第四十三話 女子会?昔話
今日は待ちに待った女子会の日。
そして、なんと今回の女子会を主催したのは――サンドラだった。
場所は宿屋の一室。
テーブルの上には、色とりどりの料理や飲み物が並んでいる。
その中でもひときわ目を引くのは、こんがりと焼き上がったアップルパイと、綺麗に並べられたクッキー。
どちらも、アルフォンスに依頼して作ってもらったものだ。
「それじゃあ、今日は楽しみましょう!」
サンドラがグラスを掲げる。
「かんぱーい!」
「乾杯」
「乾杯です」
それぞれがグラスを合わせ、女子会が始まった。
料理やお菓子は、もちろんアルフォンスのものだけではない。
それぞれが思い思いの料理や飲み物を持ち寄っている。
普段の冒険や仕事から離れ、今日は気楽に話をするための集まりだ。
そして、今回の女子会にはサンドラなりの目的があった。
「ねえ、ヘカテーちゃん、リリエルちゃん」
サンドラが、二人に声をかける。
「私とシャロは最近アルちゃんと知り合ったんだけどさ」
隣に座っているシャロが、少しだけ視線を逸らす。
「……アルフォンスね」
「そうそう、アルちゃん」
サンドラは笑いながら頷いた。
「私、あの子のこと気に入っちゃったのよ」
「……私も」
シャロが小さく呟く。
その言葉に、ヘカテーとリリエルが顔を見合わせる。
「それでね」
サンドラはアップルパイを一切れ取りながら続ける。
「せっかくなら、昔からあの子を知ってる二人に聞いてみたいなって思ったの」
「昔のアルちゃんが、どんな子だったのか」
そして、楽しそうに笑う。
「あの子が、昔からどんな人だったのか。今と何か変わってるのか」
「それを今日は教えてほしいなと思って、今回この場を開いたの」
「なるほど……」
ヘカテーは微笑む。
「アルちゃんの昔話…」
「そういうこと!」
サンドラは嬉しそうに頷いた。
「だって気になるじゃない?」
シャロも、少しだけ身を乗り出す。
「……まあ。昔からあんな感じだったのかは、ちょっと気になる」
するとリリエルが、懐かしそうに笑った。
「そうねぇ……」
そして一言。
「昔から、あの子はあんまり変わってないわよ」
「え?」
サンドラが目を丸くする。
「本当に?」
「ええ」
リリエルはアップルパイを一口食べる。
「昔から、人一倍優しい子でね」
ヘカテーも、懐かしそうに頷いた。
「困っている人を見つけると、すぐに駆けずり回ってしまうんです」
「……今と同じじゃない」
シャロが呟く。
「そうなんです」
リリエルが笑う。
「アルちゃんは昔から――」
少しだけ間を置いて。
「自分のことより、誰かのことを先に考える子だったのよ」
「そうねぇ……」
リリエルは、少し頬を赤くしながらアップルパイを頬張った。
「あるちゃんがねぇ……」
「アルフォンスがどうしたのよ?」
シャロが首を傾げる。
すっかり酔っぱらっているような口調で、リリエルは嬉しそうに話し始める。
「あのねぇ……あるちゃんが赤ちゃんのときね」
「赤ちゃんの頃?」
「そう。まだ、こーんなに小さくてねぇ」
リリエルは両手を広げて、大きさを表現する。
「生まれたばかりの頃にね、私が手を出したらねぇ……」
そこで、にへらっと笑った。
「ぎゅっ、て握ってくれたの」
「…………」
「それでねぇ」
リリエルは、まるで昨日のことのように嬉しそうに語る。
「私の顔を見て、にこって笑ったの」
「……かわいい」
シャロが思わず呟いた。
「でしょう?」
リリエルは嬉しそうに頷く。
「それでね、私、その瞬間に決めたの」
「何を?」
サンドラが尋ねる。
リリエルは胸を張った。
「私が、この子のお姉ちゃんになるって」
「……え?」
ヘカテーも思わず目を丸くする。
「それは……決めたというより……」
「決めたの!」
リリエルは即答した。
「この子は私が守るって。ずっと一緒にいてあげるって」
そう言って、また嬉しそうに笑う。
「だって、あんな顔で笑われたら仕方ないじゃない」
「……それは分かるかも」
シャロが小さく頷く。
「でしょう?」
リリエルは満足そうに笑った。
「だから私、あの日からずっとアルちゃんのお姉ちゃんなんだから」
その言葉に、ヘカテーは優しく微笑んだ。
「リリエルちゃんは昔から変わらない‥‥」
