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小日向のぞみ


 「おはようございま〜す。小日向のぞみで〜すぅ、声のお仕事するのは初めてなんで宜しくお願いしま〜す♪」


 皆が一斉に彼女の方を見た。彼女は気にも止めずに歩夢達の元に近づくと、


 「成田歩夢さんに桑原夏希さんですよね? 今日は宜しくお願いしまぁ〜す! のん、アフレコとか分からないから迷惑かけちゃうかもだけど仲良くして下さいね♡」


 甘えた声で二人を、……と言うか歩夢の顔をじっと見つめて言った。


 「こちらこそ宜しく、小日向さん。俺達も新人だからまだ慣れないけど三人で協力して良い映画にしようよ!」

 「分からない事があったら言ってね、なるべくフォローするから!」

 「ありがとぅ! のん、人見知りだから優しそうな人達で良かったです♪」


 そう言って歩夢の両手を掴んで喜びを爆発させている。あー、テレビで見てたのと同じでスキンシップが半端ないわ。歩夢もデレデレしてるし!


 そこへ丁度良いタイミングでスタッフがやって来て、


 「おはようございます! 間もなくリハに入りますのでAスタに集合して下さい! それでは皆さん今日から宜しくお願いしまーす!」


 「それじゃ行こっか、小日向さん。初日なんてみんな緊張してるんだからさ、楽しんで行こうよ!」

 「そーよ、こう見えて私だって結構緊張してるんだから!」

 「はいっ、ありがとうございます! 二人が居てくれるからのん、ちょっと気持ちが楽になりました♪」



 ……ここで必殺の上目遣いね、でも歩夢にはまるで効いてないみたいだけど。

 歩夢達が部屋から出て行き私は暫く時間が空く。今のところは場の雰囲気も良いしすんなりと終われば良いけど……。





 ※





 歩夢は勿論だけど桑原さんも相当台本を読み込んで来てるらしく、リハの段階でほぼディレクターの思う演技が出来ていた。しかし……、



 「小日向さん、……別撮りしよっか。このままじゃ全然進まないよ」



 声優未経験だからと言っても流石に酷い。台本もあまり読み込んで来てないのが分かるし、本人も不貞腐れて来た。



 「……う〜ん、ちょっと休憩しよっか」



 ディレクターもお手上げと言った表情で一旦休憩となった。



 「もぉ〜、全然出来ないよぉ、だから声の仕事なんてやりたくなかったのにぃ〜!」


 休憩室でグズっている小日向さんに歩夢と桑原さんが近づいて……、



 「そんな事言わないでさ、少しずつで良いから感覚掴んでこ、初めてなんだからしょうがないし。な?」

 「えぇ、いきなり私達と同じになんて出来たら逆にこっちが落ち込むわよ。元気出して頑張ろ!」



 二人に声を掛けられて涙目になった小日向さんは、



 「ありがとうございます。のん、みんなに迷惑かけてるんじゃ無いかって思うと余計焦っちゃって……」


 そう言って歩夢の手を握って来た。


 「迷惑とか誰も思って無いよ! とりあえずディレクターの言う通りやって少しずつ進めて行こう!」





 ※




 その後何度もリテイクを重ねてなんとか一日目が終わった。


 「お疲れ〜、よく頑張ったね! 午前と比べたら大分良くなったんじゃない?」

 「この調子で行けばなんとかなるわよ、明日も頑張ろ!」


 二人から声を掛けられて安堵の表情を浮かべているが正直な所、ディレクターは全然満足していなさそうだ。


 「迷惑かけてごめんなさい。ほとんどの時間のんが取っちゃって……、みんな怒ってるよね?」

 「そんな事ないわよ! 小日向さんが未経験なのみんな分かってるから大丈夫!」


 「でもでもっ、……あっ、この後時間ありますか? のん、練習の仕方もよく分からないから教えて欲しいんですけど……」

 「良いよ、今日は仕事始めでこれだけだから練習しよっか? 夏希はどう?」

 「ごめん、私はこの後事務所の新年会があるの! 小石川さんも出るって言ってたからこれを機に仲良くなりたいなって!」

 


 桑原さんウッキウキね! ん? ……て事は歩夢、小日向さんと二人っきりよ?



