初めてのお泊まり♡
すると歩夢くんは私を見つめながら、とろける様な甘い声で…………、
「今夜、部屋を取ってあるんですけど、……朝まで一緒に居てくれませんか?」
やっぱりこの声、好き♡
頭の中で何度も繰り返し聞こえて来る甘い声に私は意識が朦朧として、首を縦に振る事しか出来なかった。
※
覚悟はしていた。
そのつもりで下着も新調したし休みも取った。私からは勿論誘えないけど歩夢くんなら言ってくれると思っていた。
「ありがとうございました」
「こちらこそサプライズまで! 本当に美味しかったです! また今度、絶対二人で来ますから!」
「美味しかったです! ご馳走様でした!」
私達は御老人に会釈をすると目の前に呼んでも居ないのにタクシーが現れた。そして私達が乗り込むと行き先も告げずに走り出した。私は小声で、
「……ねぇ、どういう事?」
「蓮さんがタクシーも泊まる所も全て手配してくれたんだ」
ふーん、……と、言う事は!
「……それじゃ蓮さまもお忍びでこうやってるって事よね?」
「そっ、……そうかな? そこら辺は良く分からないや」
歩夢くん嘘下手過ぎ! そりゃ蓮さまだって男だし、そんな事位あって当たり前だって思ってるから!
「ふふっ、そんなんで私が蓮さまの事嫌いになったりしないわよ!」
私は歩夢くんの手をギュッと握った。
※
「うわぁー綺麗な夜景!! 凄いね! イルミネーションを見てるみたい♪」
高層階のホテルの一室に入り、窓に囲まれた部屋から絶景が見渡せる。なんかドラマの主人公になった気分!! 歩夢くんもはしゃいでるわ!
「でもさー、この夜景見ながら蓮さまも……」
「いづみさんっ、それ以上は言わないで! 想像しちゃうから!」
そう言われると嫌でも蓮さまの事を想像してしまった。私が顔を赤くしていると歩夢くんが後ろから抱きついて来て耳元で囁いた。
「……ねぇ、今、蓮さんに抱かれてるの想像してたでしょ?」
「えっ!? ちっ違うのっ! あの……っっ!!」
歩夢くんが私の首筋を軽く噛んだ。
「あの時のお返し! 俺、……結構焼きもちやきだから、俺と居る時は蓮さんの事考えないで」
「うん、分かった。……ごめんね」
少し暗めの間接照明に夜景、そして私の大好きな声。全ての条件が整って私は頭がクラクラして来た。
「俺、先にシャワー浴びて来るね」
「うん。……待ってる」
普段の物腰の柔らかい歩夢くんがとても男らしく見える。
私、今夜あなたに抱かれるんだ。
……と、思うと興奮すると同時にあまりに久しぶり過ぎて緊張して来た。
「いづみさん、……どうぞ」
「うん」
歩夢くんも緊張しているのが分かる。
シャワーを浴びた後、一旦冷静になろうと大きく深呼吸をした。
そして髪を乾かし、鏡に映る自分の顔を見て、薄っすらとメイクをしていたら大分気持ちが落ち着いて来た。
私は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し一本は歩夢くんに渡して、
「ねぇ、……もうちょっとだけお話ししたいな、駄目?」
「俺ももっと話したかったんだ! だって俺達、食事の感想しか言い合って無かったじゃん?」
「ふふふっ、それもそーね♪」
私達はベッドの上で手を繋ぎ、夜景を眺めながら色々な話をした。
かれんと梅里くんの事や職場の事、ゆみちゃんの事、歩夢くんはこれから始まるラブコメ映画の主演で相手が同期の子だった話や、蓮さんのマネージャーだった影山さんが自分のマネージャーになってくれて、『御船』の予約を取ってくれた話をしてくれた。
「ふーん、ツンデレなんだー! でも良い人だね、歩夢くんの為に休み調整してくれて、……あの日の私達の事も守っててくれたなんて」
「うん、……でも怒ると怖いんだぜ! 口調も荒くなるし俺なんか『ベロキス野郎』とか言われるし……」
なんか凄い人がマネージャーになったのね。でも影山さんなら無理なくスケジュールも組んでくれそうだし、私達がこうして会う事も守ってくれる……と言う事でいーのよね?
