第三十八話 毒と薬
仲間たちに、ギルドでの勉強のための王都への滞在を告げたのち
アルフォンスはギルドへ、ヘカテーは学院へ、リリエルは王都の教会へと足を運んだ。
アルフォンスは教室に到着すると
まずは、薬草学の講義を受けることにした。
しかし、周りの様子を見ると、こんな声も聞こえてくる
「先輩から受けてこいって言われたから来たけど
今更薬草のこと聞いても…なあ?」
「そうそう、必要だったら、街で買えばいいじゃん」
と他の参加者はあまり乗り気ではなさそうだった。
しかも、薬草学の講師は高齢のためか声が小さく、
話すペースもゆっくりのため、参加者の眠気を誘い
つまらなそうにしているもの、突っ伏して眠っているもの様々だったが
アルフォンスは教室の最前列で真面目にノートを取っていた。
「えー、このとおり、薬草は形がよく似たものがたくさんありますが見分けるコツはあります」
「たとえばこの煎じれば、回復薬の元にもなる
ニチリンソウ、日当たりのいい湿った場所に生息しています。
しかし、気をつけないといけないことがあります。
見つけるのも簡単なのですが、そのそばには、ほぼ間違いなく毒草も混ざって生息しています。
しかも見た目も似てるからよく使い間違いで毒にかかる冒険者が後を絶ちません。
見分け方は、葉の形をよく見てください。
葉の切れ込みが浅く、丸みを帯びているものが正解で
逆に切れ込みが深く尖っているのが毒草です。」
そんな感じで、
この近辺で取れる主な薬草と
よく似た特徴の毒草についての見分け方について
習うことができた。
アルフォンスとしては習ったことのない知識を吸収する機会として、楽しんで勉強していたし
料理にも使えるハーブなどの見分け方がわかって満足のいく内容だった。
講義後、アルフォンスに講師が話しかけてきた。
「アルフォンス君、だったかな?
君は楽しそうに講義を受けてくれるから、
普段は言わないことまで教えてしまったよ」
「見ての通り、あまり面白くない講義だからね、
みんな寝てしまうことも多いんだよ」
「先生、ありがとございました。
知らないことを知ることは楽しいです。
それに、僕、料理もしますから山菜やハーブの見分け方まで教えて頂けてすっごく勉強になりました。」
講師は、髭をさすりながら、
ニコニコと笑い満足そうな顔で
「うんうん、今まで講義をした中でここまできちんと聞いてくれた子は久しぶりだよ。
君のような勤勉な子がいるパーティは
わたしの知る限り、良いパーティであることが多い。
是非頑張っておくれよ」
そう激励をして薬草学の講義が終わった。
翌日は調合学の講義だった。
この日は、昨日とは違い、起きている参加者ばかりだった。
「なんだ、あのちびっ子は?」
「シャルロッテちゃんが講師と聞いて参加した」
「知らないのか?、我らがギルドのマスコットを」
なぜなら調合学の講師はシャルロッテだったからだ。
彼女は、教室の教室を開けると教卓に向かって前を向く。
教卓は高く顔があまり見えないので
「よいしょ」
と踏み台を持ってきて顔を出した。
「よし、お前たち。今から調合学の講義を始める。
私はシャルロッテ、今日は講師として厳しく行く。」
「後、誰がマスコットだ、おバカ」
と言ってチョークをその発言者の眉間に投げつける。
「あ、痛い」
手をぱんぱんと払い、改めて講義を開始する
「この調合というもの非常にデリケートなものなの。
まだわからないかもしれないけど
同じ配合をしたつもりでも、匙一杯の違いだけでも
全く効能が変わってしまうことが多い。」
「それに、調合に使う薬草っていうのは
基本的に自生しているものから採取して使うもの。
だから、似たような薬草と毒草の見間違いをしたら
大変なことになるのは分かるよね?
間違った調合をするってことは人の命を脅かすことになるの」
そう腕を組み、深く被ったネコミミフードで
隠れて見えないはずの双眸が光って威嚇しているように見える。
「というわけで、
今日の講義は実際に薬草を使って
回復薬を調合してもらう。
このすり鉢で薬草を粉末状に細かくして、
沸騰したお湯に溶かして冷ます。
こんな感じの工程だから、そんなに難しくない作業でしょ?
ただし、昨日の薬草学の講師のおじじに頼んで、
薬草と毒草の違いの話もしてもらったから
これから、薬草と毒草の混ざったザルを持ってくるから
そこから自分で選んで調合してもらう」
やばいという表情をした参加者を気に留めず、調合を開始した。
「おい、どれだ?この葉の方がたくさんあるからこっちだな、流石に毒草の方が多いことはないだろ」
「街で見たのは確か…これだよな」
そう悩みながら選ぶ他の参加者の中、
(えーと、回復薬の素材のニチリンソウは葉が丸いから…これだ)
アルフォンスは一目で正解を選ぶ。
その様子を見て、シャルロッテは口元に笑みを浮かべる
「よし、全員選んだね。
それじゃあ、今選んだ薬草で回復薬を作ってみて
ビーカー一杯の水に匙一杯分くらいのバランスで混ぜて作れるわ」
みんな、おっかなびっくりな手つきで作業している。
流石に慎重に行っている。
一通り様子を見て周り、熱冷ましまで行われたのを見て
完成したのを確認した声をかける。
「よし、それではできたものを見てみろ。」
各机のものを見渡すと、ほとんど参加者の色が紫色の液体である中、アルフォンスを含めた数名のものが薄い緑色の液体だった。
「それなら自分で作った回復薬を飲んで。
ちゃんとしたものなら大丈夫でしょ」
みんなが一口含む。
アルフォンスはちょっとした苦味を感じただけで
特になんともなかったが
紫色の回復薬を飲んだ参加者が、
「なんだ、なんともないじゃな…はれ…舌が…痺れて」
「気持ちが…」
と言って机に突っ伏していく。
「あーあ、言わんこっちゃない。ほらこれを飲みな」
と言って、透明な液体を飲ませていく。
荒かった呼吸も落ち着いていき、体をおこすと、
「おい、毒じゃねえか、何飲ませんだ。
俺たちが選んだものが毒って知ってんのに教えろよ」
と怒鳴るが
シャルロッテは意に返さない。
「最初に言ったよね。
昨日の薬草学を聞いてれば分かることだって。
そうだよね、アルフォンス?」
突然振られたアルフォンスも、ノートを広げながら
「そうだよ、こんな感じで
似たような薬草と毒草の違いを教えてくれたんだ」
と返す。
シャルロッテは満足そうな顔でうなづいて、
先ほどの参加者の方を見て
「私は最初に言ったよね?
