三上先輩(蓮さま)
「それじゃお疲れーす!」
「お疲れ様です! 今日はご迷惑をお掛けしてすみませんでしたぁ〜っっ!!」
三上先輩は俺を気遣って飯に連れてってくれた。
都内某所にある隠れ家的なこの店は先輩の行きつけの店らしく、店主らしい人に挨拶をすると直ぐに店員さんが奥の個室に案内してくれた。
バディの収録の時も色々アドバイスがてらラーメンや焼き肉、飲みにもよく誘ってくれたよな。
三上先輩を見て声優になりたいと思った俺としては憧れの人とこうして飯を食いに行けるなんて夢のようだ。
その事をいづみさんに言うと羨ましがって毎回質問責めに遭うんだけど……あ、また思い出しちゃった。
「つーか最初っからアレやれよっての! あの後あっという間に終わったじゃねーか!」
「すいません、他のキャストさんや現場の皆さんにも謝って回りました」
「あはは、まぁ人間だからそーゆー日もあるわ、歩夢はずっと真面目にちゃんとやって来たからな、俺は逆にそんな駄目なお前を見れて嬉しかったぞ」
ビールで乾杯をした後、何も頼んでいないのに刺身や天ぷらが運ばれて来た。すげーな、もしかしてこれ『マスター、いつもの』ってヤツ?
「すいません、次からはこんな事のない様に集中してやります」
「だから堅いんだよ歩夢は! もっと力抜いてさ、せっかくこんな商売してんだから楽しんでやらないとなー!」
そういえば現場で先輩はいつも楽しそうにしている。周りの人ほぼ全員に声を掛けて、裏方の人にも上下関係なく友達の様に接している。
まだそんなに沢山の現場に入っていないけど、三上先輩のいる現場はいつも明るく和やかだ。
「俺もいつかは先輩みたいに現場に居るだけで花が咲いた様な存在になりたいです!」
「やめろよ、気持ち悪ぃーな! それより歩夢さー、そろそろその『先輩』ってヤメない? お前からしたら俺だけじゃなくてみんな『先輩』だろ?」
「あははは、そう言われたらそうでした!」
「それじゃ今から俺の事は『蓮』でいーから、先輩禁止な! じゃないと俺が先輩の役者に会った時気まずいんだよ!」
「そ、それじゃ……、この店って、頼んでもいないのにさっきから次々料理が運ばれて来るんですけど、蓮は店主と知り合いなんですか?」
「おまっ、お前さー、そこは『蓮さん』だろ? 歩夢天然か?」
ヤバっ、普通に考えて『さん』つけるに決まってるだろ?
「あぁっ、すいません蓮さんっ! ……で、良いですよね?」
「いちいち聞かなくても分かるだろっ!? まっ、いいや、この店はウチの社長の知り合いで俺が入所したての頃良く連れて来てもらってたんだよ。
だからこうやってゆっくり喋りたい時や、お忍びで来る時は利用させてもらってるんだよ」
こういうお忍びで来られる様な、隠れ家的存在の店っていいなぁ。いつかは俺も後輩連れて来れる様になれるといいな。
※
「蓮さん、この刺身めっちゃ美味いっす!」
「蓮さん、この海老、プリップリですよっ!」
「蓮さん、ビールおかわりいいっすか?」
「蓮さん、……トイレ何処すか?」
「あー、蓮さん蓮さんうるさいっ! お前わざと言ってんのか!?」
「だって憧れだった先輩を名前で呼べる間柄になったんですよ! 何度でも言って脳に染み込ませたいじゃないですかー!」
「お前なぁ……、左の通路を歩いて突き当たりだ、早く行って来い!」
蓮さんは呆れた顔をしているけど、一年前の俺が知ったら腰を抜かすぞ! って事が次々と起きてるんだ。憧れの人と同じ事務所に入所して、共演して、飯食ってんだよ! 信じられないだろ?
「蓮さん、お待たせしました!」
「歩夢、調子に乗り過ぎ! ……てか元気になって良かったよ!」
優しい笑顔でサラッとそんな事言うの反則だよ! 心配してくれてたんだな、こんなんされたら女の子じゃなくても惚れちゃうよ!
「はい、心配していただきありがとうございました。もう大丈夫です!」
「なら良かった! これからはあまり溜め込まないで何かあったらいつでも行って来いよ」
どの料理も美味しいし、蓮さんが新人の頃の失敗談とか、先輩声優さんから聞いた、ためになる話を聞いて、知らず知らずのうちにお酒がすすむ。
「あー俺、本当嬉しいっす。憧れだった人とこうして居られるなんて!」
「歩夢、……お前それ何度も聞いてるぞ? 酔ってんのか?」
「何度でも言いたいんですよ! あー嬉しいなぁ♪」
すっかり上機嫌な俺は調子に乗って、ここぞとばかりに質問責めをしていた。
それに対し、自分の経験や他の人の話を交えて丁寧に答えてくれる。蓮さんの周りにはいつも人が集まって来るのが良く分かるよ。そりゃいづみさんも好きになるよな……って、なんですぐいづみさんの顔が浮かんで来るんだよっ!
「ん、……どーした、急に黙り込んで?」
「あの、……仕事とは関係無いんですけど、蓮さんって彼女とか、好きな人とか居るんですか?」
すると蓮さんは待ってましたと言わんばかりの顔で、
「おー! やっと話す気になったか! お前今日上の空だったのって女の事だろ?」
参ったなぁ、流石蓮さん、何でもお見通しなんだな。
「まぁ俺の事は後で話すとして……、何があった? ……まさか子供が出来たとかじゃ無いよな?」
「ちっ、違います違いますっ!! 実は俺……」
お酒のせいなのか、それとも蓮さんの話しやすい雰囲気を作るのが上手いのかは分からないけれど、俺はコンビニがオープンして、初めていづみさんと会った日から昨日の夜までの出来事を時系列で話した。
蓮さんは俺の話に興味津々で、時にツッコミを入れ、肝心な所では真剣な表情で聞いてくれた。
「…………って事があったんです。
蓮さん、俺、この先どうやっていづみさんと接して行けば良いですか?」
蓮さんは腕を組み、暫くの間考えて……、
「でもそのいづみって子、俺の事が最推しなんだろ? じゃあ歩夢はとっとと諦めて俺に紹介しろよ! 俺以外の男なんて眼中に無い様に調教してやるからさ!」
…………ん、何言ってんだ、この人?




