閑話 かれんの恋!?《後編》
いよいよ梅里くんとかれんが会う日がやって来た。
前日に美容院に行き、気合い充分なかれんは服装も胸元が強調されたトップスにデニムのショートパンツと言う、……まぁいつもの感じなんだけど、落ち着きなく部屋をウロウロしている。
「いづみんヤバっ、私手汗が凄いんですけど? なんかお見合いに行くみたいな気分だよ」
「ふふっ、私もお見合いのシーンに出て来る『それじゃ後は若い二人に……』とか言うおばさんの気分よ!」
「いづみんお願いっ! 若い二人に任せないで一緒に居てっ! 間が持たないよー!」
こんなかれんを見るのは新鮮で面白い。いつもレジで色んなお客さんに話しかけてるじゃない?
「さっ、もう行くよ、覚悟決めなさい!」
「まっ、待ってよいづみ〜ん!」
※
時刻は午後九時、場所は以前私が酔っ払って歩夢くんに迷惑をかけたあの『酒処豆福神』だ。
「あっ、梅里くんお待たせ!」
「いや、俺もさっき着いたばかりだから」
あっ、本当に髪色戻してる。日焼けした肌に白いTシャツにデニムって、なんかかれんとお揃いみたいで既にお似合いなんだけど?
「それじゃ紹介するね、こちらが芹沢かれん、私達と同じ二十五才で私の大親友です!」
私の後ろに隠れてるかれんを梅里くんの前に差し出して自己紹介をした。
「初めまして芹沢です。今日は宜しくお願いします」
かれん堅いって! 何宜しくするのっ!? すると、梅里くんも丁寧にお辞儀をして、
「今日はお時間作って頂きありがとうございます。俺、梅里敦士、鈴森とは高校の同級生でした」
えっ!? 本当にお見合いみたいじゃない? かれんも釣られて深々と頭を下げてるし! しかもここ店前よ!
「それじゃ堅苦しいのはここまでで、今から敬語無しでいきましょう! ねっ、かれんさんっ!」
柔らかい笑顔をかれんに向けていたので少し揶揄ってみた。
「ぷっ、梅里くん、髪色戻したんだ!」
「バカッ、言うなって!!」
「かれん聞いて! 梅里くんね、この前会った時は茶髪でピアスにネックレスで凄いチャラかったのよ! 私、声掛けられてゲッて思ったもん!」
「鈴森、お前そんな風に思ってたのか?」
その様子を見てようやく落ち着いたのか、
「ねぇ、何で髪色戻してチャラいの辞めちゃったの?」
すると梅里くんは照れ臭そうに頭を掻いて、
「いや、元はこれだったんだけど、かれんさんはチャラい方が好きなのかなって茶髪にしたんだ。そしたら鈴森が逆効果だって言うから……」
「ウケる! 私に合わせようと無理したんだ! ありがとね、私、こっちの梅里くんの方が好きよ♪」
好きって! 梅里くん、顔が真っ赤よ! それを見てかれんも自分の言った事に気付いたのか慌てて、
「ちっ、違うし! チャラいのよりこっちの方が好きって意味だからっ!」
慌てたかれんが面白くて私に釣られて梅里くんも笑い出した。あーこれでお互い緊張が取れたわよね。
「もう! 蒸し暑いから早く中入ろ! お座敷予約してあるからさー♪」
※
「それじゃ……」
「「「かんぱーい!」」」
やっぱり夏は涼しい店内で生ビールをジョッキでクイッと飲むのが一番よね! 仕事の疲れが一気に吹き飛ぶわ!
とりあえずいつもの様にメニューを見て、目についた物を片っ端から注文した。今日は男子もいるから残す事も無さそうよね。……あー、男子って言葉、久しぶりに言ったわ♪
するともう緊張がほぐれたかれんが梅里くんに質問した。
「てか、……私、最近何回か梅里くんと店で会ってるわよね?」
「一カ月前に引っ越して来てから週五はスマイルワンに通ってるからね、認知されてたんだ!」
なんか梅里くん嬉しそう♪
「それでかれんの接客してる姿見て好きになったんだよね!」
「鈴森っ!? イヤ、……その、好きになったって言うか、……まぁそんなトコロだけど」
かれんちゃん! お顔が茹でダコの様になってますよ! 誤魔化す様にビールを飲み干しておかわりしてるけどっ♪
「わっ、私っ、何かした? 別に普通の事しかして無いんですけど?」
慌ててるかれんに梅里くんは微笑みながら、
「んー、俺が見たので印象に残ってるのは、間違ってセルフレジで会計を始めたお婆さんが、操作が分からなくてオロオロしてたら順番を待ってたオヤジがキレて、ヤバい空気になった所で入り口から入って来たかれんさんがオヤジに向かって、
『お前にセルフレジ教えたの私だろ? んじゃ今度はお前がお婆さんに教える番だろ、違うか?』って! 周りのお客さん大歓声だったよね、覚えてる?」
かれんちゃん! なんて男前なのっ!?
