↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/55

第四十八話 帰途

翌朝。


アルフォンスたちは、ノルドグラムを後にするため、町の外へと向かっていた。


その道の途中。


マーガレットとデイジーが、町の外まで見送りに来てくれていた。


「皆様、本当にありがとうございました」


マーガレットが、みんなに向かって深く頭を下げる。


「この旅は、私たちにとっても、とても大切な思い出になりました」


そして、顔を上げると、優しく微笑んだ。


「本当に、ありがとうございます」


「これからは、皆様を私たちのお気に入りの冒険者として登録させていただきたいと思います」


「また何か私たちにもご都合のよい依頼がありましたら、お願いしたいと思いますので……」


少しだけ楽しそうに笑って。


「今後とも、よろしくお願いしますね」


そう言ってから――


マーガレットは、アルフォンスの方へ視線を向けた。


「そして……」


その目が、少しだけ細くなる。


「アルフォンスさんも、娘ともどもよろしくお願いしますね」


意味ありげな視線。


まるで何かを言外に伝えるような目だった。


「え?」


アルフォンスは、きょとんとする。


「はい。もちろんですよ」


……やっぱり、分かっていない。


マーガレットは小さく苦笑した。


そして、アルフォンスのもとへ歩み寄る。


「アルフォンスさん」


「はい?」


「よろしければ、これを受け取っていただけませんか?」


そう言って差し出したのは――


美しい蝶のブローチだった。


「これは……」


「この蝶のブローチは、私たちとの再会の約束の印です」


マーガレットは、優しく微笑む。


「そして――」


蝶の形をしたブローチを、そっとアルフォンスへ差し出す。


「あなたがこれからも、私たち以外の人たちを、どんどん導いていく人になってくださるように」


「そんな願いも込めています」


「よろしければ、受け取ってください」


アルフォンスは、少し照れたように頭を掻いた。


「僕は、そんな大それたものではないんですけど……」


それでも、ブローチを見つめる。


「そこまで期待してもらっているなら……」


そして、嬉しそうに笑った。


「喜んで受け取ります」


「ありがとうございます、マーガレットさん。デイジーちゃん」


「アルフォンスさん」


マーガレットが、ふと声をかける。


「ちょっと、かがんでもらえますか?」


「はい?」


アルフォンスは言われた通り、少しかがんだ。


その瞬間――


ちゅっ。


左の頬に、柔らかな感触。


「……え?」


アルフォンスが目を丸くする。


キスをしたのは、デイジーだった。


そして――


ちゅっ。


今度は反対側。


マーガレットが、アルフォンスの右頬にそっと口づけをした。


「ちょっとしたお礼です」


マーガレットは、いたずらっぽく微笑む。


「また、よろしくお願いしますね」


「……」


アルフォンスは、完全に固まっていた。


「ふふっ」


マーガレットが笑う。


その隣では、デイジーが嬉しそうに笑っていた。


「アルフォンスお兄ちゃん!」


「う、うん?」


「ありがとう!」


デイジーは元気いっぱいに手を振る。


「私が大きくなったら、また一緒に冒険してね!」


「うん。もちろん」


「絶対だよ!」


「うん。約束だよ」


「約束だからね!」


「うん、約束」


何度も念を押すデイジーに、アルフォンスは笑顔で頷いた。


そして――


「じゃあね!」


デイジーが大きく手を振る。


「またね、アルフォンスお兄ちゃん!」


「またね、デイジーちゃん!」


アルフォンスたちも手を振り返す。


やがて馬車がゆっくりと動き始める。


デイジーとマーガレットの姿が、少しずつ遠ざかっていく。


デイジーは最後まで、元気いっぱいに手を振っていた。


アルフォンスも、見えなくなるまで手を振り返した。


⸻


しばらくして。


ノルドグラムの町並みが遠くなり、馬車は街道を進んでいた。


車輪が規則正しく地面を叩く。


ガタン、ゴトン。


そんな馬車の揺れの中で――


「……アルちゃん」


ヘカテーが、隣に座るアルフォンスをじっと見る。


「ん?」


「……あの二人だけ、ずるい」


「え?」


ヘカテーは、ちょっぴり頬を膨らませている。


「私も」


「え、ちょっと、ヘカテーちゃん?」


ヘカテーがアルフォンスへ身を寄せる。


そして――


ちゅっ。


「……!」


アルフォンスの頬に、ヘカテーがキスをした。


「これでいい……」


「いや、えっと……」


アルフォンスが困ったように頬を押さえる。


すると――


「じゃあ、私も反対からね」


リリエルまで乗っかってきた。


「リリエル姉さんまで!?」


ちゅっ。


今度は反対側。


アルフォンスは、二人のお姉ちゃんに挟まれてしまった。


「……」


完全になすがままになっている。


向かい側では、ゲイルがニヤニヤと笑っていた。


「いやぁ……人気者だな、アルフォンス」


「ゲイルさん、笑ってないで助けてくださいよ……」


「いやいや。これは俺が口を挟むところじゃねえだろ」


「もう……」


アルフォンスは苦笑する。


「まあ……依頼中は、あの二人のことばっかりやってたからね」


「ちょっとほっといた感じになっちゃったから……ごめんね」


「ふふっ。分かればいいのよ」


リリエルが笑う。


「……別に、怒ってないけど」


