蓮さま生誕祭!! その5
「……さぁどうぞ、こちらです!」
マネージャーさんが扉を開けるとゆみさんが跳ねる様に入って来た。その後ろから怯えた顔のいづみさんも……。
「よう! 今日はありがとな、二人のおかげで凄い盛り上がったよ!」
蓮さんは上機嫌で二人をソファーに案内した。
スタッフの方がすかさず飲み物を出すと、二人は頭を下げて腰掛けた。
「こちらこそありがとうございました! 蓮さまの誕生日に同じステージに立てるなんて夢を見てるみたいでした♡」
ゆみさんは蓮さんにベタ惚れだな! 目がもう溶けて無くなっちゃいそうだ。それとは対照的にいづみさんはただ頭を下げて俯いてるし。
「それより聞いて下さいっ! さっきバンドのメンバーからメッセが来たんですけど、チケットがソールドアウトしたって!」
「あはははっ、すげぇーな! まぁ俺より歩夢が見に行ってたバンドってのが大きいんじゃないの?」
するとゆみさんが俺を手招きして、
「歩夢くんもそんな隅っこに居ないでここに座りなよ! ありがとね、歩夢くんのおかげだよー!!」
ゆみさんは自分が座っている場所をトントンと叩いてここに座れと言っている。そして積極的なゆみさんは、反対側のソファーに腰掛けている蓮さんの隣にちゃっかりと腰を下ろした。
「蓮さまも時間が合えば一度見に来て下さいね! その時はちゃんと席を確保しますから!」
「分かった、スケジュールが空いてれば必ず顔出すよ! 赤メッシュのカッコいい所、見てみたいからな!」
ゆみさんはこの世の幸せ独り占めみたいな顔で嬉しそうにドリンクを飲み干した。それに比べていづみさんは、……相変わらず俯いたままだ。
「ここ、……座るね」
俺がそう言うと黙って頷き顔を背けた。見かねたゆみさんが、
「いづみちゃん、歩夢くんに失礼だよ! それにそんな顔してたら蓮さまだって心配するでしょ、誕生日なんだよ! 楽しくお祝いしたいでしょ?」
するといづみさんは蓮さんに頭を下げて、
「蓮さまごめんなさい! せっかく呼んでくれたのに私、…………帰ります!」
いづみさんは立ち上がりさっき入って来た扉を開けて出て行ってしまった。
「歩夢っ、何やってんだ! 早く行けっ!!」
呆然としていた俺に蓮さんが怒鳴りつけた。はっと我に返り俺はいづみさんを追いかけた。
「待っていづみさんっ!!」
「だめっ、来ないでっ!!」
逃げるいづみさんを捕まえて後ろから抱きしめた。
「だめっ、歩夢くん、……私」
振り解こうとする両肩を掴み、正面に向けるといづみさんは泣きながら、
「ごめんなさい、私、……歩夢くんのお誘いを断って蓮さまの……、でも信じてっ! 本当に体が心配だったし、今が一番大事な時に、万が一二人で居る所見られたらとか思ったら私……」
俺はいづみさんを強く抱きしめた。
「俺、ステージでいづみさんを見た時、正直ムカつきました。なんで俺より蓮さんなんだよって!」
「うぅっっ、…………ごめんなさい」
「カッコ悪いですよね、焼きもちなんて。俺を知る前からずっと応援してた、俺の尊敬する蓮さんの誕生日なんだから妬く必要なんて無いのに……」
「でも、……でも私、歩夢くんに言えなかった」
俺はいづみさんの頭を優しく撫でて、
「でも、本当に俺の事心配してくれてたのが分かったから! それにそんなタイミングで蓮さんの所に行くのを言いづらいのも分かったから、もう泣かないで」
「うん、……黙って行ってしまってごめんなさい」
潤んだ瞳で俺を見つめて言われたら、もう抑えが効かなくなった。
「いづみさん、好きです! 出来れば、……俺だけ見てくれませんか?」
「私も好き、大好きよ。ずっと、ずっと会いたいって思ってたの!」
俺は夢中でいづみさんの唇を奪った。
いづみさんも俺の背中に手を回し強く抱きしめて来た。
俺達は何度も何度も……、今誰か来たらなんて考える事の出来ない位唇を重ね合った。
※
「…………いづみさん、戻りましょう。蓮さんもゆみさんも心配してますよ」
「うん。……私、蓮さまに失礼な事しちゃったよね?」
「大丈夫、蓮さんは多分俺達の事も全部分かってるから」
「待って! ……私、酷い顔してる。トイレに行って来るから先に行ってて。ちゃんと一人で戻れるから!」
「うん、でもトイレの場所分からないでしょ?」
「あ、……ここが何処かも分からないわ!」
「あははっ、このまま真っ直ぐ行って突き当たり右だから! 控え室まで戻って来れる?」
「もうっ、真っ直ぐしか走って来て無いじゃない、バカッ!」
いづみさんは俺の頬にキスをして逃げる様にトイレに駆け込んだ。
破壊力抜群だよ!!
