蓮さま生誕祭!! その4
「はぁ〜っ、まだ興奮して足が震えてるよ!」
会場が明るくなり昼の部が終了しても客席の大半は興奮して座ったままだった。
ゆみちゃんも涙を堪えきれなかったみたい。
「ほらっ、メイク崩れちゃうわよ! とりあえずここを出て、一旦ロビーで休憩しよ」
ゆみちゃんが鏡を見ながらメイクを直していると、一人の女性に小声で声をかけられた。
「すみません、私、三上蓮のマネージャーの影山と申します。蓮にお二人を呼んで来て欲しいと言われたのですが、……お時間大丈夫ですか?」
それを聞いたゆみちゃんが思わず立ち上がり、
「全然空いてます! 夜の部までどうやって時間潰そうかと思ってました!」
えっ、蓮さまが私達を? ……勿論歩夢くんも居るわよね?
「それでは裏口からご案内しますので」
私達はマネージャーさんの後をコソコソと、まるでお忍びでライブを見に来た有名人の様に会場を後にした。
※
〜成田歩夢視点〜
「成田さんっ、蓮さんからこれを着てステージに上がって下さいって!」
白いバスローブ? 今日私服だって言ったからわざわざ新調したのにーっ!!
……んでワイングラスを持て、と。どんな設定?
「それで、本当に申し訳無いんですけど出番が早まりました。もうっ、蓮さん進行ガン無視してやりたい放題やってるんです! 急いでコレ着てステージ袖まで来て下さいっ、お願いしますっ!!」
蓮さん何やってんだろ? ここまで笑い声や歓声が聞こえて来てるから盛り上がってるのは間違いないだろうけど。
俺はバスローブに着替えてふわふわのスリッパに履き替えメイクを直して貰っていたらすぐに声がかかった。
「それじゃ本当すみませんっ、成田さんお願いしますっ!!」
キャーーーァッ!!!
何だ? この悲鳴の様な歓声は?
スタッフさんに急かされ舞台袖に行くと、蓮さんはお客さんをステージに上げて何やら話をしている。
すると、蓮さんが……、
「もう、しょうがねーな! おい歩夢っ、店長はお前にやるから取りに来いよ!」
「はいっ、成田さん出番です! お願いしまーす!」
な、何? 何を取りに行けばいい…………っって!
俺の名前を叫んでいる子がいっぱい居る!?
……凄い声援だなぁ! 本当にみんなゲスト俺で良かったの?
少し戸惑いながらステージ中央に歩いて行くと、
………ん、? …………えっっ!??
いっ、いづみさんっっ!?
なっ、何でステージにいづみさんが立ってるの!?
驚いた顔で俺を見てるけど、それはこっちも同じだからっ…………あっ!?
ゆみさんと出掛けるって、蓮さんの生誕祭だったんだ! 俺にはゆっくり休めとか言って自分は蓮さんの所に行くつもりだったんだな! しかも俺には一言も言わないで!
本当に俺の体を心配してくれているんだろうけど、だからって蓮さんのイベントに……、でも誕生日だからな、……って!? ゆみさんまで居る! しかも俺に向かってこっそりVサインとかしてるし!
もう頭が混乱してどうにかなりそうな所で蓮さんと目が合い、はっと我に返った。
せっかく蓮さんが呼んでくれたんだから盛り上げなくちゃ!
「皆さんこんバディは! そして蓮さん、誕生日おめでとうございます! 成田歩夢です、本日は宜しくお願いします!」
うわっっ、みんなからの声援が凄い! 嬉しいなぁ!!
「それより皆さん聞いて下さいよ! 俺、さっきトイレから戻ったらいきなりスタッフにバスローブとワイングラス渡されて着替えてって言われたんですよ!」
「これじゃ俺が蓮さんの愛人みたいじゃないですかーっ!?」
ウケてる!! みんなの幸せそうな顔を見たらこっちまで楽しくなって来たよ!
「歩夢、紹介するよ、この子が噂の赤メッシュことゆみちゃんで、隣のお姉さんが歩夢最推し店長だ!」
赤メッシュって! ゆみさんだったの!?
……でもよく考えたら全て特徴が当てはまってたもんな!