「あっ、そうだ! 私、マッサージしてあげるよ! 歩夢くん寝不足で疲れてるってかれんに言ったら教えてくれたんだ。ちょっと横になって!」
「そー言えばかれんさん、コンビニの前はエステティシャンだったもんなー、それじゃお言葉に甘えてお願いします♪」
うつ伏せになった歩夢くんの首から肩、背中に腰にかけてゆっくりと丁寧に揉みほぐす。
「いづみさん、……気持ちいいよ」
そして頭皮をマッサージした後は腕を手首から腕のつけ根辺りまで揉んでいくと『あっっ』とか可愛い声まで聞けてこっちまで良い気持ちになった♡
「疲れない? ……平気?」
「うん、もうちょっとやるね♪」
最初はガチガチだった体が徐々にほぐれていく気がする。歩夢くんも私に体を委ねてくれているのか、すっかり力が抜けて揉みやすくなった。
…………ん?
歩夢…………くん?
…………寝ちゃった?
すっかりリラックスした歩夢くんは、日頃の寝不足に加え、適度なアルコールにシャワー、極めつけはマッサージと、まるで私が確信犯的に寝かしつけた様なシチュエーションになってしまった。
……しょうがないわよね。起こして『しよう』なんて言える訳も無いし。
ふふっ、可愛い寝顔♡
これが見れただけで充分幸せだわ。
寝息を立てている歩夢くんの体を仰向けにして、彼の胸で私も寝る事にした。
…………って! 寝られる訳無いでしょーっ!?
歩夢くんのお誘いを受けてからずっとムラムラしてたのよ!? 久しぶりだったし、やっぱり初めてって緊張するし!
私は寝ている歩夢くんにキスをしたり体を密着してみたりしたけど起きる気配は一向に無い。
疲れてるもんね。……やっぱり寝かせてあげよう。
私は頬に優しくキスをして歩夢くんの体を抱き枕にして眠りについた。
※
「ん、う〜ん、…………ん?」
目が覚めるとすっかり朝日が差し込んでいた。
スマホの時刻を見ると八時半、結構寝てたのね。
歩夢くんはまだ寝ている。寝れてなかったもんね、自分から起きる迄寝かせてあげよう。
きゃっ!? ……私、全裸で歩夢くんに抱きついてたっ!!
私は起こさない様、忍び足でバスルームへ向かい、下着を着け服を着た。
そして外の景色を眺めながら大きく伸びをして、可愛い寝顔をぼんやりと眺めていた。
それから十分程経ったのかしら? 歩夢くんが目を覚ました。
寝ぼけているのか、まだ事態を飲み込めていない様だった。
「おはよ、歩夢くん。いっぱい寝れた?」
「……いづみさん、おはよう。…………ん? えっ!? えーーーーっっ!?」
全てを理解した歩夢くんは起き上がり頭を抱えて項垂れた。
「ごめんいづみさんっ、俺っ、寝ちゃってた!」
顔面蒼白で、まるで捨てられた子犬の様な目で私を見ている。
「ふふっ、いーのよ。寝不足だし疲れてたもんね」
「あぁーーっっ! 俺はなんて事してしまったんだぁーーっっ!? 本当にごめん、自分から誘っておいて勝手に寝るなんて、男として最低だよ!」
片方の手でシーツをギュッと掴んで、もう片方の手でベッドを叩いた。
「あんまり自分の事責めないで! 疲れて寝不足な上にマッサージなんてされたら誰だって寝ちゃうわよ! 良かれと思ってやったんだけど私の方こそごめんなさい」
がっくりと肩を落とした歩夢くんを見て、私はベッドに押し倒してキスをした。
「そんな事されたら俺っ、したくなっちゃうよ!」
「ダーメ! また今度ね、私だってしたかったんだから!」
「そんなぁ〜っ!!」
涙目になった歩夢くんとの初めてはお預けとなったけど、何年かしたら今日の事が笑い話になるといーな、なんて思った歩夢くんの二十五歳の誕生日でした。




