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二人の幸せな時間


 「あっ、……この前来た時と全然違う!」

 「そりゃそーよ! かれんの荷物が全部無くなったんだから」


 ()()()の部屋に歩夢くんは興味津々の様でキョロキョロしながら周りを見ている。


 「前は結構ごちゃごちゃしてたけど、今はなんか広く感じますね。俺も荷物持って来ちゃおうかな?」

 「だーめ! せっかく元に戻ったんだから。それに目につく所にあまり物を置きたく無いの、部屋はシンプルなのが一番よ!」


 良かった! 実は旅行の前日、楽しみ過ぎて寝られなくなったから部屋の大掃除してたのよね!


 「こんな突然来ても部屋綺麗にしてるんですね。俺なんか脱いだ服とかそのまま……あっ!?」

 「何? あっ、それは……っ!!」


 歩夢くんは蓮さまのグッズ……、アクスタやCD、ライブBDに関連グッズ、写真集などを綺麗に祭られた棚を見つけ、ひとつひとつ手に取っては私を冷たい目で見てる。


 「こんなコーナー、前来た時は無かったですよね? わざわざ作ったんだ。しかもこんな丁寧に、作品も時系列順に並べて……ふーん」

 「違うの! かれんが来る前まではこうだったの! あまりにも荷物が増えたから泣く泣くクローゼットに閉まってたのよ! ほら見て! 歩夢くんのコーナーもあるから!」


 歩夢くんは私が指差した机の上にある、蓮さまコーナーの十分の一程のスペースに置かれた自分の雑誌やアクスタを見て肩を落とした。


 「……悔しいけどこれが現実だよな。蓮さんに焼きもち焼いてる場合じゃないや」

 「そーよ! 来年にはもっとグッズが増えて専用の棚が出来る様にならないとね!」


 「だからってあんな綺麗に並べなくても……。そんなに蓮さんの事がいーんだ」

 「しょーがないでしょ? ずっと前から推して来たんだから! 蓮さまはただの推し、歩夢くんは最推しで私の大切な人、何か問題でもある?」


 納得いってないみたいだけどここは譲れないわ。今の私の楽しみは、この机一杯に歩夢くんのグッズが並ぶ事よ!

 

 私は髪を纏めてエプロンをしてキッチンに立った。


 「ご飯食べるならお米研ぐけどどーする?」

 「さっき餅買ったもんなぁー、鍋に入れて食べるからご飯はいらないや」


 忘れてた! お正月だからってお餅買ったんだった。私は野菜を洗い支度を始めると歩夢くんも隣にやって来た。


 「歩夢くんが初めてうちに来たあの時と一緒ね♪」


 するといきなり頬にキスをして、


 「あの時とは違うよ! ほら、こんな事してもいーんだから♪」

 「もうっ、包丁使うからいたずらしないの!」


 私が野菜を切り始めると、何をするでもなくニヤニヤしながら隣で見ている。まー、これと言ってやる事も無いけど。


 「……何よ?」

 「あぁー、ちゃんと自炊してたんだなって。あまりに自然過ぎてツッコミ所が無いよ、あはは」

 「そりゃ切ってるだけだからね、でも前はよくかれんに危なっかしいって言われてたわ」


 更に豆腐に豚バラ肉を切って後は鍋に入れるだけなので、結局歩夢くんはテーブルにカセットコンロを置き、お箸と取り皿をリビングへ運んで、後は隣で私を見ているだけだった。


 「なんか髪を上げてるいづみさん、俺好きだなぁ。あまり他の人には見せないでよ? 俺と居る時限定だからね」


 後ろから抱きしめて首筋に唇を押し当てて来た。優しい声でそんな事されたら……って!


 「ちょっと! 何興奮してるの!? もうご飯だから駄目だって!!」

 「いづみさんがいけないんだよ! エプロン姿で綺麗なうなじ見せられたら興奮するに決まってるじゃん!」


 逆ギレ!? エプロン姿って、……裸エプロンじゃあるまいし!