「そう?」
「リリエルちゃんはリリエルちゃん」
ヘカテーはアップルパイを一口食べる。
「今でもアルちゃんのことになると、すぐに飛んで行っちゃうから」
「だってアルちゃんだもの」
リリエルは当然のように答えた。
「……本当に、昔から変わってないんですね」
シャロが呟く。
するとリリエルは、少しだけ遠くを見るような目をして――
「うん」
優しく笑った。
「あの子は、昔からずっとアルちゃんよ」
次はヘカテーの番になり少し懐かしそうに口を開いた。
「アルちゃんが初めて料理を作ってくれたのが、動物さんのクッキーだったの」
「クッキー?」
サンドラが興味深そうに身を乗り出す。
「うん。私が今も大好きなクッキー」
ヘカテーは、テーブルの上に並んだクッキーを見る。
「いつもメイドさんに作ってもらっていたクッキーだったんだけど……アルちゃんは、私がそれを好きなのを覚えていたみたい」
「それで自分で作ったの?」
シャロが尋ねる。
「そう」
ヘカテーは頷いた。
「初めて作った料理だったらしいわ」
「へえ……」
「理由を聞いたらね」
ヘカテーは、少しだけ照れたように笑った。
「『私に喜んで欲しいから』って」
「…………」
シャロが黙り込む。
サンドラはニヤニヤしている。
「アルちゃん、昔からそういうことしてたのねぇ」
「そうみたい」
ヘカテーはクッキーを一枚手に取った。
「初めてだったから、形は今ほど綺麗じゃなかったし、味だって今の方がずっと美味しい」
「でもね」
ヘカテーは、そのクッキーを眺めながら微笑んだ。
「アルちゃんは、それからもずっと料理を研究していったの」
「今じゃ、こんなに綺麗なお菓子まで作れるようになった」
テーブルの上のアップルパイを見る。
「それでも――」
少しだけ間を置いて。
「私は、あの時のクッキーが一番好き」
「今のより?」
シャロが驚く。
「うん‥‥」
ヘカテーは穏やかに笑った。
「初めて作ってくれたクッキーだから」
「私が喜ぶと思って、一生懸命作ってくれたものだから」
そして、小さく呟く。
「……あの気持ちは、ずっと私の宝物なの」
サンドラはそんなヘカテーを見て、にやりと笑った。
「なるほどねぇ」
「何よ」
「いやぁ。アルちゃん、昔から女の子を喜ばせるのが上手だったんだなぁって」
「アルちゃんがしてくれることはなんでも嬉しいから‥‥」
ヘカテーは少しだけ顔を赤くした。
「それでねぇ……」
リリエルは、少し酔ったような顔で笑いながら、さらに話を続ける。
「アルちゃんはね」
「私、二人が大きくなったら、もう私なんていらないんだろうなって思ってたの」
「二人とも大きくなって、自分のことは自分でできるようになって……」
リリエルは、少しだけ寂しそうに笑う。
「だから、そろそろ私の役目も終わりかなって」
「でもね」
その表情が、ふっと柔らかくなる。
「アルちゃんは、ずっと一緒にいてくれたの」
「それだけじゃなくてね」
リリエルは嬉しそうに笑った。
「『これからも一緒にいてほしい』って言ってくれたのよ」
「……」
ヘカテーが黙ってリリエルを見る。
胸の奥が、きゅっと締まった。
その言葉は、自分にも向けられたものだったから。
「私、嬉しかったなぁ」
リリエルは、胸元に手を当てる。
「だって、私が勝手にお姉ちゃんになったと思ってたのに」
「アルちゃんの方から、これからもお姉ちゃんでいてほしいって言ってくれたんだもの」
「……うん」
ヘカテーの口から、思わず小さな声が漏れる。
「私も……リリエルちゃんと一緒がいいと思ってる」
「ふふっ」
リリエルが楽しそうに笑う。
「ヘカテーちゃんも一緒よ」
リリエルはヘカテーを見ながら、優しく微笑んだ。
「だから私も決めたの」
「これからも二人を大事にするって」
リリエルは、アルフォンスとヘカテーを思い浮かべるように、優しく目を細めた。
「大きくなったからって、お姉ちゃんを卒業する必要なんてないものね」
「これからも、ずっと二人のお姉ちゃんでいるんだから」
「……うん」
ヘカテーは小さく笑った。
「…ずっと、一緒‥‥」
その声だけは、照れながらもまっすぐだった。
「じゃあ、シャロちゃんは?」
リリエルが、今度はシャロへと話を振る。
「最近のアルちゃんとのことで、何かないの?」
