第四章 敏腕マネージャー影山萌香
〜成田歩夢視点〜
ゆみさんのバンド『らふぃんどーるず』のライブが大盛況で幕を閉じ、配信が無料だったのもあり、かなりの人が視聴していたみたいだ。
蓮さんもメンバーのみんなからの熱烈なラブコールを受け、引き続き面倒を見る事になった。俺みたいな素人からすると、彼女達に教える事なんて無いんじゃないかと思うんだけど……、ゆみさんは勿論の事、他のみんなも蓮さんにメロメロだからなー。
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十二月に入り『バディーズ』も終盤に差し掛かり益々盛り上がりを見せている。
蓮さん演じる遼太郎が記憶喪失になって、アニメ考察の配信者達はこぞってラストの予想を動画に上げている。
最終回まであと三話、果たしてどんな結末が待っているのだろうか? 乞うご期待!!
そのおかげもあってか俺もテレビの取材や、雑誌の撮影、ゲームやアニメのアフレコと、年末進行も重なり丸一日休みという日が無い状態だ。仕事があるのは嬉しい事だけど、まるでいづみさんに会えていない。
年末年始は休めるみたいだからそれまで頑張ろう!
そして来年は初の映画の主演を務める事になった。ラブコメでメインは初めてだよ、それも三角関係!!
そしてその相手役が声優初挑戦で最近『あざと女子』として人気急上昇のグラビアアイドル小日向のぞみさんと、養成所時代同期だった桑原夏希だ。
夏希か、……久しぶりだなー! 向上心の塊みたいな奴で、養成所の頃は何かにつけてよく突っかかって来てたよなー。俺が『Fox Edge』に入所が決まった時滅茶苦茶悔しそうにしてたけど、あれから夏希も頑張ったんだな。
小日向さんは最近良くバラエティ番組に出てるみたいだけど、どんな人なんだろう? 声優仲間によるとスタイル抜群で甘え上手な小悪魔みたいな人らしい。最近テレビを見て無いから発表があって初めて知ったよ。
そんな二人を相手に俺、主人公が務まるのか?
正直なところ恋愛経験も少ないし、ましてや三角関係なんてどうしたら良いのか全く分からない。
だけどこの先色々な役をやっていくんだからもっと勉強しないとだよなー。年末年始にまとめて恋愛ドラマやアニメを見よう
そんな中、社長から直々に電話があり事務所に来る様に言われた。……俺、なんかやっちゃった?
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「お久しぶりです、成田です」
「あっ、成田くん久しぶり! 最近忙しそうで何よりだわ! もうみんな揃ってるわよ、応接室ね」
入所したての頃お世話になっていたマネージャーさんに声を掛けたら、みんな揃ってる? ……一体何が始まるんだ?
俺が所属してる事務所『Fox Edge』は蓮さんは勿論、若手から大御所まで男女様々な声優が在籍している大手事務所だ。社長とは年始の挨拶くらいでしか会う事も無いので余計緊張するよ。
「失礼します、成田です」
応接室のドアをノックし部屋に入ると、そこには社長と蓮さん、それに蓮さんのマネージャーの影山さんが談笑していた。
「成田くん、久しぶりだねー! 今度雑誌の表紙になるんだって? よっ、我が社のエース♪」
「やめて下さいよ社長っ、ウチには蓮さんが居るじゃないですか!」
「んぁ? こんな奴、とっとと辞めて何処へでも行けってんだ、バーカバーカ!」
ウチの社長、倉木さんは五十代前半のいわゆるイケオジで業界ではかなりのやり手で通っているが、子供がそのまま大人になったと言っても良い程自由奔放な人だ。だから蓮さんとウマが合うんだろうな。
「んだとジジィ! 俺が辞めるって言った時涙目だったクセによー!」
「蓮っ、社長に向かってなんて口聞くのっ!」
影山さんは三十代前半でストレートの長い髪とメガネが似合うスレンダー美人で、蓮さん個人のマネージャー兼、世話係の様な人だ。
蓮さんが世の中で一番恐れてる人だと言ってるけど、信頼できる人なんだろうな。
そんな三人が揃って一体俺に何の用だろう?
