な気持ちで演られて、俺と夏希の初めての映画の主演を台無しにされるのは我慢ならない。口数が多いヒロインじゃないのが唯一の救いだけど撮影日が延びるのは確実だな。
んー、年明けから波乱の展開だなぁ。
そこへスタッフさんがやって来て、
「それじゃそろそろ始めますので、成田さん、桑原さんお願いしま〜す!」
「とりあえず俺達二人のセリフ部分は終わらせて別撮りって感じなのかな?」
「歩夢……私っ、この映画絶対成功させたい! 私はフラれる役だけど、みんなに絶対私の事を選んで欲しいって思わせてやるんだから!」
「『私』じゃなくて『美雨』だろ? 俺も『美雨』と『美亜』、それに初恋のお姉さん『凪沙』、誰を選んでも納得して貰える演技をするよ、それじゃないと選ばれなかった子が可哀想だからな」
すると夏希は寂しそうな顔をしてボソッと言った。
「私、台本貰って読んだ時から感動して手が震えたのよ! 小日向さんにはそういう気持ち無かったのかな? ちょっと残念だわ」
「しょうがないよ、人それぞれだろ? 少なくとも俺は夏希と一緒だせ! 俺も台本読み終わって泣いちゃったからなー!」
「ふふふ、泣き虫!」
「お互い様だろっ!?」
俺達はグータッチをしてアフレコスタジオに入っていった。するとそこには……、
「遅〜ぃ! 二人とも!! 先輩待たせるなんて流石主役のお二人さんね♪」
この時間は小日向さんが居ないから俺と夏希だけのハズなのに……っ!!
「こっ、小石川さんっ!? もう昨日で出番終わってますよね!?」
ブースにはなんと小石川さんか既にスタンバッていた。
「あははは、実は私、元から『凪沙』と『美亜』、二役やる予定だったのよ! なのに、何故か急遽小日向さん? が演る事になって……、まぁ大人の事情でしょ? 今回の役降りで責任取った人と関係でもあったんじゃない? まぁ知らんけどぉ〜? おかげで本当に演りたかった『美亜』が演れるから私としてはラッキーなんだけどね! 歩夢くん、覚悟しなよぉ〜、メロメロにしちゃうからねぇ〜♡」
すかさず夏希は小石川さんに抱きついて、
「私も『美亜』に負けない位メロメロにするんで! 小石川さんが『美亜』で嬉しいですっ!」
「んー、夏希は可愛いなぁ♡ 昨日の新年会で大分遠慮がなくなったわねぇ〜♪」
「二人にそこまで言われたら『翔太』としてはもっと惚れさせる演技をしないとだよな! 小石川さんっ、最高の『美亜』宜しくお願いしますっ!!」
「おぉっ、言うねぇ〜歩夢くん! 流石蓮が目を掛けるだけあるわね!」
不安材料だった小日向さんが居なくなった現場は、流石の小石川さんと言うべきか、ヒロインを完璧にこなして、俺や夏希も納得のいく演技が出来て、とても充実した一日になった。
※
「はーい、OKです! 今日はここまでです。お疲れ様でしたぁ〜!!」
ディレクターさんの一声でスタッフから自然と拍手が飛び交う。皆が『この映画はイケる!』と手応えを掴んだのだろう。
「お疲れ様でしたぁ〜! 小石川さんっ、もう私っ、『美亜』に惚れちゃいました!」
「お疲れ〜♪ 私が『翔太』なら夏希の演じた『美雨』の方を選んでるわよ! それ位気持ちが伝わって来たわ!」
「小石川さんにそんな事言って貰えるなんて! もう死んでもいい〜っ!!!」
……死んだら駄目だろ? でも憧れの先輩とヒロインを演じて認めて貰えたらめちゃくちゃ嬉しいよな、俺も前回蓮さんとやって同じ事思ったもんな!
「今日この後予定は? もし良かったらみんなでご飯でも行かない? 近くに良いお店あるんだけど?」
小石川さんのお誘いに首を横に振る理由なんて無い! 俺はチラリと影山さんを見ると影山さんも首を縦に振っている。……しかし夏希はこの世の終わりの様な表情で、
「……私、これから同期の子のインターネットラジオのゲストに呼ばれてるんです。次は何がなんでも行きますのでまた絶対誘ってください! てか私が誘いますっ!!」
涙目になって小石川さんにしがみついていた。
「大袈裟ねぇ〜、また誘ってあげるからそんな顔しないの! この先映画関連で一緒になる事増えるんだから!」
「それじゃ萌香、歩夢くん借りるわね〜♡ あっ、萌香も来る?」
「私は帰るわよ! 歩夢っ、乙葉は酒癖悪いからヤバいと思ったらすぐ帰るのよ、わかった?」
「そんな人一人で店に残さないでしょ? 俺の周り割と酒癖悪いから何とかなりますよー♪」
…………大丈夫、だよね?




