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第四十七話 森の奥にて

「ここが、私たちの故郷――ノルドグラムになります」


マーガレットが、窓の外を眺めながら微笑んだ。


「皆様、長旅お疲れ様でした」


そして、みんなに向き直る。


「今日は一日、私たちの家に泊まっていってください」


「ささやかではありますけれど、精一杯おもてなしさせてくださいね」


「なかなか楽しい旅だったが……」


ガルドが、満足そうに息を吐く。


「これで終わりか」


「そういうことになるな」


ゲイルも、少し名残惜しそうに笑った。


「せっかくここまで来たんだ。ねぎらってもらえるってんなら、ちゃんと受け取っておこうぜ」


「そうだね」


アルフォンスも笑った。


「それじゃあ、お邪魔しようか」


そしてマーガレットを見る。


「マーガレットさん。大

人数ですけど、よろしくお願いします」


「もちろんです」


マーガレットは嬉しそうに微笑んだ。


「喜んで」



その日の夜。


屋敷には、たくさんの料理が並んだ。


旅の疲れを癒やすような、温かな料理。


「これは美味しいな!」


「ノルドグラムの料理って、こんな感じなんだな」


「旅の途中のあの町では、こんなことがあったよな」


料理を囲みながら、みんなでこれまでの旅を振り返る。


笑い声が絶えない。


デイジーも楽しそうに笑っていた。


「アルフォンスお兄ちゃん、あの時ね――」


「うんうん」


「それでね、ゲイルおじちゃんが――」


「おい、そこは言わなくていいだろ!」


「ふふっ」


マーガレットも楽しそうに笑う。


長い旅の最後を飾る、楽しい宴だった。


――けれど。


アルフォンスは、ふと気づいた。


「……?」


いつもなら誰よりも元気なはずのデイジーが、

少し静かだった。


「デイジーちゃん」


「なあに?」


「どうしたの?」


アルフォンスは、心配そうに顔を覗き込む。


「疲れた?」


「お腹、痛い?」


「ううん」


デイジーは笑った。


「何でもないよ、お兄ちゃん」


「大丈夫だよ」


「……そっか」


アルフォンスも笑い返した。


けれど――


気づいてしまった。


デイジーの目の端に、ほんの少しだけ涙が溜まっている。


この子は――


泣くのを我慢しているんだ。


きっと、楽しかった旅が終わってしまうのが寂しいんだろう。


しかし、アルフォンスは、それを指摘しなかった。


「じゃあ、何かあったら教えてね」


「うん!」


デイジーは、いつものように笑った。


やがて、宴も終わりを迎える。


「今日は本当にありがとうございました」


「こちらこそ、楽しませてもらったよ」


みんなが口々に礼を言い、それぞれの部屋へ戻っていく。


「おやすみなさい」


「おやすみ」


「また明日な」


そんな声が、屋敷の中で交わされる。


デイジーもマーガレットと一緒に部屋へ戻った。


「今日は楽しかったね、デイジー」


「うん……」


「疲れたでしょう?」


「うん」


デイジーは小さく頷く。


「おやすみなさい、お母さん」


「おやすみなさい、デイジー」


マーガレットは、優しく娘の頭を撫でた。



それから――


屋敷は、静かな夜に包まれていった。


誰もが眠りについた頃。


窓の外では、月明かりが静かに森を照らしている。


風が、木々の葉を揺らす。


そして――


どれくらい時間が経ったのだろう。


「……」


マーガレットが、ふと目を覚ました。


なぜか、胸騒ぎがする。


「……デイジー?」


隣を見る。


そこにいるはずの娘の姿がない。


「……え?」


マーガレットは起き上がった。


部屋の中を見回す。


けれど、どこにもいない。


「デイジー……?」


嫌な予感が胸をよぎる。


マーガレットは急いで部屋を出た。


そして、みんなの部屋を回る。


「皆さん……!」