「私?」
シャロは少し考える。
「……別に、何もないわよ」
「本当に?」
「本当」
シャロはそっけなく答える。
「ただ……」
「ただ?」
「この前、怒った生徒が私に掴みかかってきたときに……アルフォンスが私を庇ってくれたわ」
「……」
ヘカテーが静かにシャロを見る。
シャロは少しだけ頬を赤くしながら続ける。
「それから……」
「フードで隠してた私の顔を見て……」
「綺麗だって言ってくれたの」
リリエルの口元が、にやりと緩む。
「へぇ~?」
「それだけじゃなくて……」
シャロは目を逸らす。
「花が咲いたみたいだって……言ってくれた」
「…………」
「ちょっと嬉しかっ――」
シャロは、はっと口を押さえた。
「……」
「……」
「……今、何て言ったの?」
リリエルが静かに尋ねる。
「言ってない!」
「言ったわよねぇ?」
リリエルが楽しそうに笑う。
「嬉しかったって」
「言ってない!」
シャロの顔がみるみる赤くなる。
「違うの! あれは……!」
「何が違うの?」
「その……!」
言葉に詰まり、シャロはフードを深く被る。
「……恥ずかしい」
「ふふっ」
リリエルが優しく笑う。
「シャロちゃん、可愛いわねぇ」
「うるさい!」
「でも、アルちゃんって欲しい言葉をいつもくれる‥‥」
ヘカテーが少しだけ笑う。
「本人は、たぶん何も考えていないでしょうけど」
「……それが余計に困るのよ」
シャロは小さな声で呟いた。
「こっちは……そんなこと言われたら、意識しちゃうじゃない」
その言葉に、女子会の空気が一瞬止まる。
そして――
「おお~」
リリエルが嬉しそうに声を上げた。
「シャロちゃん、アルちゃんのこと意識してるんだ?」
「してない!」
シャロは即座に否定した。
けれど、フードの奥から覗く耳は真っ赤だった。
「……あいつのことは」
しばらく黙ったあと、シャロがぽつりと口を開く。
「ちょっと気が利くし」
「料理がうまいし」
「一緒にいても……不愉快じゃないから」
指を一本ずつ折りながら、理由を並べていく。
「だから、一緒にいるだけよ」
「それだけ」
「へぇ~」
リリエルが楽しそうに笑う。
「ずいぶんいっぱい理由があるのねぇ」
「うるさい!」
シャロは顔を赤くして睨む。
「別に、あんたら二人が羨ましいってわけじゃないから!」
「……え?」
ヘカテーが少し驚いた顔をする。
「私たちが?」
「そうよ」
シャロは視線を逸らす。
「昔から一緒だったんでしょ」
「アルフォンスと、ずっと一緒にいて」
「そういうのが……ちょっと羨ましいとか、そういう意味じゃないから」
「……シャロちゃん」
ヘカテーが優しく呼びかける。
「シャロちゃんも仲間入りたい?」
「そんなこと言ってない!」
「ふふっ」
リリエルが笑う。
「シャロちゃんも、アルちゃんとこれからいっぱい思い出を作ればいいじゃない」
「……」
シャロは黙り込む。
そして、ほんの少しだけフードを上げた。
「……まあ」
「これからも、一緒に冒険するくらいなら……」
小さく呟く。
「悪くないけど」
その顔は、やっぱり真っ赤だった。
リリエルとシャロは、しばらく顔を見合わせた。
そして――
「シャロちゃんは、かわいいね」
「かわいくない!」
シャロは即座に怒った。
「かわいくないから!」
「かわいいですよ」
リリエルは、にこにこと笑っている。
「どこがよ!」
「全部」
「適当言わないで!」
シャロはむっとして、フードを深く被る。
「だって私……こんなに怒りっぽいし」
「……」
「まだ子供だし……」
「……」
「それに……」
シャロは、自分の髪を指先でつまむ。
「髪だってこんなにボサボサだし……」
少し間を置いて、さらに小さな声になる。
「胸だって……二人みたいにないし……」
「シャロちゃん」
リリエルが優しく名前を呼ぶ。
「……なによ」
「そんなに自分を悪く言わなくてもいいのよ」
「でも……」
シャロは俯いたまま、ぶつぶつと続ける。
「二人は綺麗だし……」
「大人っぽいし……」
「私はこんなんだし……」
ヘカテーも、静かにシャロを見る。
「シャロちゃん」
「……なによ」
「アルちゃんはそんなこと言わないよ?」
「……」
シャロが黙る。
「あなたが困っていたから、庇ったんでしょう?」