 「分かったわよ! でもとりあえず食べてあったまろ! 

 「う〜ん、……分かったよ」


 私に背中を押されて歩夢くんは渋々リビングのソファーに座る。

 

 「は〜いそれじゃ食べましょ!」


 鍋をコンロの上に置き蓋を開けると白い湯気が立ち込め、見るだけで食欲が湧いてくる。そして冷蔵庫からビールとグラスを持って来て、


 「はい、改めてあけましておめでとう! 今年も宜しくお願いします!」

 「おめでとういづみさん! いただきま〜す♪」


 歩夢くんと二人、熱々の鍋を囲みながらビールで乾杯なんて、なんて良い年明けなんだろう。


 「何ニヤニヤしてるの? 熱いけどめっちゃ美味いよ! 早く食べなよ、体もあったまるし!」

 「うん、いただきま〜す!」


 大好きな人が目の前で、私が作ったのを食べてるのを見てるだけで胸がいっぱいになる。


 「良かった。私ね、旅行が終われば暫くは会えないから凄く寂しかったの、帰りたくないなぁって。でもまだこうして一緒に居られてご飯も食べれるなんて!」

 「いづみさん、俺だってそうだよ! あのまま別れて帰るなんて……、出来れば毎日こうして二人でご飯食べたいよ!」

 「そうやって言葉にしてくれると照れ臭いけど、凄く嬉しい! 流石に今は難しいかもしれないけど、いつかそんな日が来るといーな♪」



 あー思い出した。確か付き合いたてのカップルってこんな感じだったわよね。この先もずっとこんな感じだったらなー♪


 私達は旅先での出来事や画像を見ながら振り返った。そして二人の今後についての事も……。


 「実はね、この春に蓮さん、事務所辞めて独立して新しい会社を作るんだ。これからは声優よりアーティスト活動をメインにやってくみたいでさ」

 「えっ、……そーなんだ、寂しくなるね。私は蓮さまがやりたい事をやる為の独立なら良い事だと思うけど」


 どんな事になっても私は応援するけどね! 歩夢くんには悪いと思うけど♪


 「その事があるから蓮さんは俺の事気にかけてくれてたんだ。早く一人前になってくれって」

 「あっ、だから影山さんは歩夢くんのマネージャーになったのね。ずっと蓮さまに付いてたのになんでだろうって思ってたの」

 「うん、だから会社の為にも俺、もっとしっかりしないと!」

 

 そーよね。歩夢くんが蓮さまの穴を埋めないとね。それじゃやっぱり会える時間は減っちゃうな……。


 「頑張ってね! 私もいつか二人で住める時までに、もっと料理出来る様にならないとね」

 「うん、先ずは年明け最初の映画のアフレコ頑張らないと! ラブコメって正直苦手なんだよなー」

 「三角関係だっけ? どんな演技するのか楽しみね! でも実際そんな事あったら許さないんだからねっ!」


 「ある訳ないじゃん! ……もう俺、いづみさんしか見えないから♡」


 そんな甘い声出して抱きついて来たら……、もう体が勝手に反応してしまう。私は歩夢くんの首に手を回し夢中でキスをした。


 「いづみさんっ! 俺も欲しいっ!!」





 そこから先は朝まで何度も何度も、…………私達は結ばれた。もう腰が砕けるんじゃないかって思ったわ! 暫く会えなくなるってのもあるし、付き合いたてのカップルなんてみんなそーよね? ね??





 そして私の年末年始休暇はあっという間に過ぎて、いつもの現実世界に連れ戻されてしまった。

 思い返すと、あれは夢なんじゃないかと思う程幸せな時を二人で過ごす事が出来た。


 歩夢くんが居るから私は頑張れる! 歩夢くんもそうだったらいいな。



 いつか一緒に住む時が来る日を夢見て……。

 



 第四章 終わり

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