そして年末、歩夢くんと温泉旅行!
「あーやっと終わったぁー!! なんだかんだで今年も忙しかったですねー! お手当ても弾んで貰わないとだよ、イヒヒ♪」
ゆみちゃんは大きく伸びをした後、入り口のシャッターを降ろした。今年の営業はこれで終了ね。
「ゆみちゃん、今年も一年間お疲れ様でした! 来年はバンド活動も忙しくなりそうだから、もしかしたら一緒に仕事納めをするのは今年が最後かもね」
「いづみちゃん……。私、いづみちゃんが居たからずっと働けたんだよ! 蓮さまの推し活だって一緒に出来たし! 来年は私達も勝負の年だと思ってるからお店に出る日は減っちゃうけど……」
いつも元気いっぱいなゆみちゃんが目に涙を溜めて私に抱きついて来た。
「うん、在籍はそのままにしておくから入れる日はいつでも言って! 私も絶対ライブ見に行くから! こうなったらお店にポスターだって貼っちゃうんだからねっ!!」
「もぅ〜っ! いづみちゃんっ、大好きっ♡」
「ふふっ、それじゃ初売りもお願いね! ゆみちゃんも良いお年を♪」
※
『終わったぁ〜! 今から帰るよ♪』
ゆみちゃんと改札で別れた後、すぐに歩夢くんにメッセを送った。ゆみちゃん達のバンドは明日、仲の良いバンド達と合同でカウントダウンライブをするんだって! 行けなくてごめんね。
街は年末休みに入ってるからか人がまばらだ。いつもは座れない電車も余裕で座る事が出来た。スーツ姿の人が居ないもんね。
歩夢くんは今日からお休みだからいっぱい寝られたのかな?
『一年間お疲れ様でした! 俺は目が覚めたら夕方だった(笑)』
ふふっ、秋以降ずっと忙しかったもんね。ゆっくり休めて良かったわ。
『明日は早朝から出掛けるんだからね! また寝て起きたらお昼だったりとかしたら、もう年内口きいてあげないんだから!』
『年内なの!? それじゃ明後日からはまた元通りだね♪ 』
『大丈夫、遅刻なんてしないよ! だって俺、今月休み無かったけど明日いづみさんと温泉に行く事が一番のモチベーションだったから!』
歩夢くんに『年末休みどうしたい?』って聞いたら、『近場で良いから泊まりがけで温泉に行きたいな』なんて言うから慌てて予約を取った。
モール内の旅行会社の人のツテで割と格安で良いホテルを紹介してもらっちゃったの。やっぱり日頃から仲良くしているとこーゆー時便利よね♪
『明日からはずっと一緒に居られるね♡ 私だって歩夢くんに会うのを楽しみにこの歳末セール頑張ったんだから!』
『あー早く明日にならないかなー? もう今夜眠れそうもないや!』
『あーそれ、朝方まで起きてて気が付いたら寝ちゃってたパターンだ! ふふっ、私もそうなるかも♪』
子供の頃の遠足もなんだかんだで前日が一番ワクワクするのよね。大人になってもこんな気持ちになるんだなぁ。
※
〜次の日の朝〜
「おはよういづみさんっ!」
駅の改札で待ち合わせていたら、滑舌の良い元気な声が聞こえて来た。あぁ朝からこんな声で挨拶されたら今日一日良い事が起こりそうな気がするわ♪
「おはよ、歩夢くん! ふふっ、なんか本当に芸能人みたいね♪」
伊達メガネにマスクをして黒のダウンジャケットにパンツ姿の長身男性は、普通にしていても目を引く。
「だって影山さんがこの休み中彼女と居るなら、メガネとマスクはマストだからって口を酸っぱくして言うからさ、……そーゆーいづみさんだってマスクしてるじゃん?」
「私のは変装じゃないから! この時期マスクは必須よ、インフルエンザも流行ってるし、万が一歩夢くんが感染したら仕事に影響するでしょ?」
私達は改札を出て特急列車に乗り込んだ。
「ごめんねいづみさん、何から何まで任せっきりで、年末年始だから宿や電車の予約大変だったよね?」
「ふふふ、実は私もモール内で働いてる旅行会社の知り合いに頼んで全部手配して貰っちゃったんだ。頼れる時は頼らないとね!」
……と、言う事で私達は東京を離れ長野の温泉宿に向かったのでした。
※
「うわぁ! 雪だ! 雪が積もってるよいづみさん!」
「ちょっと歩夢くん! 声が大きいって! バレたらどーするのよっ?」
ただでさえ滑舌良くて通る声なんだから、私みたいな声オタがこの車内に居たら一発でバレるわ!