「あの、……俺、何かやらかしました?」
「まぁ座れよ。別に何もやらかしてないから!」
社長の向かい側に座るとすぐに影山さんがお茶を出してくれた。
「成田くんは蓮が春にはウチを辞めるの知ってるよね?」
「はい、蓮さんから聞きました」
「ウチとしては稼ぎ頭が抜けるのは痛手なんだけど、俺個人としては応援したいんだよね。だから蓮が独立しても何らかのバックアップはしたいと思ってる」
「まぁそんな社長だから俺は歩夢を一人前にしたかったんだよ。そしたら想像以上に売れっ子になりやがってさ!」
なんかいーな、まるで本当の親子みたいだ。
「それでだなー、俺が辞めるって話をしたら萌香がお前に付くって言い出したんだ。
「だから下の名前で呼ぶなって何度も言ってるでしょ!」
「だって可愛いじゃん! ねーもえかちゃん♪」
蓮さんは影山さんから頭に割と強めのゲンコツを貰ってうずくまってしまった。自業自得でしょ?
「成田くんも忙しくなって来たから個人のマネージャーをって思ってたんだよね、覚えてるかな? まだ君が養成所に居た頃、蓮が特別講師として行った事」
「はい、勿論覚えてます! だって俺、蓮さんに憧れて声優目指してましたから!」
「その時この影山が君の声を聞いて俺に『彼は逸材だからウチで獲らないと絶対後悔しますよっ!』って脅して来たんだよ!」
「脅すだなんてそんなっ! 私は、……ただ社長の為を思って……」
ん、……なんで影山さん、そんな顔を赤らめてるんだ? でもそうだったんだ! だから蓮さんの居るこの事務所から声がかかったんだ!
「影山さんっ、ありがとうございました!
あなたのおかげで俺、蓮さんとも知り合えたし今もこうして仕事が出来てます。社長っ、俺からもお願いします。影山さんを俺のマネージャーにして貰えませんか?」
「わははははっ、なんかお前『娘さんを俺に下さいっ!』みたいな風に言うなよ! 影山がお前に付きたいってんなら俺はそれでいーし!」
「私はっ! …………社長の、この事務所の為に歩夢に付くだけですから!」
※
「影山さん、俺、蓮さんに少しでも近づける様頑張りますので宜しくお願いします!」
「あなたなら蓮なんてすぐに追い越して行っちゃうわよ! 謙虚だし、若いし、それに顔も可愛いしね♪」
「んだとっ? 萌香っ、この尻軽女っ、もう歩夢に乗り換えたのかよ?」
「誰が尻軽よ? 私がどれだけあんたとあの女の後始末をして来たと思ってんの? もう事務所も辞める事だし結婚してる事世間にバラしてやるわっ!」
「あぁーっ、嘘っ、ごめん萌香ちゃん! 許して!」
「だから名前で呼ぶなっつの!」
影山さんすげーな、こんな蓮さん見た事ないぞ? ……てかあの女って、奥さんの事だよね?
すると影山さんは俺を睨みつけ、
「……何ヘラヘラ笑ってるの? あなたも蓮と大差無いのよ、分かってる?
はっきり言って歩夢は危機管理能力が無さすぎるのよ! 今のままだとマスコミの格好の餌食になるわ!」
「そっ、そんな事無いですよ。俺、マスコミの餌食になる様な事なんてしてないですし、ちゃんと気をつけてますって!」
バンッッ!!
影山さんはテーブルを叩いて怒りを露わにした。
「……それじゃ聞くけど、蓮の生誕祭終わった後、あなた何してたの?」
えっっ!?
……もしかしていづみさんとの、……見られてた?
「あんな大勢のスタッフが行き交う控え室からステージに繋がってる通路で、堂々と抱き合ってベロベロキスしてたのはなんなのよ?」
「いや、……あの、……それは……でも誰も通って無かったですし……」
「おーっ、成田くん! 大人しそうな顔してやってんねー♪」
「社長は黙ってて! 私がどれだけの人数せき止めてたと思ってんのよ! そんな所まで蓮の真似しなくていーから!」
えっ!? だからあの時誰も通らなかったんだ!
俺は影山さんに腰を九十度に折り曲げ頭を下げた。
「すいませんでしたっ! あれから俺達殆ど会えてませんし、キスはおろか、それ以上の事はしてません!」
「バカッ! そんな事まで聞きたくないわよ!
あーもう、歩夢は蓮と違ってチョロいしズル賢くも無さそうだからこの先心配だわ」
影山さん、俺の事気に入ってマネージャーになってくれるんじゃないの? 蓮さんは俺の肩をポンと叩いてサムズアップして、
「歩夢もこれで鬼に金棒だな! これからはいづみちゃんとイチャイチャしたって萌香がなんとかしてくれるぞ!」
「私の仕事はあんた達のもみ消しじゃないから! もう絶対ある事無い事バラしてやるんだからっ!」
「ごめんっ、許して萌香ちゃーん! 焼き肉奢るから勘弁してくれよー!!」
「邪々苑の特上じゃないと許さないわよっ!!」
こうして俺は最恐の参謀を手に入れたのでした。