眠っていたアルフォンスたちが、次々と目を覚ます。


「どうしたんですか?」


「大変です……!」


マーガレットの声が震えている。


「デイジーが……」


「デイジーが、どこにもいないんです!」


「……!」


その瞬間。


アルフォンスは、飛び起きた。


「デイジーちゃんが?」


「はい……!」


「探しましょう!」


アルフォンスは、一目散に屋敷の外へ駆け出した。


「アルフォンスさん!」


マーガレットも、その後を追う。


そして――


屋敷の入口まで来たところで、マーガレットの足が止まった。


「……あ」


そこに、不思議な模様が浮かんでいた。


蜘蛛の巣。


けれど、普通の蜘蛛の巣ではない。


幾何学的に広がる、美しい文様。


「これは……」


マーガレットの表情が変わる。


そして、小さく呟いた。


「……虫の知らせです」


「虫の知らせ?」


アルフォンスが振り返る。


「ええ」


マーガレットは森の方を見る。


「この町では、森の虫たちが何かを知らせてくれることがあるんです」


「この文様は……」


一瞬、言葉を失う。


「何かが、森で起きたに違いありません」


マーガレットは、アルフォンスを見る。


「行きましょう!」


「はい!」


二人は、森へ向かって走り出した。


そして――


森の入口を抜けた、その時だった。


「……あれ?」


アルフォンスが足を止める。


暗い森の中。


遠くで、何かが淡く光っている。


「……蝶?」


一匹の青い蝶が、月明かりの中を飛んでいた。


その羽ばたきに合わせるように、青い光が残っていく。


「……青の軌跡」


マーガレットが、息を呑む。


蝶は、アルフォンスの前まで飛んできた。


そして――


ぴたり。


まるでアルフォンスを待つように、その場に止まる。


「……?」


アルフォンスが一歩近づく。


すると蝶は、ふわりと飛び上がった。


そして、森の奥へ。


少し進んでは、振り返る。


また進んでは、振り返る。


まるで――


こっちへ来い。


そう誘っているようだった。


アルフォンスは、マーガレットを見る。


マーガレットも、静かに頷いた。


「……行きましょう」


「はい」


「この導きに、従いましょう」


二人は、青い光を追って――


森の奥へと進んでいった。


デイジーは、生まれて初めて出会ったたくさんの友達と一緒に旅をした。


アルフォンスお兄ちゃん。


リリエルお姉ちゃん。


ヘカテーお姉ちゃん。


シャロお姉ちゃん。


サンドラお姉ちゃん。


ゲイルおじちゃん。


ガルドおじちゃん。


みんなと一緒に食べて。


みんなと一緒に笑って。


みんなと一緒に歩いた。


そんな毎日が――


デイジーには、とても楽しかった。


だからこそ。


それが、もう終わってしまうことが寂しかった。


その夜。


みんなが眠りについたあとも、デイジーはなかなか眠れなかった。


今日までの旅を思い出す。


楽しかったな。


また、みんなと一緒に旅がしたいな。


そんなことを考えていると――


ぽろり。


涙が頬を伝った。


「……こんなことで泣いてちゃ、お母さんを心配させちゃう」


デイジーは涙を拭いた。


そして、そっとベッドから降りる。


静かに部屋を出て――


家の外へと出た。


夜のノルドグラムは、静かだった。


森の方から、涼しい風が吹いてくる。


そのときだった。


「デイジー……」


「……?」


どこからか、優しい声が聞こえた。


「デイジー……泣いているのですか?」


デイジーは、辺りを見回す。


誰もいない。


「私でよければ、お話を聞きましょう」


その声は、とても優しかった。


知らない声のはずなのに――


なぜか、ずっと昔から知っているような。


そんな、不思議な懐かしさがあった。


「私の声と……青い蝶の導きに従って、私のところまで来てください」


「……青い蝶?」


その言葉に反応するように――