調合を間違えると大変なことになるって
今、あんたは自分で作ったもので失敗したけど
私がいたからなんともなかった。
仮にあんたのパーティで考えな?
あんたを信じて飲んだ回復薬が実は毒で、
それが原因で死んじゃったらどう思う?」
「そんなもん、薬草とか回復薬を街で買っていけば間違えねえし」
「ハッ、あんた冒険に出るときにどんだけ
重装備で行くつもり?
ちょっとした怪我でも治してくれる神官がいなかったら
回復は回復薬頼み、いくらあっても足らないわ」
「だから、調合は現地調達が基本なの。
目利きができないやつには無理よ」
正論で詰められた参加者は逆上して
シャルロッテにつかみかかる
襟首を掴まれ、フードが落ちるとそこには
ボサボサの金髪をした少女が目を逸らさずにいた。
「あんた、正論言われて掴み掛かるのダサいわよ
調合は命を預かる仕事なの、
中途半端な知識と気持ちで参加するな、おバカ」
その言葉な顔を赤くして掴んだその手と反対の手を振り上げる。
アルフォンスは、シャルロッテを庇うように間に入るがいつまで経っても衝撃は来なかった
振りかぶった腕は万力のような力で押さえつけられていた。
「痛い、何しやが…」
痛みに耐えかねえて後ろを向くと
そこには憤怒の表情をした、
アレキサンダーが立っていた。
「おい、手前、何やってんだ?」
底冷えのする低い声の凄み、腕の痛みに腰が引ける
「ひっ、す、すみませんでした…」
「手前に、人との接し方を教えてやる、ついてこい」
と言って手を引っ張ったまま、室外に出て行こうとする。
「ほら、あの部屋に入れ」
くるっとこちらをむき、アルフォンスに
「アルフォンスちゃん、ありがと。かっこよかったわ。また後でね」
と言って表情と声を普段通りにして出て行った。
しばらくすると
アルフォンスの胸元から声がする
「アルフォンス、もういいから、
いつまでくっついてるんだ、おバカ」
と顔を赤くして声を張る
アルフォンスはシャルロッテから体を離して、
シャルロッテの顔をまじまじと見る
「何よ、なんか面白いもんでもある?」
「いえ、初めて顔を見たんで、
桃色の瞳と金色の髪が綺麗で、
白いローブと相まって花が咲いたみたいだなって」
何気なくいうアルフォンスに
「瞳って、フードがめくれてるじゃない。
あんま見るな、綺麗って嘘つくなおバカ」
照れながら悪態をつき、フードを被り直す。
気を取り直したようにシャルロッテは前にたち、
「改めて、今回正解の調合が出来たやつは合格だ。
それ以外のやつは薬草学からやり直しだ。
わかったな?」
不合格者たちは部屋を出て行った。
「よし、この講義が合格だったやつは
次の講義、現地で収集と調合をする」
「他の講義との都合もあるから今日はここまで」
「「ありがとうございました」」
部屋を出て行こうとすると
シャルロッテに裾を引かれ立ち止まる。
俯きながら照れた様子で、
「庇ってくれて嬉しかった、ありがと…」
「いや、守ったのは姐さん…」
「うっさい、私はあんたに感謝してんのっ。
素直に受け取れ、おバカ」
と言って出て行ってしまう。
「なんだろう、お腹すいたのかなあ」と見当違いなことを考えて今日の講義は終わりを告げる。
宿への道すがら
次はなにを習うんだろう。
褒められたことは嬉しかったので次も頑張ろう。
そう思った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回はアルフォンスの王都での勉強編、その第一歩として「薬草学」と「調合学」のお話でした。
知らないことを知るのが楽しくて、講義を真剣に聞くアルフォンス。
そして、そんなアルフォンスに思わず教えたくなってしまう先生。
勉強が得意というよりも、「誰かの役に立つなら知っておきたい」という気持ちで学んでいるのが、アルフォンスらしいところかなと思います。
そして今回は、第三十七話で出会ったシャロさんが本格的に登場しました。
普段は「おバカ」と言ってくるシャロさんですが、実は冒険者たちの命を預かる講師として、とても真面目な子です。
……まあ、アルフォンスに助けられて照れているところを見ると、年相応のまだまだ可愛いところもありますね。
次回も王都での勉強は続きます。
アルフォンスは冒険者として、少しずつ新しいことを覚えていきます。
それでは、旅人の皆様
また次の物語でお会いしましょう。