「だって見てよいづみさん、一面雪景色なんだよ!」
トンネルを抜けるとそこは一面の銀世界だった。
「わかるけどっ! ……子供じゃないんだからもうちょっと小声で喋ってよ!」
「だって俺、生まれ育ったのが静岡で、高校の時に家族で東京に引っ越して来たからさ、雪が積もってる所あんまり見た事ないんだよねー! ねぇ、ホテルに着いたら雪だるま作ろうよ!」
「えぇーっ、雪が積もってるって事はめちゃくちゃ寒いって事なのよ?」
「やっぱ駄目かなぁ……?」
まるで子犬がおやつを待ってる様な目で私を見ている。もぅっ、そんなのズルい!
「もぅ…………いいわよ。その代わり作ったらすぐに温泉入るんだからねっ!」
「やったぁーーっ!!」
「だから声が大きいってっ!!」
※
「あははは あはははっ♪」
「もうっ、走ると危ないからっ!」
駅から送迎バスに乗ってホテルに着き、部屋に荷物を置くと休む間もなく手を掴まれ外に連れ出されてしまった。
早くも影山さんの忠告を無視してメガネとマスクを外し、歩夢くんはすっかり子供の頃に戻っている。
「ねぇ歩夢くん見た? お部屋とっても綺麗で眺めも良くて、個室のお風呂も付いてたのよ?」
「それじゃいづみさんは頭作って! 体は俺が作るからさー♪」
私の話などまるで聞かずに鼻歌を歌いながら雪の玉をコロコロと転がしていった。寒いよー!
小さかった雪の玉がみるみると大きくなり、あっという間に体が出来上がってしまった。
「もぅしょうがないなぁー、いづみさんっ、一緒に転がそう!」
私の隣で雪玉を作り、私に転がせと言わんばかりにこっちを見ている。
「ひゃあっ、冷たいっ! 無理〜っ!!」
「転がしてれば慣れるしあったまるよ!」
心做しか顔が火照って見える。もぅ、そんなに嬉しそうなら付き合うわよ!
「あはははっ、二人で転がしたら体より大っきくなっちゃったね! ヨシッ、こっちを体にしよう!」
さっき歩夢くんが作った雪玉を持ち上げて、今転がして来た雪玉の上に乗せる。
そして何処からか木の枝や石を持って来て手とボタン? を付けている。本当楽しそうね!
「はい、これはいづみさんの分♪」
私に丸い石を渡して歩夢くんは片方の目を埋め込んだ。私ももう片方に石を埋めると……、
「出来たぁー! 俺達の雪だるまだぁ〜!」
両手を上に上げて喜びを爆発させている。そんなに嬉しいのっ!?
「ふふっ♪ 歩夢くん、写真撮るから隣に並んで!」
歩夢くんは私の身長程の雪だるまの肩? に手を回し、ドヤ顔でもう片方の手でサムズアップした。
パシャ♪
「次はいづみさん撮ってあげるよ!」
私も雪だるまに抱きついてポーズを取ると、歩夢くんは頬をぷうっと膨らませて、
「駄目だよ! いづみさんが抱きついて良いのは俺だけだからっ!」
「だって、なんか見てると可愛いんだもん♡」
私はそのまま雪だるまにキスをした。冷たい〜!
「あぁっ、浮気だぁ〜っ!!!」
歩夢くんは駆け寄って雪だるまから強引に私を引き離し、そのまま抱きしめた。
「もぅっ、どんだけ焼きもちやきな…………あっっ!?」
言い終わらない内に私の唇を奪った。
「駄目ですよ、いづみさんは俺だけ見て下さい」
「…………」
甘くてとろけそうな声で囁いてくれたけど、雪だるま相手に何言ってるの?
「ごめんなさいっ、私っ、彼の事が好きなのっ!」
そう言って歩夢くんから離れて雪だるまの元へ駆けて行き、雪玉を投げつけてやった!
パシッ!!
雪玉が歩夢くんのお腹に当たり、驚いた顔でしばらく固まっていたが、すぐに反撃が始まった。
「もぅ許さないぞーっ! それっ!!」
「きゃっっ!! やったわね〜♪」
私は雪だるまの影に隠れながら歩夢くんに雪玉を投げつけた。
「あはははっ、楽しいねぇー!」
「私もっ、なんだかポカポカして来たー!」
すっかり童心に帰って雪玉を投げっこしたら、冬の寒さなんて気にならなくなっていた。やっぱり『子供は風の子』って、昔の人はよく言ったもんだわ。




