歩夢くんのバースデー!! その1
「いづみちゃん、今日はなんだかご機嫌ね! 何か良い事でもあったの?」
「えへへ、分かる? あのね、明日歩夢くんの誕生日なんだー! 仕事で会えないって言ってたけど、急に当日の夜から明日のお昼迄休みになったんだって!」
十二月十日は歩夢くんの二十五歳のバースデー!
ゆみちゃんのライブ以来会えてないし、二人っきりで話をしたのだって蓮さまの生誕祭の時まで遡るわ。
あの時、強く抱きしめてキスをしてくれた時の事を思い出すと今も胸がキュンとなる。
「…………づみちゃん? ねぇ聞いてる?」
「あっ、ごめん何なに?」
「もぉーっ、せっかくの誕生日なんだからさ、美味しい物食べて何処かのホテルでお泊りとかしちゃえば? イヒヒ♡」
ゆみちゃんは蓮さまの生誕祭でのキス事件以来、何かにつけて揶揄ってくる。だけどもう隠す事も出来ない分、何でも相談出来るから助かるわ。
「うーん、せっかく夜も空いてるならお泊まりして、マッサージとかしてあげてゆっくり寝かせてあげたいな。『バディラジ』でも言ってたけど年末迄休みがなくて、覚える事が沢山あって寝る時間全然無いって言ってたもん」
その分三十日から年明け五日までは休みになるみたい。私は三日から仕事だけど、一緒に居られる時間が増えるといいな。するとゆみちゃんは驚いた表情で、
「いづみちゃん? お泊まりまでしてマッサージしたら歩夢くん、逆に興奮して寝られないんじゃないの? 彼氏居なさ過ぎてそーゆー事忘れちゃった?」
後ろから抱きついて胸を押し当てて来た!
「ちょっと! もぅ、そーゆーマッサージじゃないからっ! それに私、ゆみちゃんほど大っきくないしっ!」
「だけど歩夢くんだって自分の誕生日の日に好きな人とお泊まりなんかしたら、……期待しちゃうの分かるでしょ?」
「…………うん」
そーよね、私だって期待しちゃう。
でもそーなったらそれで良いとも思ってるけど、歩夢くんの事を考えたらゆっくり寝かせてあげたいたいな。
「ねぇ、プレゼントとか買ったの? もしかして『プレゼントはワ、タ、シッ♡』ってヤツ?」
「そんな事ばっかり言ってゆみちゃん欲求不満でしょ? 何かお揃いの物をって思ってもう買ってあるわよ!」
会えない日が多いから、これを見て少しでも私の事思い出して欲しいな。
※
〜成田歩夢視点〜
「あの、影山さん。ちょっと聞きたい事があるんですけど……」
「何よ? そんなにかしこまって?」
「社長や蓮さんが行きつけのあの店、俺が予約しても大丈夫なんですかね? せっかく夜に休みが取れたので、人目を気にせずいづみさんと美味しい料理を食べながらゆっくり話をしたいな、……なんて思いまして」
すると影山さんは頭を抱えて項垂れた。
「『御船』《みふね》の事? ……蓮に続いて歩夢まであの店を相引きに利用しようっての?」
「相引きなんてそんな! 実は俺、明日が誕生日なんですよ。最近全然会えていないのであそこでなら平気かと思って……、駄目ですかねぇ?」
「そんな良い声出して言わないの! 明日が歩夢の誕生日だって事位知ってるわよ、だから上手く調整して夜に休み取れる様にしたんじゃない」
「影山さんっ! ありがとうございます!! いやー、やっぱり蓮さんの言ってた通りだ♪」
すると影山さんは髪をかき上げ、俺の肩を掴んで圧をかけて来た。
「言った通りって蓮のヤツ、あなたに何言ったの?」
「あっ、イヤ、その、……普段は鬼の様に厳しいけれど、いつも俺の事を気にかけてくれる優しい人だって……」
「もうっ、蓮ったら! しょうがないわねぇ♪」
影山さんは少し顔を赤らめて俺の肩から手を離し圧を解き、スマホを取り出して何処かに電話をかけ出した。
そして褒めるとすぐデレる、絵に描いたようなツンデレ女だって事は言わないでおこう。
「あっ、いつもお世話になっております影山です。突然で申し訳無いのですが明日の夜、……えぇ、……はい、ありがとうございます! それでは明日の夜九時に……、はい、それでは宜しくお願い致します、失礼します♪」
影山さんはニコッと笑って親指を立てた。
「影山さんっ、もしかして『御船』に予約取ってくれたんですか?」
「あなたねぇ……、あのお店は歩夢がいきなり電話して予約取れる様な暇な店じゃないのよ! しかも明日とか! ……まぁ私は毎回蓮の時に電話してたからあちらも事情は分かってて優遇してくれるけど」
俺は嬉しくなって、つい影山さんの両手を握って、
「いやぁ、俺、影山さんが女神に見えます! 養成所で俺を見つけてくれて、誕生日にいづみさんと会う時間を作ってくれて、おまけに予約まで! 本当にありがとうございます!!」
「ちょ、ちょっと! わかったから! もうっやめなさいっ!!」
そう言いながらも頬を赤く染めなんだか嬉しそうだ。年上の綺麗なシゴデキお姉さんなのにとても可愛く見えた。
「もう! ちょっとこの流れなら明日渡すより今渡した方が良いわね、ちょっと待ってて!」
影山さんは足早に奥に行き、何やら紙袋を持って来て俺に渡した。
「一日早いけど二十五歳の誕生日、おめでとう歩夢!」
「えっ、影山さん……っ! ありがとうございます! 開けてみていーですか?」
「別に大した物じゃないわよ! 今は睡眠時間を削ってでも覚える事沢山あるでしょ?」
紙袋から包みを取り出して開けてみるとそこには黒の服上下が……って!
「うわぁっ、リカバリーウェアだ! 俺、これ気になっててググってたんですよ!」
「ふふっ、今業界内でも流行ってるものね。私も気になってたから色違いで買っちゃった♪」
「俺、これ着たら年内頑張れそうです! 嬉しいなぁ、影山さん、本当にありがとうございました!」
「そっ、そんなに喜んでもらえると思わなかったわ! でもあまり無理して詰め込み過ぎない様にね!」
※
後日談だけど、その後も俺は事あるごとに影山さんに頼りまくり、いづみさんと会う時間や場所を作ってもらったのでした。
影山さんはその度に『あなたは蓮より見てて危なっかしいから心配なだけよ、変な写真とか撮られたら社長に迷惑がかかるでしょ?』なんてツンデレっぷりを毎回発動させてはいるけれど……(笑)