俺は初めて頬にキスをされたあの日の事を思い出しながら控え室に戻っていった。
※
♪〜♪、♪〜♪
扉を開けるとゆみさんがタブレットを蓮さんに見せていた。
「あっ、お帰りー! いづみちゃん、ちゃんと捕まえて来た?」
「あっ、はい! トイレに行ってから戻って来るそうです。ところで蓮さん、……何見てるんですか?」
「ん、赤メッシュのバンドのライブだよ。俺が思ってたより全然上手いし、ポップでキャッチーだよな! ボーカルの子の声も良いし華があって何より全体的に見て絵になるよな!」
「嬉しい〜っ!! 大絶賛じゃないですかっ!? もう『蓮さまお墨付きバンド』って肩書きつけちゃっても良いですか?」
「あはははっ、好きにしていーよ! 今回は歩夢のおかげでソールドアウトしたけど、次に繋げる為にはもっと頑張んないとな!」
確かにゆみさんのバンドは個々に華があって見栄えも良い。俺なんかが宣伝しなくてもお客さん付いてるんだよな。
ん? ……ゆみさんが俺をじっと見ている。
すると何やらゆみさんが蓮さんにコソコソ耳打ちすると、蓮さんが顔を上げて俺を見た。
「なっ、……何ですか二人して、イヤらしい目つきして?」
「お前、いづみちゃんとキスしただろ?」
…………っっ!!!
「し、し、してないですよ! な、何言ってんですか!?」
「お前、今が一番旬なんだからマスコミに狙われやすいんだぞ? 大事な時期なの分かってるだろ? 春まで恋愛禁止な!」
「だっ、だからしてないですって! 俺だって分かってますよそんな事っ!!」
ムキになったらゆみさんが近寄って来て俺に鏡を見せた。
…………っっ!!!
「歩夢くん、その口の周りの赤いのなーに? トマトとか食べたのー? あっ、ほっぺにも!!」
鏡に映った俺の顔はいづみさんの口紅がしっかりとついていた。俺は顔から火が出て、焼け焦げるかと思うほど熱くなった。
「すっ、すみませんっ!! 嘘つきましたっ!」
慌てて持っていたタオルで顔を拭いた。
すると蓮さんは俺の頭をコツンと叩いて、
「お前は俺の見る限り恋愛経験が浅いんだよ! 周りの事がすぐ見えなくなるだろ? こういうツメが甘いとマジで尻尾掴まれるぞ!」
そこへいづみさんが扉を開けて入って来た。
「蓮さま、せっかくの誕生日に気分悪くさせてしまってすみませんでした。ゆみちゃんもごめんなさい」
深々と頭を下げると蓮さんはいづみちゃんを見て、
「……なぁ歩夢、いづみちゃん見てみろ? ちゃんと化粧直して何食わぬ顔してるだろ?」
「はい、……それが何か?」
「お前みたいに隙だらけじゃないって事だよ! さっきまでベロベロチューしてたなんて思えないくらいしれっとしてんじゃねーか!」
「れっ、蓮さまっ、あのっ……っ! イヤッ!!」
今度はいづみさんの顔に火がついた! 両手で顔を隠してしゃがみ込んでしまった。
「だから二人共、気持ちは分かるけど春まで待て! 春の主演作まで乗り切ったらお前の人気はそうそう落ちないだろ?
お前の声はそれだけの魅力があるから!! ……まぁガチ恋勢は減るだろうけどな!
そしたら堂々と付き合えばいいだろ?
まぁ宣言する必要も無いけど、別に悪い事してる訳じゃないんだからさ!」
「蓮さん、ゆみさん……俺、いづみさんが好きです。心から大切にしたいと思ってます!
俺のせいでいづみさんに迷惑かける訳にはいかないので、春まで死に物狂いで頑張ります! ……だから今日の事は黙っていて貰えませんか?」
すると蓮さんはガッチリと俺の肩を掴んで、
「何言ってんだ! 俺も赤メッシュも二人の味方に決まってんだろ? でもそんな事言ったって春までなんて我慢出来ないだろうからさ、たまに二人っきりで会える様に俺が上手い事やってやるよ!」
「私も協力する! いづみちゃんにはこれからも良席当てて貰わないといけないんだから、私に出来る事があるなら何でも言って!」
蓮さん、ゆみさん……。ありがとう!
ん? ……いづみさん?
いづみさんは俯いたまま頭を下げてまた扉を開けて出て行ってしまった。待ってよもぅーっ!!
第三章 終わり