ふわり。


月明かりの下を、一匹の青い蝶が飛んできた。


「わぁ……」


デイジーは涙を忘れて、その蝶を見つめた。


青く輝く羽。


そして、夜の森の中に残るような、淡い青の軌跡。


「……綺麗」


青い蝶は、ゆっくりと森の奥へ飛んでいく。


そして少し進んでは、まるでデイジーを待つように振り返る。


「待って……」


デイジーは、その後を追った。


森の中へ。


さらに奥へ。


青い蝶の導きを頼りに、デイジーは歩いていく。


やがて――


蝶が、一輪の花の上に止まった。


デイジーも足を止める。


そこには、誰もいない。


けれど。


確かに、誰かがいる。


そんな気がした。


「あなたが……私を呼んだの?」


静かな森に、デイジーの声が響く。


すると――


「ええ」


優しい声が返ってきた。


「優しいデイジー」


「私が、あなたを呼びました」


デイジーは、少しだけ首を傾げる。


「どうして?」


「あなたが泣いていたからですよ」


その声は、どこまでも穏やかだった。


「……あなたのお話を、聞いてあげたかったのですけど、あなたのことが大切な人たちがお迎えに来たようですよ」


デイジーが振り返る。


森の向こうから――


マーガレットとアルフォンスが、息を切らしながら走ってくる。


二人の姿を見た瞬間。


デイジーの目から、また涙がこぼれた。


でも今度の涙は――


寂しさではなかった。


デイジーは、二人のもとへ駆けていった。


「デイジー!」


「デイジーちゃん!」


「お母さん……お兄ちゃん……」


デイジーの目から、また涙がこぼれる。


マーガレットはすぐにデイジーのもとへ駆け寄ろうとした。


けれど――


アルフォンスが、そっと前に出る。


そして。


初めてデイジーと出会ったときと同じように。


デイジーの前で、ゆっくりとしゃがんだ。


目線を合わせる。


「デイジーちゃん」


優しい声だった。


「改めて聞くよ」


「どうして泣いているの?」


「……」


デイジーは、少しだけ俯いた。


そして――


「私ね……」


小さな声で話し始める。


「ずっと、みんなと一緒で楽しかったから……」


「これでお別れだと思ったら……寂しくて」


「……そうだったんだね」


アルフォンスは、静かに頷いた。


「大丈夫だよ」


「僕たちは、ただの依頼人と、その依頼を受けた冒険者ってだけの関係じゃないから」


「……え?」


「初めて会った日に、もう友達だから」


デイジーが顔を上げる。


アルフォンスは、いつもの優しい笑顔で続けた。


「明日お別れだとしても、これっきりの出会いじゃないよ」


「離れていても、心は一緒だよ」


「それに――」


アルフォンスは、少しだけ笑った。


「君が会いたくなったら、いつでも会いに行くから」


「……」


デイジーの目に、また涙が浮かぶ。


でも――


今度は、笑顔だった。


「……うん!」


その笑顔を見て。


アルフォンスとマーガレットは、同時にデイジーを抱きしめた。


「お母さん……」


「お兄ちゃん……」


デイジーは二人の胸に顔を埋める。


「心配かけて、ごめんなさい」


マーガレットは、そんな娘を優しく抱きしめながら――


しばらく何も言えなかった。


やがて。


「……デイジー」


小さく名前を呼ぶ。


「ごめんなさいね」


「……?」


デイジーが顔を上げる。


マーガレットは、娘の頬に残った涙をそっと指で拭った。


「あなたが寂しいと思っていたことに……私は気づいてあげられなかったわ」


「……」


「今日のあなたは、いつもより少し静かだったでしょう?」


「お母さんは、疲れたのかなって思ってしまったの」


「でも……違ったのね」


マーガレットは、少しだけ苦しそうに笑う。


「あなたは、楽しかったからこそ……終わってしまうのが寂しかったのね」


デイジーが小さく頷く。


「……うん」


「それなのに、あなたは私に心配をかけないように、一人で泣いていたのね」