「……そうだけど」
「あなたの顔を見て、綺麗だと言ったんでしょう?」
「……」
「だったら、それがアルちゃんから見たあなたなんじゃないかな?」
シャロは答えない。
ただ、フードの奥で耳が赤くなっていく。
リリエルはそんなシャロを見て、くすっと笑った。
「それにね」
「なに?」
「かわいいっていうのは、胸の大きさでも、髪が綺麗かどうかでもないのよ」
「……じゃあ、何なのよ」
「そうねぇ……」
リリエルは少し考えてから、シャロの頭をそっと撫でる。
「こうやって、一生懸命頑張ってるところとか」
「素直じゃないところとか」
「怒りながらも、本当はちゃんと人のことを心配しているところとか」
「……」
シャロはますます顔を赤くする。
「だから――」
リリエルは笑う。
「シャロちゃんは、かわいいですよ」
「……かわいくない」
「かわいい」
「……うるさい」
「ふふっ」
シャロはフードを深く被り直した。
けれど――
その口元だけは、ほんの少し笑っていた。
そんな二人のやり取りを、少し離れたところで聞いていたサンドラが、ふっと笑った。
「シャロ」
「……なによ」
「いい機会じゃない?」
「何がよ」
サンドラは、自分の髪をさらりと撫でる。
「シャロも、この二人みたいにオシャレしてみない?」
「オシャレ……?」
「そう」
サンドラは楽しそうに笑う。
「アルちゃんが言ってたじゃない」
「シャロは本当に綺麗だって」
「……!」
シャロの耳が、ぴくっと動く。
「まだ、あんた十代なんだから」
「今から磨いていけば、これからどんどん素敵なレディになっていくわよ」
「……レディ」
シャロが小さく呟く。
「髪だって、ちゃんと手入れすれば綺麗になる」
「服だって選び方を変えればいい」
「今のシャロがダメなんじゃないの」
「これから、もっと素敵になれるってこと」
「……」
シャロは自分の髪を触る。
いつも適当に整えているだけの、少し跳ねた髪。
「でも……私なんかが……」
「だからこそ、やってみるのよ」
サンドラは胸を張った。
「せっかくアルちゃんが『綺麗』って言ってくれたんでしょう?」
「……」
「ちょっとくらい、その言葉を信じてみてもいいんじゃない?」
シャロの顔が、また赤くなる。
「そ、それは……」
「ふふっ」
サンドラは楽しそうに笑う。
「もしかしたら――」
少しだけ声を落として、いたずらっぽく続けた。
「もっと綺麗になったシャロを見たら、アルちゃんだって見惚れちゃうかもよ?」
「――っ!」
シャロは一瞬で真っ赤になった。
「な、ななな何言ってるのよ!」
「可能性の話よぉ」
「そんなの……!」
「でも、ちょっと見てみたいでしょ?」
「…………」
シャロは答えない。
ただ、ほんの少しだけ。
自分の髪を気にするように、指先で整えた。
それを見て、リリエルとヘカテーが顔を見合わせる。
「……あら」
「ふふっ」
「何よ!」
「なんでもないわよ」
「なんでもないって顔じゃないでしょ!」
女子会の笑い声が、部屋いっぱいに響いた。
最後にサンドラがこうまとめる
「うん、あの子の話を聞くかぎり、
やっぱ相当、罪な子よねって。
それも子供の頃からなんて、
すごいファンを生んでそうね」
「今日ここに来ないでって言ってあるけど、
ひょっとしたらまた誰かを助けて、
どっかで女の子と知り合ってるかしらね。」
みなは知らない。
アルフォンスが新しいフラグを立てたこと
そして新しい仕事を見つけてきたこと、
そして新たな仲間が参加することを
それからというもの――
ギルドでは、時々こんな光景が見られるようになった。
猫耳フードを深く被った少女が、誰かを探すように歩き回っている。
そして、フードを下ろした瞬間。
「……おい、あれ本当にシャロか?」
「嘘だろ。めちゃくちゃ綺麗じゃねえか」
「前からあんな顔だったっけ?」
「本人に聞いてみろよ」
「やめとけ。怒られるぞ」
そんな声が聞こえるたびに――
「……うるさい」
シャロは頬をぷくっと膨らませる。
「別に、何も変わってないわよ」
そう言いながら、さっとフードを被り直す。
けれど、隠しきれない耳は真っ赤だった。
「シャロちゃん、照れてる?」
「照れてない!」
「顔赤いぞー」