「他にも外国人の女の子のレジでおばちゃんが、番号を言わずにタバコの銘柄を言って、その子が探すのに時間がかかってたら、『これだから外人はダメね〜!』とか言ってるのにキレたかれんさんが、
『おばちゃん、ここにタバコは銘柄でなく番号でお伝え下さいって書いてあるでしょ? 日本人なのに日本語読めないの?』とピシャリとぶった斬ってまたも周りのお客さんから歓声があがったんだけど、忘れちゃった?」
かれんは『それが何か?』みたいな顔してるけど、中々出来る事じゃないわ! やっぱりかれんは凄いっ!!
「だって外国から来て一生懸命頑張ってる子に日本は嫌な所だって思われたくないっしょ? あと客は神様じゃないし! ウチの店の客は私が決めるんだからモラルのない奴はいらないしー!」
「その通りです! 実は俺も隣の駅のコンビニでバイトしてるんだけど、酷い人って割と居るもんだなって思うよ」
「でしょー! だからせめて自分の店だけはそんな人が居ない店にしたいんだよねー♪」
それから二人はコンビニあるあるや、前職のホテルの接客やお客さんについて熱く語り合い、まさに私は『後は若い者に任せて……』状態になってしまった。
※
「でねー、聞いてよあっくん! いづみんったらねー!」
「あはははっ、マジか!? てかかれんちゃんヤバ過ぎ!」
……何、もう私の居場所なくない? しかも私を酒の肴に好き勝手言ってさ!
この前まであんなに私達愛し合ってたのに、……酷いわ!
……なーんてね! かれんが楽しそうに喋ってるのを見てると自分の事の様に嬉しい! 梅里くんなら二股とかしないわよね? 知らんけど。
私は何だか寂しくなって思わず歩夢くんに電話をかけた。仕事だったら電源切ってるし、迷惑にならないわよね。
…………って繋がった!!
「もしもし、いづみさんどーしたの?」
「ちょっ、ちょっと待って!」
私は慌ててお座敷を出て、静かな場所に移動した。
「ごめん、何でもないの! ただ、……ちょっと声が聞きたくなっただけ」
「いづみさん……、俺も声が聞きたかったです」
嬉しい! 歩夢くんあんな忙しいのに、私の事思ってくれてたんだ!
「あのね、実は今日、かれんに私の高校の同級生を紹介したの、そしたら二人で盛り上がっちゃって、私、邪魔みたいだから、へへっ」
「そっか、かれんさんにもやっと春が来るんですね! ……でも、あんなに部屋に入り浸ってたのが居なくなると、いづみさん寂しくなりますね」
「……うん。でもこれからは歩夢くんがいつ来ても私しか居ないわよ、ねぇ、どーする?」
「……っっ!! もうっ、揶揄わないで下さいっ! 本気にしますよっ! あっ、俺もう戻らなきゃっ! 声聞けて元気出ました! それじゃおやすみなさい」
…………やっぱりこの声、好き♡
その後二人は意気投合しカラオケに行こうと誘って来たけど私は先に帰る事にした。流石に空気読むわよ!
※
〜そして一ヶ月後〜
二人はめでたく付き合う様になり、梅里くんは隣の駅のコンビニを辞め、なんとスマイルワンの社員になった。今ではヤクザ店長とも打ち解けて二人で飲みに行ったりもするみたい。これは次期店長って事でいいのかしら?
私の部屋にある荷物も徐々に減っていき、とうとう二人は同棲する事になった。スマイルワンの側のマンションって言ってたからご近所さんね、通勤も楽になって良かったでしょ?
「じゃあかれん、またいつでも遊びに来てね!」
「ありがとう! まぁ近いしね、ケンカしたらすぐに転がり込むよ!」
「またまたぁ、ラブラブなクセにー! それじゃエントランスまでお見送りするよ」
私達はエレベーターに乗り込むと何故かかれんは七階のボタンを押した。
「えっ、……どーゆー事?」
「あー言ってなかったっけ? あっくん家このマンションの七階、だからケンカしたらすぐにいづみんのトコに帰るからっ!」
「来なくていーからっ!!」