「……」


マーガレットは、デイジーをもう一度強く抱きしめる。


「ごめんなさい」


「あなたに我慢ばかりさせていることに、気づけない母親で……ごめんなさい」


「お母さん……」


「あなたは、いつも笑ってくれていたものね」


「だから私は、その笑顔に甘えていたのかもしれないわ」


マーガレットの声が、少し震える。


「デイジーは明るい子だから」


「何があっても大丈夫な子だから」


「そんなふうに……勝手に思ってしまっていたのかもしれない」


「でもね」


マーガレットは、デイジーの目をまっすぐ見つめる。


「あなたは、我慢しなくていいのよ」


「寂しいときは、寂しいって言っていいの」


「悲しいときは、泣いていいの」


「お母さんに心配をかけたくないからって、一人で抱えなくてもいいのよ」


デイジーの目から、また涙がこぼれる。


「……でも、お母さん心配するから」


「ええ」


マーガレットは優しく笑った。


「心配するわ」


「あなたが大切な娘だから」


「だからこそ――」


デイジーの頭を、そっと撫でる。


「一緒に悲しませてちょうだい」


「一緒に寂しがらせてちょうだい」


「あなたが抱えているものを、私にも分けてほしいの」


「……お母さん」


「私はあなたのお母さんですもの」


「嬉しいことも、楽しいことも」


「悲しいことも、寂しいことも」


「全部、一緒に分け合っていきましょう」


デイジーは、涙を流しながら笑った。


「……うん」


「これからは……ちゃんと言うね」


「ええ」


マーガレットも笑う。


「約束ですよ」


そして二人は、もう一度ぎゅっと抱きしめ合った。


その隣で、アルフォンスも静かに微笑んでいた。




しばらくして3人に語りかける声が聞こえる


心配させたのは私の落ち度でしたね、ごめんなさい

このままではなんですから前に出ますね


そして森の奥から


木々が途切れた場所に――


巨大な淡い緑色の蛾。


翡翠のような光沢を持つ羽。


宝石のような翠緑の瞳。


その姿は巨大なのに、なぜか恐ろしさがない。


むしろ森そのものがそこにいるような静けさ。


グランベリルモス。翠蚕の女王が姿を現した。


マーガレットは息を呑む。


「……グランベリルモス様……」


「マーガレットも、お久しぶりですね」


穏やかな声が響いた。


「デイジーが生まれた時以来かしら?」


「……はい」


マーガレットは、驚きながらも懐かしそうに微笑んだ。


「お久しぶりです、グランベリルモス様」


「ふふ。あの小さかった子が、こんなに大きくなったのですね」


グランベリルモスの視線が、デイジーへ向けられる。


「……改めて私はグランベリルモスこの森の主をしています。

あなたが、デイジーね」


「……うん」


デイジーは少し緊張しながらも、頷いた。


「こんにちは、ぐらんべりるもす様」


「ええ。こんにちは、デイジー」


その声は、まるでずっと昔から彼女を知っているかのように優しかった。


「ここに来てもらったのには、理由があります」


グランベリルモスは、優しくデイジーを見つめた。


「デイジーに、お願いがあるのです」


「お願い?」


「ええ」


少しだけ間を置いて、グランベリルモスは続ける。


「私たち四方の森の主にも、お仕えする主人がいらっしゃるの」


「私たちにとって、とても大切な方です」


「デイジーには、その方とお友達になってほしいのです」


「お友達?」


デイジーは、きょとんと首を傾げる。


そして――


「いいよ!」


あまりにも迷いのない返事に、アルフォンスもマーガレットも目を丸くした。


グランベリルモスは、嬉しそうに微笑む。


「まあ……」


「マーガレットに似て、優しい子ですね」


「……恐縮でございます」


マーガレットは少し照れたように頭を下げた。


「ですが――」


グランベリルモスの表情が、ほんの少しだけ真剣になる。