ヘカテーも、少しだけ顔を逸らした。


すると、少し離れたところから――


「……ふんっ」


シャロが、不機嫌そうにそっぽを向いていた。


「シャロちゃん?」


サンドラが声をかける。


「どうしたの?」


「……別に」


「そう?」


「……私の唇は、そんなに安くないから」


「誰もそんなこと言ってないわよ」


サンドラが苦笑する。


「素直になりなさいな」


「ふんっ」


シャロはそのまま、馬車の端へ移動してしまった。


しばらくして。


「……追いかけてきなさいよ」


小さな声が聞こえた。


「え?」


アルフォンスが振り返る。


「なんでもない!」


シャロは顔を赤くして、またそっぽを向いた。


どうやら、難しいお年頃らしい。


そんな様子を見て、みんなが小さく笑った。


⸻


馬車が街道を進む中。


アルフォンスは、昨夜の出来事をみんなに話していた。


四方の森の主の一人、グランベリルモス。


デイジーに託された、森の主たちとの約束。


そして――


いつか未来で待っている、フローラ姫との出会い。


話を聞き終えたガルドが、感心したように声を上げる。


「ほぉー」


「俺たちが見てない間に、そんな面白いことになってたのか」


「しかも森の主なんて、とんでもねえVIPからの依頼だと」


ガルドは楽しそうに笑った。


「冒険者冥利に尽きるじゃねえか!」


「そうですね」


リリエルも、嬉しそうに頷く。


「アルちゃんならではですね」


そして、少し遠くを見るように目を細めた。


「デイジーちゃんも、最後にはあんな笑顔でお別れできてよかったと思います」


「それに……」


リリエルは、ふっと笑った。


「あんなに笑顔だったのは、次の冒険を約束できたからなんですね」


「よかったと思います」


「……うん」


ヘカテーも小さく頷く。


「デイジーちゃん、いい子」


そして、少しだけ羨ましそうに呟いた。


「あの子みたいな妹、私も欲しい」


「ふふっ」


リリエルが笑う。


「じゃあ、今度デイジーちゃんに会ったら、お姉ちゃんになってあげればいいじゃない」


「……そうする」


ヘカテーは素直に頷いた。


そんな話をしながら――


馬車は、ゆっくりと街道を進んでいった。


やがて遠くに、オーテの町並みが見えてくる。


「もうすぐですね」


アルフォンスが前方を見ながら呟いた。


「ですね」


ガルドが答える。


「今回の旅も、あっという間だったな」


「うん」


アルフォンスは、少しだけ微笑んだ。


ノルドグラムで過ごした時間を思い出す。


デイジーの笑顔。


マーガレットの笑顔。


そして――


胸元で揺れる、蝶のブローチ。


アルフォンスは、そっとそれに触れた。


「また、会えるといいな」


誰に言うでもなく、そう呟いた。


⸻


そして。


王都に到着すると、アルフォンスたちはそのままギルドへ向かった。


「依頼人より謝礼もいただいております」


モカが、受付で確認をしながら微笑む。


「結果も問題ありません。皆さん、お疲れ様でした」


「ありがとうございます」


アルフォンスが頭を下げる。


これで、今回の依頼も無事に完了した。


そう思った、その時だった。


「――モカちゃん!」


バタバタバタッ。


ギルドの奥から、慌ただしい足音が聞こえてくる。


「ココアちゃん?」


珍しく、ココアが慌てた様子で走ってきた。


そして、アルフォンスの前まで来ると、一通の手紙を差し出した。


「大変です!」


「え?」


「西方のグラディウス家の方から、アルフォンスさん宛てにお預かりしました」


「至急、読んでほしいとのことです」


「……」


アルフォンスの表情が変わった。


何か――


ただ事ではない。


そんな気配を感じ取ったのだ。


「分かりました」


アルフォンスは手紙を受け取る。


封を開け、そこに書かれていた文字を目で追っていく。


そして――


その顔から、笑顔が消えた。


父からの手紙だった。


そこには、母・エレナの体調が思わしくないこと。


今にも倒れてしまいそうなほど弱っていること。


そして――


もしかすると、もう長くないかもしれないこと。


だから。


一度、顔を見に帰ってきてほしい。


そう書かれていた。


「…………」


アルフォンスは、しばらく手紙を握りしめていた。


そして。


小さく呟く。


「……母さん」


次の瞬間。


アルフォンスは踵を返した。


「アルフォンス?」


「すみません!」


急いでギルドを飛び出す。


そして、乗ってきた馬へと駆け寄った。


手綱を握る。


鞍にまたがる。


「母さん……!」


アルフォンスは馬を走らせた。


向かう先は――


西方。


グラディウス家領、ローゼベル。


母、エレナのもとへ。


今すぐにでも、会いに行くために。


残ったメンバーも、すぐに動き出した。


「リリエル、ヘカテー!」


「うん!」


「分かったわ」


二人はアルフォンスの後を追う。


その背中を見送るシャロは、ぽつりと呟いた。


「あんな悲しそうな顔のあいつ……見てるの、辛いよ」


サンドラは、そんなシャロの頭を優しく撫でる。


「部外者の私たちは、ただ待つだけだわ」


「無事を信じて、待ちましょう?」


「……うん」


シャロは素直に頷いた。


そして――


誰もが、アルフォンスと家族の無事を祈っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。