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ボイスサンプル


  「あの、それで相談なんですけど、サンプルのセリフ、……一緒に考えてもらえませんか?」


 するとかれんが興味津々な顔で首を突っ込んで来た。


 「何ナニ? そーゆーのってあらかじめセリフ用意してあんじゃねーの?」

 「今回のは自分で考えないといけないんですよ。三十秒位ので、三、四パターン」


 かれんが良く分かって無かった様なので、スマホで他の事務所の声優さんのボイスサンプルを聞かせてみた。




 ※




 「ふーん、色んな声色を出してアピールすんだな、ヨシッ、理解したわ! 私にも書かせて!」


 そう言ってスマホを手に指を滑らせていく。


 「一応、等身大、少年、俺様、年下、熱血なんかで作ろうと思うんです。三十秒で収まる感じでお願いしますね」


 私も男女問わず色々な声優さんのボイスサンプルを聞いて来たのでこの手のものは割と思いつく。はっきり言って内容よりも、こういう声が出せますよってアピールする為の物だし。


 私は食べ終わった食器をキッチンに運ぶと歩夢くんも手伝ってくれて、


 「俺、洗い物やりますよ。いづみさんが作ってくれたんだからゆっくりしてて下さい」

 「だめよ、歩夢くんの方こそ忙しくて疲れてるでしょ? 今日はお客さんなんだから」


 すると私の耳元で、


 「俺、いづみさんの側に居たいんです。それじゃ一緒に洗い物しませんか?」


 ……っっ!! 甘くて優しい声にクラッと目眩がした。あぁ、やっぱり好きだわ、この声♡


 「……うん。それじゃ一緒にやろっか」


 二人並んでキッチンに立つ。私が洗って歩夢くんが食器を拭く。些細な事だけどなんか恋人気分になるわ。

 

 「へへっ、なんかこうしてると俺達恋人同士みたいですね♪」

 「……なっ、何言ってんのよ!?」


 私も同じ事考えたなんて言えない!


 「今度休みが合った時は、二人でスーパーの買い出しから一緒にご飯作りましょうね!」

 「まぁ、……いーけど」

 「やったー! 嬉しいなぁ、楽しみがまた増えましたよ!」


 歩夢くんは久しぶりに顔を合わせたのが嬉しかったのか、なんか素直に自分の気持ちを伝えてくれた。

 私は年上なのに駄目だな、恥ずかしくて全然素直になれないや。

 

 でも、なんかいーな、こーゆーの。私、歩夢くんともっと一緒に居たい。隣で声を聞いていたい。




 ※




 「出来た! こんなん余裕っしょ!」


 得意気に顎を上げてかれんはスマホを見せて来た。


 「ありがとうございます! 自分で考えて喋るとなるとなんか照れ臭くて!」

 「これでも私、小学校の作文コンテストで入賞した事あるし! 何個でも思いつくわ!」


 私も歩夢くんの隣に座りスマホを覗き込む。



 「「…………っっ!!」」


 「こんなの駄目よっ! 官能小説じゃないんだから! えっちなのは禁止っ、歩夢くんに何言わせたいのよ!?」

 「えーっ、でもいづみん、歩夢の声でこーゆーエロいの聞きたいでしょ♡」

 「なっ、何言ってんの? それはソレ、これはコレよ!」


 そりゃ聞いてみたいわよ! ふと歩夢くんを見ると私をじっと見て、


 「聞きたい……ですか?」

 「っっ!! いーから! それより書き直しっ! 私も考えるから歩夢くんはテレビでも見てて!」


 ニヤニヤしてる歩夢くんから離れ、私はベッドで文章を考える。

 定番は熱血スポーツ物よね、私はセリフを口ずさみながら三十秒を超えない程度の文章を考える。


 でも歩夢くんなら年下の男の子もいーわね! シチュエーションは年上のお姉さんに背伸びをして……って、私達みたいじゃない! 却下却下っ!!


 するとかれんが、


 「これならどーよ! さっきのキッチンでの二人書いたんだけどー?」


 再び私は歩夢くんの隣に座り一緒にスマホを覗き込む。


 『俺、洗い物やりますよ。いづみさんが作ってくれたんだからゆっくりしてて下さい』

 『俺、いづみさんの側に居たいんです。それじゃ一緒に洗い物しませんか?』

 『へへっ、なんかこうしてると俺達恋人同士みたいですね♪』

 『今度休みが合った時は、二人でスーパーの買い出しから一緒にご飯作りましょうね!』

 『やったー! 嬉しいなぁ、楽しみがまた増えましたよ!』



 …………っっ!! 顔から火が出そうだ! 歩夢くんも真っ赤になってるし!



 「かれんっ、さっきの会話全部聞いてたのっ?」

 「こんな狭い部屋でイチャついてたら嫌でも聞こえるっつーの! なんかいー雰囲気だったし、キスとかすんじゃないかと思ったわ♪」


 ニヤニヤしながら私達を見ている。


 「する訳ないでしょっ! こんなの却下っ、却下だからねっ!」

 「えーっ、別にいーじゃん! こーゆーのでいーんだよな、なぁ歩夢?」


 すると歩夢くんは恥ずかしそうに口を開いた。


 「かれんさんに聞かれてたのは恥ずかしいけど、採用で!」

 「えっ、……何で?」

 「だってこれがサンプルになったら、今日いづみさんと一緒にキッチンに立ってた事を思い出せて元気出るじゃないですか!」


 歩夢……くん!


 「でっ、でも、名前は伏せないと! 女の子も一杯聞くんだし、特定の名前は避けないと駄目よ!」

 「うーん、そーですね。それじゃ名前の部分だけ変えて……」


 そしたらかれんがまた馬鹿な事を言い出した!


 「じゃあいづみんのトコ『奥さん』に変えてみれば? ニシシッ♪」


 …………。



 「駄目に決まってるでしょ? これじゃ不倫モノじゃないっ!?」




 ※




 ……結局私の名前は伏せて『先輩』に変えて採用となった。これなら健全な感じがするわよね?


 後の『熱血』『俺様』『等身大』は私のが採用になった。そりゃ散々サンプル聞いて来たんだから当たり障りのないの位いくらでも書けるわ!

 

 「それじゃ一回時間計って練習してみてもいーですか?」

 「いーも何も私は大歓迎よ! やったぁ、生で推しのサンプル聞けるなんて! ねぇかれん? ……って、眠いの?」


 かれんは半目になって船を漕いでいた。


 「かれんさんも一生懸命に考えてくれてたもんな。仕事終わりだしそりゃ眠くなるよ、って! もうこんな時間だ!」


 時計の針はもう既に十一時を回っていた。楽しい時間はあっという間だな……。


 「すみません、長居しちゃって! サンプル出来たら真っ先にいづみさんに聞かせますから!」


 慌ただしく荷物をまとめて歩夢くんは立ち上がった。


 「それじゃ俺帰ります。ご飯ご馳走さまでした!」


 爽やかな笑顔で玄関を開ける。



 「待って!」



 …………あれ? 心の声が勝手に出た。



 そして歩夢くんのシャツの袖を掴み、


 「明日午後からでしょ? それなら、……泊まってけば?」

 


 

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