「私たちの主人にお会いするためには、一つだけ必要なことがあります」


「試練……というほどのものではありません」


マーガレットの表情が少し曇る。


「そんな危険なことを、デイジーにさせるわけではありませんから、ご安心なさい」


そしてグランベリルモスは、デイジーへ優しく語りかけた。


「私から一つ」


「そして、私以外の三方の森の主からも、一つずつ」


「四方の森の主、それぞれの印をもらってきてほしいのです」


「その印が揃えば――」


グランベリルモスは、静かに微笑んだ。


「私たちの主人――フローラ姫様に、お会いすることができます」


「フローラ……ひめ?」


デイジーが、その名前を口にする。


森の奥から吹いた風が、木々を静かに揺らした。


「例え何年かかっても構いません」


グランベリルモスは、優しくデイジーを見つめる。


「ですが……できれば、あなたが成人するまでに叶えてもらえると嬉しいですね」


グランベリルモスは、静かに続ける。


「我が主人が開花するためには、私たちに認められた立会人が必要なのです」


「立会人……」


「そう」


グランベリルモスは、もう一度デイジーを見る。


その瞳には、長い年月を生きてきた者だけが持つ、深い優しさが宿っていた。


「長い時を生きてきた私ですが――」


「これほどまでに無垢な魂を持つ子は、そう多くありません」


そして、微笑む。


「だから……この子にお願いしたいのです」


「我が主人、フローラ姫様の開花に立ち会う者として」


「あの……」


アルフォンスが、おずおずと口を開く。


「手助けする分には……いいですよね?」


グランベリルモスは、アルフォンスへ視線を向けた。


そして、少しだけ目を細める。


「あなたは……」


「西の森の主の気配がするのね」


「西の森の主……?」


アルフォンスが首を傾げる。


グランベリルモスは、穏やかに微笑んだ。


「ええ。問題ないわ」


「主と敵対しない人間であれば、誰でも構いません」


「むしろ――」


そう言って、デイジーへ視線を戻す。


「この子が望むのであれば、あなたにも力を貸してもらいたいくらいですよ」


「……そうですか」


アルフォンスは、ほっとしたように笑った。


「それなら、僕もできることをやります」


「ふふ……」


グランベリルモスは、そんなアルフォンスを見て微笑んだ。


「やはり、西の森の主が気に入るのも分かる気がしますね」


「マーガレット……」


グランベリルモスは、少し申し訳なさそうにマーガレットを見る。


「幼い貴女の子どもに、こんなお願いをしてしまってごめんなさいね」


マーガレットは、静かに首を横に振った。


「いいえ」


そして、穏やかに微笑む。


「グランベリルモス様に頂いた繭で、私たちはこれまで何不自由なく生きてこられました」


「それに……」


マーガレットは、隣にいるアルフォンスを見る。


「アルフォンスさんが一緒なら、私も何も心配しておりません」


アルフォンスは少し驚いたように目を瞬かせた。


「……僕ですか?」


マーガレットは微笑んだまま頷く。


「ええ」


「そう……」


グランベリルモスは、嬉しそうに微笑んだ。


「それなら、よかったわ」


そして、ゆっくりとデイジーの前にしゃがみ込む。


「デイジー」


「なあに?」


「貴女の人生を……少しだけ、私たちに貸してくださいね?」


デイジーは、少しだけ考える。


そして――


「うん」


いつものように、素直な笑顔で頷いた。


「わかった!」


グランベリルモスは、そんなデイジーを見つめて――


「ありがとう」


優しく微笑んだ。


「でも……」


マーガレットは、デイジーを見つめる。


「まだこの子は幼すぎます」


「もう数年待ってから、始めさせてください」


グランベリルモスは、静かに頷いた。


「ええ」


「そうするといいわ」


そして、優しく微笑む。


「その時に、改めて私のところへいらっしゃい」


「はい」


