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第三十七話 初めての単独依頼

アルフォンスは、一人で考えていた。


みんなが帰ってくる場所とは、どういう形なのだろう。


そして――


僕に、他に何かできることはないのだろうか。


考えても、なかなか答えは出ない。


だからアルフォンスは、冒険者ギルドへ相談に向かった。


「こんにちは、モカさん、ココアさん」


「アルフォンス君、こんにちは〜」


「こ、こんにちは、アルフォンス……君」


二人に挨拶を返してから、アルフォンスは少し考えるように口を開いた。


「お二人とも忙しいところすみません。

僕一人でもできることって、何かありますか?」


「そうですねぇ」


ココアが掲示板を指差す。


「アルフォンス君だったら、あそこに貼ってあるクエストを見てみるといいかもしれませんよ」


「クエストですか?」


「ええ。納品依頼だけじゃなくて、失せ物探しや料理の納品、魔物の素材を使った製作依頼、それに地図作成なんかもありますから」


「へぇ……」


アルフォンスは掲示板を眺める。


「納品クエストに薬剤の調合がありますね。

調合は……まだ自分でしたことがないなぁ」


「そんな時のためのギルドです」


モカが眼鏡をくいっと押し上げる。


「冒険者ギルドでは、

新人冒険者向けの講習も行っています」


「講習?」


「はい。冒険の基礎となる薬草学、調合学、地図学などを、専任の講師から学ぶことができます」


「そんなことまで教えてもらえるんですか?」


「ええ。冒険者が一人で何でもできる必要はありませんが、最低限の知識があるだけでも、生存率は大きく変わりますから」


アルフォンスは目を輝かせる。


「……僕、受けてみたいです」


「ただし――」


モカが一言付け加える。


「講習期間中は、しばらく王都に滞在してもらうことになります」


「王都に……」


アルフォンスは少しだけ考える。


そして、


「それなら、大丈夫です」


そう言って、嬉しそうに笑った。


「新しいことを、いっぱい覚えられそうです」


掲示板に視線を戻して、引き続き眺めていると


「あっ納品依頼で対応できそうなものがありました。

この『焼き菓子が食べたいわ』って依頼を受けます。」


「その依頼ですね、では納品はいつできますか?」


「ここって料理ができる場所ってあります?」


「はい、ございますよ。

このギルドでは、料理、調合、彫金、鍛治ができる作業エリアを有しています。


多少のお金はかかりますが

ギルドの関係者なら誰でも使えますよ」


「それなら都合がいいです。買い物をしてくるのでその後お借りしますね」


そう言って街中に消えていった。



数時間後、良い香りのする箱を持ったアルフォンスが

受付に戻ってきた。



「お帰りなさい、アルフォンス君。

なんかぁ、いい匂いだねぇ。

何作ったの〜?」


「ココアさん、これはですね、りんごのタルトです。

かまどで焼いてはいるのですけどなるべく早めに食べて欲しいとお伝えください。」


判定のオーブに箱を通して異常がないことを確認。


「はい、納品ありがとう〜。

製作者、アルフォンス・ソラスを確認。

依頼人には早く取りに来るように伝えておくね。

うーんでもいい匂いで羨ましい〜」


「ありがとうございます。

あっ、料理した時の余り物になるんですけど、

下地の元になったクッキーを作ったんでどうぞ。」



「わぁ催促したみたいでごめんねぇ、

モカちゃん、私たちにだって、やったね。」

と微笑む、ココアに


「…アルフォンス君の手作り‥」

と照れて俯くモカの姿があった


「喜んでくれたならなによりです。

それでは今日は帰りますね」


「またね〜」

「またのお越しを」


2人に手を振りかえし、ギルドを離れた。



翌日、ギルドに顔を出すと

こちらに手を振るココアから声をかけられる。


「アルフォンス君、昨日のクッキーありがとう。

すっごく美味しかったよ〜。


それとね、昨日の依頼主が直接会いたいって

待ってるからあってもらえるかな?」


「わかりました、どんな人なんだろう」


アルフォンスはドキドキしながら奥の部屋に通された。


そこで待っていたのは


艶やかな長い黒髪を三つ編みした、筋骨隆々な偉丈夫。

その横には、目深に被ったネコミミフードで表情が見えない少女がいた。


男が話し出す。

「依頼をかけたのはわたしよ。

あのタルト、あなたが作ったのね、アルフォンスちゃん。


ガルドが自慢してたから、食べて見たかっけど、大当たりだわ。

どんなのが来るのか楽しみしてたの。

想像以上に美味しかったわ。


ほら、あんたもなんかいいなよ」


「わるくない」


「あんた夢中で食べてたじゃないの?」


「うるさい」


独特なキャラに気押されて

流石のアルフォンスもたじろ…


「喜んでくれたなら一番ですよ」


…がなかった。



「特に私たちに何も言わないなんて、変わった子ね」


サンドラは楽しそうに笑った。


「気に入ったわ」


そう言うと、アルフォンスへ向き直る。


「アタシはサンドラ。

姐さんって、ギルドのみんなからは呼ばれてるわ。

本名は――ひ・み・つ♪」


「……」


「この子はシャルロッテ。シャロって呼んであげて」


「よろしく」


シャロが小さく頭を下げる。


「サンドラ姐さん、シャロさん、よろしくお願いしますね」


アルフォンスも頭を下げ返す


シャロは口元に笑みを浮かべると

「それから、

この人のほんとの名前はアレキサンダーなの。

せっかくかっこいい名前なのにね」


「ちょっと!乙女の秘密をバラすのやめてよ!」


「はいはい…」


二人の漫才を終えると、

サンドラは改めてアルフォンスへ向き直った。


「それで、アルフォンスちゃん」


「はい?」


「私たち、

アルフォンスちゃんの料理のファンになっちゃったから今度はアルフォンスちゃんを指名で

依頼を出してもいいかしら?」



アルフォンスは嬉しそうに微笑んだ。


「僕に指名依頼ですか? 嬉しいなあ」


その言葉に、サンドラとシャロは顔を見合わせうなづいた。


この料理もっと食べたいと!


冒険者ギルドにおいて、

依頼を受ける冒険者を依頼主が指名することは、

決して珍しくないわけではない。


しかし、それが認められるには理由が必要だった。


依頼内容が特殊で、

対応できる冒険者が限られている場合。


期限が迫っており、

特定の技術を持つ冒険者に任せる必要がある場合。


あるいは、依頼主と冒険者の間に、

継続的な信頼関係が築かれている場合。


そうした事情が認められた場合に限り、

通常の依頼とは別に指名依頼が認められる。


そして今回。


アルフォンスには、ひとつの明確な理由を手に入れた。


――アルフォンスの料理に魅了された。


彼にしか頼めない依頼が、これから少しずつ増えていくことになる。



サンドラは思い出したように手を打つ。


「あっそうそう。モカちゃんやココアちゃんから聞いたけど、冒険者のイロハが知りたいらしいじゃないの?


私たち、ここで講師もしてるから、よかったら勉強していかない?」


「それは嬉しいです」


シャロはふんすと胸を張り

「講義の後に特別授業もしてあげる…

その代わり、あなたの料理を持ってくることね」


サンドラは呆れた様子で

「あんた、アルフォンスちゃんの料理にハマったんじゃないの?」


シャロは照れ隠しにフードを目深に被り直し


「…うるさい、見るなおバカ」


満更でもない様子を見てアルフォンスは笑っていた。


「あっほんとですか?依頼とは別に持ってきますね」


「…やった…。ニヤニヤするな」


タイプの違う冒険者との新しい出会いがあり、

そこには笑顔が溢れていた。

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