 「夏希は本当に小石川さん好きだなぁ、じゃ、この近くにカラオケボックスがあるから少しだけ練習付き合うよ」

 「やったぁ〜! ありがとうございます♪」



 「歩夢っ、ちょっと来て!」



 こんな所で何かあったらたまったもんじゃないわ、小日向さんは私が見る限りやる気なんてまるで無さそうだし、歩夢に近づきたいだけなんじゃないの?



 「なんですか、影山さん? 俺、これから小日向さんとカラオケボックスで練習してから帰ります」

 「……歩夢、若い男女が二人っきりで何かあったらどーするのよ? 少しは考えなさいよっ!?」

 「だってこのまま進んで行っても上手くいかなさそうだし、アドバイス出来る事があればって……、やっぱり軽率でしたかね?」

 「気持ちは分かるけど……、小日向さんは歩夢の事狙ってそうなのよね、今何かあったら大変よ?」


 すると歩夢は自信に満ちた表情で私の肩に手を置き、


 「大丈夫です! だって俺にはいづみさんしか見えてませんから! いくら小日向さんが言い寄ってきても揺らぐなんてありえないです!」



 …………何? 今までは少し頼りない感じがしてたのにこの変わり様は? 



 ふーん、上手くやってるのね、今度彼女会う事があったらお礼位は言わないとね。


 「分かったわ、あなたの事信じてるから。でも、何かヤバい雰囲気になったらちゃんと逃げるのよ。これだけは約束して!」

 「はい、大丈夫です。俺がいづみさんを裏切る訳無いですから!」



 そう言って歩夢は私にウインクをして出て行った。心配し過ぎたかしら? でも、あそこまで断言されたら逆に小日向さんに同情するわ。





 ※





 〜成田歩夢視点〜



 小日向さんの練習に付き合う、と言うか練習のやり方を教えてあげないと明日以降も中々進まないよな。忙しそうだから台本も俺達よりは読み込んで来て無さそうだし……。


 「成田さん付き合ってくれてありがとうございます! あの……、二人の時は歩夢さんって呼んでも良いですか?」

 「んー、別にみんなの前でも呼んでいーけど? 割とみんな俺の事下の名前で呼んでるし」


 スタジオから徒歩五分の所にあるカラオケボックスに入り早速タブレットを開き、


 「最低限、先ずは映像に合わせて時間内にセリフを読み上げないとだからそこから始めてみよう」


 ……と、目線を上げると小日向さんはメニューを見て、


 「歩夢さん、とりあえず何か頼みません? のん、お腹空いちゃった♪」



 そうだよな、彼女は何回もリテイクしてたからほとんど休憩なかったし。そーゆー所だよ、俺は配慮が足りないんだよなぁ。


 俺達は飲み物、食べ物を注文した後とりあえず練習は置いておいて、彼女の事を知ろうと話に耳を傾けた。最近のバラエティ番組での事や、配信であったハプニングなど、流石は売れっ子インフルエンサーだけあって話が面白い。



 「それじゃ時間もあまり無いからそろそろ始めようか?」



 自分の言葉で喋る時はあんなに饒舌なのに台本があるとなると途端に辿々《たどたど》しくなる。


 「小日向さん、あまり難しく考えない方が良いよ。普段喋ってる感じでやれば全然良いと思うんだけどな?」

 「それは声優さんだから出来るんだよ! のんには難し過ぎるよぉ〜!」



 今まで周りは俺より上手い人ばかりだったから気にもしなかったけど、やっぱりアフレコでいきなりは難しいんだな。そんな事も分かってやれなかった自分が情け無いよ。


 「ごめん、小日向さん。それじゃ俺が声優を目指してた時にやってた練習法……

 「もういい! 私は歩夢さんと二人でお話ししたかっただけだから! ねぇ、この後まだ時間ありますよね? 私、歩夢さんの事もっと知りたいな、……なんて♡」


 こっ、小日向さんっ!?


 さっきまでのフニャフニャした感じから妖艶な目付きで俺の両手を握って来た。


 「……実は私、自分が声優とか全然興味ないの。だって顔や体映らないんだもん。じゃあなんでこの仕事引き受けたかって言うと……、この前見た特番で歩夢さんの声と顔に一目惚れしちゃったから! ……ねぇ、ここまで言ったら分かるよね?」



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