グランベリルモスは、デイジーへ視線を向ける。


「四方の森の主が、貴女を待っているわ」


「四方の森の主?」


デイジーが首を傾げる。


「ええ」


「北のグランベリルモス」


「東のグランオブシディアントライホーン」


「南のグランラピスバタフライ」


「西のグランガーネットクィーン」


その名前を聞いた瞬間――


「……え?」


アルフォンスの表情が変わった。


聞き覚えのある名前。


いや。


正確には――


「西の……グランガーネットクィーン?」


思わず、アルフォンスが呟く。


グランベリルモスは、そんなアルフォンスを見て微笑んだ。


「やはり、ご存じなのね」


「はい……」


アルフォンスは少し驚いた顔で頷く。


まさか、こんなところでその名前を聞くことになるとは思っていなかった。


「世の中って……意外と狭いんですね」


「ふふっ」


グランベリルモスは、楽しそうに笑った。


「ねぇデイジー、これからあなたの好きなアルフォンスとまだまだ一緒に旅ができるわよ」


イタズラそうに笑うグランベリルモス


「本当に?やったー」

無邪気に喜ぶデイジーだった



それからしばらく、四人で話をした。


森のこと。


フローラ姫のこと。


そして、これからのこと。


話し終える頃には、すっかり夜も深くなっていた。


「それじゃあ、帰りましょうか」


マーガレットがそう言うと、デイジーが嬉しそうに頷く。


「うん!」


アルフォンスも笑って、二人の手を取った。


三人は手を繋ぎながら、ゆっくりと屋敷へ戻っていった。


そして――


「どこに行ってたのよ!」


屋敷に戻った途端、シャロがぷりぷりと怒った顔で出迎えた。


「心配かけんじゃないわよ!」


「……」


「……」


「……」


三人とも、なんともバツの悪そうな顔をする。


シャロはそんな三人を見て、ふんっと鼻を鳴らした。


「……それじゃ、休ませてもらうから」


そう言うと、さっさと自分の部屋へ戻っていった。


パタン。


扉が閉まる。


「……」


サンドラは、その背中を見送ってから肩をすくめた。


「素直に心配したって言えばいいのに、あの子ったら」


「ふふっ」


マーガレットは、優しく笑った。


「いえ」


「ちゃんと心配して、私たちが帰るまで待っていてくれましたから」


そして、シャロが戻っていった部屋を見る。


「優しい子ですね」


「そうでしょ?」


サンドラも、少し嬉しそうに笑った。


「まあ、ああいうところがシャロの可愛いところなの」


マーガレットは小さく頷く。


「ええ」


「素敵なお友達ですね」


その言葉に、アルフォンスも嬉しそうに笑った。


「はい」


そしてデイジーも――


「シャロお姉ちゃん、優しいね!」


「……!」


少し離れた部屋から、何かが落ちる音がした。


「……聞こえてるわよ!」


「ふふっ」


屋敷の中に、みんなの笑い声が響いた。


ここまで読んでいただきありがとございます。


今回は、デイジーにとって初めての長い旅が終わるお話でした。


楽しかった時間が終わってしまうのが寂しくて、一人で泣いてしまったデイジー。


そんなデイジーに、アルフォンスは「離れていても、心は一緒だ」と伝えました。


そしてマーガレットも、娘が我慢していたことに気づき、これからは嬉しいことも悲しいことも一緒に分け合っていこうと約束しました。


家族だからこそ、言葉にしなくても分かることがあります。


でも、家族だからこそ、言葉にして伝えることも大切なのかもしれません。


そして物語の最後には、ノルドグラムの森の主――グランベリルモスが登場しました。


デイジーを待っていた、森の奥の新しい出会い。


そして、その先にいるフローラ姫。


デイジーの旅は、まだ始まったばかりです。


次はどんな出会いが待っているのでしょうか。


旅人の皆様、次の物語でお会いしましょう。

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