「暑いだけ!」
「今日はそんな暑くないけどなぁ」
「うるさい!」
そんな微笑ましいやり取りが、少しずつギルドの日常になっていった。
そして、ある日のこと。
「……いた」
ギルドの入口から、シャロが誰かを見つけた。
探していた相手。
アルフォンスだった。
シャロは、ぴたりと足を止める。
「……」
少しだけ、胸が高鳴った。
どうしよう。
声をかけようか。
そう迷っていると――
「シャロさん?」
「……!」
先にアルフォンスが気づいた。
「こんにちは」
「……こ、こんにちは」
いつもより少しだけ声が小さい。
シャロはゆっくりとフードを下ろした。
サンドラに教えてもらった通りに整えた髪。
以前より丁寧に選んだ服。
そして、少しだけ背筋を伸ばす。
アルフォンスは、そんなシャロを見て――
「……」
しばらく黙った。
「……な、なによ」
シャロの視線が泳ぐ。
「変……?」
「いえ」
アルフォンスは、柔らかく微笑んだ。
「本当に綺麗ですね」
「――っ!」
シャロの顔が、一気に赤くなる。
「……え」
思わず両手が頬に触れる。
「……あ、あの……」
言葉が続かない。
「もっと綺麗になりましたね」
「……!」
今度は耳まで真っ赤になる。
「ちょ、ちょっと……」
シャロは慌てて髪を触る。
「それ……」
「はい?」
「……本気で言ってるの?」
「もちろんですよ」
「……っ」
シャロは完全に俯いてしまった。
「……ばか」
「え?」
「ばか……」
「何か言いました?」
「何でもない!」
ぷいっと横を向く。
けれど、口元は少しだけ緩んでいた。
そんなシャロを見て、アルフォンスはさらに首を傾げる。
「でも――」
「まだ何かあるの!?」
シャロが勢いよく振り向く。
「ええ」
アルフォンスは、いつもの穏やかな笑顔で言った。
「今のシャロさんは、まるで天使みたいですよ」
「~~~~~~っ!」
シャロの顔が、これ以上ないほど真っ赤になる。
「な、ななな……!」
「……?」
「何言ってるのよ、あんたはぁ!」
両手で顔を覆う。
指の隙間から覗く目まで真っ赤だ。
「そ、そういうこと……!」
「はい」
「簡単に言わないでよ!」
「でも、本当にそう思ったので……」
「だから、それが困るの!」
シャロは顔を隠したまま、その場でじたばたする。
「……もう……」
小さな声が漏れる。
「せっかく……頑張ったのに……」
「?」
「……なんでもない!」
慌ててフードを被る。
しかも今度は、猫耳まで隠すようにぎゅっと引っ張った。
「シャロさん?」
「知らない!」
そのまま、くるっと背を向ける。
けれど――
「……ありがと」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声だけを残していった。
アルフォンスは、その背中を見ながら首を傾げる。
「……喜んでくれたのかな?」
少し離れた場所では、ギルドの冒険者たちがその様子を見守っていた。
「……おお」
「今日はすげえな」
「シャロちゃん、完全に真っ赤じゃねえか」
「よかったなぁ、シャロちゃん」
「……!」
その声を聞いたシャロが振り返る。
「聞こえてるわよ!」
「ははは!」
「もう!」
怒っているはずなのに――
フードの奥の口元は、ずっと嬉しそうに笑っていた。
そんな光景が、ギルドでは時々見られるようになったのであった。
ここまで読んでいただきありがとございます。
今回は女子会ということで、アルフォンスの昔話を中心にしたお話でした。
赤ちゃんの頃から変わらないアルフォンスの優しさ。
そして、そんなアルフォンスを見て「お姉ちゃんになる」と決めたリリエル。
ヘカテーにとっては、初めてアルフォンスが作ってくれたクッキーが、今でも大切な思い出になっています。
そしてシャロも、少しずつアルフォンスとの新しい思い出を作り始めました。
本人はいつも通り、特別なことをしているつもりはないのでしょうけれど、周りには少しずつ大切なものが増えているようです。
……ちなみに女子会の裏側では、アルフォンスが新しい出会いと、新しい仕事、そして新しい仲間まで見つけていたりします。
次は、そんな新しい出会いから始まる北部への旅です。
旅人の皆様、次の物語でお会いしましょう。