「それじゃ歩夢、店長も知り合いか?」
配信もされてるみたいだし、もういっその事『俺の好きな人はこの人です』って言ってやろうかな?
だけど蓮さまの生誕祭だから迷惑かける訳にはいかないし。でもいづみさんが俺に内緒で来てるのがなんかモヤモヤするんだよな。
「えっと……、俺が事務所に入所してからすぐのイベントで初めてお会いして、ひと聞き惚れしたと言われて……だから俺のファン第一号です!」
初めて会ったのはコンビニのクジ引きだけど、……まぁイベントみたいなもんだし、言ってる事に嘘は無いよな?
「とりあえずステージに上げちゃったから、赤メッシュには俺がアドリブでセリフを言うから、歩夢は店長に何か考えて囁けよ!」
駄目だ! いづみさんを見ると怒りが湧いてくる。 俺はなんて小っちゃい男なんだ。相手は蓮さんだぞ? ずっと推してた人の誕生日なんだからお祝いするのが当たり前だろ? なのに何でこんなにイライラしてるんだ?
「ねぇ、どーして俺の誘いを断って蓮さんのイベントなんかに来たの? 君は俺だけのモノなのに……」
いづみさんの目が泳いでる。ごめん、俺っ、言わずにいられなかったんだ!
……あれ? みんな笑ってる、何でだ?
※
ふぅーっ、ようやくいづみさんとゆみさんがステージから降りてくれたよ。このまま居られたら頭がおかしくなりそうだったよ!
だけど降りた所で最前列のど真ん中って! 近すぎるだろ? さっきとあまり変わらないじゃないか! 流石特賞さんって呼ばれてただけあるよな! よく考えたらクジ運強い店長に赤メッシュって、そんな組み合わせ二人しか居ないだろ?
先輩声優から蓮さんへの祝福映像の時、蓮さんが俺にこっそり耳打ちして来た。
「……おい歩夢、お前今日様子が変だぞ? もしかしてあの店長がいづみちゃんなのか?」
流石蓮さん、勘がいい、ってこの流れならやっぱり分かるよね? 俺が頷くと蓮さんは、
「ごめんな、いづみちゃんステージに引っ張り上げて。知ってたらこんな事しなかったのに」
「蓮さんは悪くないです。俺に黙って来てたのがなんかムカついちゃって……すいません、誕生日イベントなのに気ぃ使わせて」
蓮さんはそんな俺の肩をポンと叩いて、
「まっ、赤メッシュに無理矢理連れて来られたんだろ! そんな事より最後バシッと決めるぞ!」
そうだった! 俺みんなの前で初めて歌を歌うんだ! しかも蓮さんと!! あーヤバい急に緊張して来た!
※
イントロが流れてレーザーが飛び交う中、夢中で歌っていた。なんか楽しい! 俺、芸能人みたいだ!
歌い切って客席を見ると、みんなの笑顔が飛び込んで来た! 良かった、喜んでくれて!!
……っっ!! いづみさんが泣いている。俺を見つめて口パクで良かったって……!!
今すぐステージを降りて抱きしめたい! このままいづみさんを攫ってしまいたい気持ちをグッと堪えて俺は客席のみんなに手を振った。
「歩夢、良かったぜ! 今日はありがとう!」
ステージから捌けると蓮さんが俺にハグをして来た。顔が紅潮していてとても満足気な表情をしていて、思わず俺も蓮さんに抱きついた。すると耳元で、
「本当は抱きつきたいのは俺じゃないんだろ?」
……っっ!!
蓮さんはマネージャーさんに声を掛けて、
「さっきの赤メッシュと店長呼んで来てくれないか? 彼女達、実は歩夢の知り合いだったんだ」
いづみさんが来るっ!? 駄目だ! 今会ったら俺っ、自分を抑える自信がない!!
「蓮さんっ! いいですよ、俺っ、もう帰りますからっ!!」
「あっそ、……別に俺、二人と喋りたいだけだから。いづみちゃんなんて無名の頃からの最古参だからな、話したい事いっぱいあるんだよ、じゃーな、歩夢、今日はありがとー♪」
……っ!!
いづみさんと蓮さんが会うのに帰れる訳ないだろーーっっ!!!




