歩夢くんが部屋に来た!
「いづみんも歩夢が来る前にシャワー浴びておいでよ。それで二人でこの格好で出迎えようぜ、ヒヒッ♡」
「なっ、何言ってるの! バカな事言ってないで早く服着なさいよっ!」
かれんはバスタオルを体に纏い前屈みになって胸元を強調させている。私が見てもドキドキするんだから歩夢くんが見たら大変な事になるわ!
大急ぎでシャワーを浴びて洗面所で髪を乾かす。
私も鏡の前でかれんみたいにバスタオル一枚でポーズをとってみた。んー、やっぱイマイチだわ。
「……てか何してんの? 写真撮ろっか?」
かれんっ!? いつから見てたの? 恥ずかしい〜っ
パシャ♪
かれんは私が振り向いたタイミングでスマホをタップした。
「キャッ!! もう何撮ってんのよ、消してっ!」
「い〜ねー! これ、歩夢に見せたらマジ興奮すんじゃないの!」
「もうっ、見せたら絶交だからね! 部屋にある荷物全部外にぶん投げてやるんだからっ!」
「あはは、わかったわかった! んじゃいづみんに送っとこ♪」
ピロリン♪
「だけどさー、アンタ達もそろそろ少しは進展しないの? 人気も出て来て今が大事な時期なのは分かるけどさー、同時に言い寄ってくる女も増えるって事なんじゃないのー?」
かれんはやれやれと言った表情で核心をついてきた。
「『私は歩夢くんのファン第一号だから!』とか言って歩夢に手を出させない様に予防線張ってたら、あっという間に他の女に取られちゃうよ、アイツモテるんだからさ!」
「べっ、別に私は……」
私の両肩を掴み、いつになく真剣な顔で詰め寄った。
「バイトも入らなくなったから会う機会も減ってんでしょ? このままじゃいづみん、本当にただの歩夢のファンって関係になっちゃうよ、それでもいーの?」
「そっ、それは、……嫌よ。でも私のせいで歩夢くんに迷惑をかけるのはもっと嫌なの」
「だからさー、それで他の女と付き合ってる所見られたら同じじゃん! 今のタイミング逃したらいづみん絶対後悔するよ?」
「かれん……」
普段は冗談ばっか言ってるけど、私の事になるとちゃんと真剣に考えてくれる。かれんありがとね、これも隣にコンビニが出来てくれたおかげだわ。
歩夢くんの事は勿論好きだけど、それは口に出しちゃいけない。今の関係が崩れるのが怖いの。
ただ言えるのは声が好き! あの声で話しかけてくれるだけで嫌な事があっても元気になる。そしてもっと世の中の人に歩夢くんの声を聞いてもらいたいって思う。
だから私のせいで迷惑をかけるのは嫌! でも他の人に取られるのも……、嫌。
私、どうしたらいいんだろう?
「ねぇ、もうすぐ歩夢来ちゃうよ。本当にそのカッコでお迎えすんの?」
いつものニヤけた顔で言ってきた。かれんいつの間に服着てんのよ? 私は慌てて途中だった髪を乾かし、かれんとお揃いの部屋着に着替えて眉を描いた。
※
「お邪魔しまー…………っっ!! 何でお揃いなんですか?」
かれんはライトグリーン、私は淡いピンクの部屋着と言う名のパジャマで歩夢くんをお迎えした。
「んだよー? 私だって可愛いの着たいんだよ!」
「お疲れ様歩夢くん、お腹空いてるでしょ? ご飯とお味噌汁は作ったけど後はコンビニのお惣菜だから」
「あっ、俺も駅前で春巻きとコロッケ買って来たんで一緒に食べましょう!」
初めて歩夢くんを部屋に入れた。歩夢くんはソファーに腰を下ろしてソワソワしながらも部屋を見回している。
「もうっ、あんまり見ないで! 恥ずかしいよ」
するとかれんは歩夢くんの隣に腰掛け肩を組んで、
「どーよ歩夢、念願のいづみんの部屋は? いー匂いすんだろ、オイ?」
オッサンみたいな言い方やめなさいよ! 歩夢くんはかれんの腕を振りほどきながら、
「んー、いづみさんの部屋ってもっとシンプルなの想像してたけど、……なんか物が多くて二人暮らししてるみたいですね?」
「かれんが入り浸る様になって物が増えたのよ! もうその内かれんの物ばっかりになって私、追い出されるかも知れないわ」
「そしたら歩夢、いづみん貰ってやってくれよ! そしたら私、今のトコ引き払ってココに住むからさー!」
冗談で言ってんだから歩夢くんもそんな顔赤くしないでよ!
「もう、くだらない事言ってないでかれんも手伝って、はいご飯よそったからそっちに運んで!」
さっきかれんに言われたからなんか変に意識しちゃうわ。私の部屋に歩夢くん居るからってのもあるんだろうけど。
※
「「「いただきまーす!」」」
そんなに大きくはないテーブルにギッシリとご飯とおかずが並ぶ。この部屋、わりと広めのワンルームなのに流石に部屋に三人も居ると狭く感じるわ。
「あー、やっぱりみんなで食べるの良いですね! ご飯も炊き立てで美味しいし!」
山盛りにしたご飯とコロッケをガツガツと食べている。かれんは春巻きをつまみにビール飲んでるし。私も飲みたい所だけど、部屋だと気が緩んでまた噛みついたりなんかしたら最悪だからお茶を入れて飲んでいる。
「んで、仕事順調なん? もうバイト入れないんじゃないのか?」
口いっぱいに詰め込んだご飯を飲み込んでから歩夢くんは、
「んー、そうだなー。覚えなきゃいけない事も増えたからちょっと厳しそうです」
やっぱり忙しいのね。あーぁ、遂に隣に出来た都合の良いお渡し会も終了か。
「それじゃもうこの駅も用無しだなー!」
「そっ、そんな言い方無いでしょ?」
「だってそーじゃん! それともまた部屋に呼んじゃう?」
「えっ、いーんですか?」
なんで自分の部屋の様に言うの! 歩夢くんもそんな期待した顔しないで!
でもまぁかれんが居るから二人っきりになる事もないからいっか、私も会いたいしね。
私が頷くと、嬉しそうにまたご飯を口いっぱいに詰め込んだ。誰も取らないからゆっくり食べなよ。
「でも歩夢〜、変な事期待すんなよ! この部屋には私も居るんだからな!」
ドヤ顔で言ってるけど、それってどーなの? これからは家賃半分出して貰おうかしら?
「へっ、変な事なんか期待してないですよ!
ただ、…………会える日が減ったから会いたいなって……」
「おっ、言うねぇー! ほらっ、いづみんも言っちゃいなよ『私も会いたい!』って!」
顔から火が出そうだ。歩夢くんも会いたかったんだ! しかもそんな甘え声で!
「かれんっ! 恥ずかしいからやめてっ!」
かれんは上機嫌で冷蔵庫に向かい二本目のビールを取り出した。
「それにいづみさんには相談にも乗って欲しいし……」
「何? 私が力になれるなら何でも言って!」
歩夢くんに頼られるのは素直に嬉しい! かれんは『私じゃねーのかよっ?』って怒ってるけど。
「実は、今度ウチの事務所のHPをリニューアルするんですけど、今までは関係者宛に作ってたボイスサンプルを今度は新しくみんなに聞いてもらえる様に公開するんです」
えっ! それじゃいつでも歩夢くんの声が聞けるって事!? 社長様ありがとうございます!!
「あの、それで相談なんですけど、サンプルのセリフ、……一緒に考えてもらえませんか?」




