↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/54

第三十一話 またねの約束

夜の浜辺。


海から吹く風が、昼間の暑さを少しずつさらっていく。


アルフォンス、リリエル、ヘカテーの三人は、並んで砂浜に座っていた。


ヘカテーが荷物から、細い一本の棒を取り出す。


先端には、小さな宝玉が埋め込まれている。


「じゃーん」


「何ですか、それ?」


リリエルが興味深そうに覗き込む。


「花火」


「花火?」


アルフォンスも首を傾げる。


「正確には、スターフレアのスパーク現象を魔道具で再現して、小型化してみたの」


ヘカテーは得意げに説明する。


「もちろん、本物みたいな規模にはできないけどね」


「もっとも――」


宝玉を指でつつく。


「まだ私の近くにいる時しか発動できないけど」


「つまり、ヘカテーちゃんの研究成果なんだね」


「そういうこと!」


ヘカテーが棒を持つ。


「じゃ、いくよー」


シュッ。


棒の先端から小さな火花が発生して

ぱちぱち、と星のような光が弾ける。


「わぁ……」


アルフォンスが目を輝かせる。


リリエルも、思わず微笑んだ。


「綺麗ですねえ」


「でしょ?」


ヘカテーも嬉しそうだ。


三人は順番に、小さな花火を楽しんでいく。


ぱちっ。


ぱちぱちっ。


夜の海辺に、ほんの一瞬だけ小さな星が生まれては消えていく。


ふと、ヘカテーが新しい一本を手に取った。


「あ」


「ヘカテーちゃん、それって使い切り?」


アルフォンスが尋ねる。


「うん」


ヘカテーはあっさり答える。


「一回使ったらおしまい」


リリエルが、消えていく火花を見つめる。


「……刹那的な美しさ、でしょうか?」


「うん」


ヘカテーが少しだけ静かに笑う。


「だから、いいんじゃないかな」


「ずっと残るものじゃないから」


「その瞬間にしか見られない」


もう一度、火花が弾ける。


ぱちぱちぱち――。


三人の顔を、一瞬だけ照らす。


アルフォンスはその光を見ながら笑った。


「じゃあ……」


「この時間も、ちゃんと覚えておこう」


ヘカテーが目を丸くする。


リリエルは優しく笑った。


「ええ」


「忘れないようにしましょう」


最後の火花が消える。


暗くなった砂浜に、波の音だけが戻ってくる。


けれど三人の胸には――


ほんの一瞬だけ咲いた、小さな星の光が残っていた。




「……終わっちゃったね」


ヘカテーが少し寂しそうに呟く。


「ええ」


リリエルも空を見上げる。


そこには、昼間とはまったく違う景色が広がっていた。


満天の星。


海の向こうまで続く、静かな夜空。


アルフォンスも、しばらく星を眺めていた。


「……今日は楽しかったね」


「はい」


「うん!」


二人が笑う。


アルフォンスも嬉しそうに微笑んだ。


「また来ようね」


「ええ」


リリエルが頷く。


するとヘカテーが、少し考えてから言った。


「今度は、人の少なそうなところを探そうね」


「ああ」


アルフォンスも頷く。


「今日みたいなこともあったしね」


「でも――」


リリエルが、くすっと笑う。


「人が多くても、今日みたいなことがあったとしても……」


アルフォンスを見る。


「また、アルちゃんが守ってくれますよね?」


「……え?」


アルフォンスは少し驚いた顔をする。


けれど、すぐに笑った。


「当然だよ」


二人を見る。


「二人とも――」


少しだけ照れながら。


けれど、迷いなく。


「僕の大事な人だから」


そして、小さく付け加える。


「……大事な家族だからね」


リリエルとヘカテーは、一瞬だけ黙った。


そして――


「……ふふ」


「……うん」


二人とも、とても嬉しそうに笑った。


アルフォンスはそんな二人を見て、安心したように微笑む。


星空の下。


三人の間に、穏やかな時間が流れていく。


今日の海で見つけたものは、新しい思い出だけではない。


一緒に笑えること。


一緒に遊べること。


そして――


大切な人を、大切だと言えること。


夏の夜は、静かに更けていった。


アルフォンスは、星空を見ながらふと思う。


――心に秘めていたことも。


――ちゃんと言葉にしてみると。


意外と、怒られないものなんだな。


むしろ。


「嬉しい」と言えば、一緒に喜んでくれる。


「楽しい」と言えば、また一緒に来ようと言ってくれる。


「大切だ」と言えば――


二人とも、嬉しそうに笑ってくれる。


アルフォンスは、夜空を見上げる。


「……そっか」


小さく笑った。


正直になるって、案外悪くないのかもしれない。




休み明けの学院にて、

ヘカテーはキリエをはじめとする

女子グループに囲まれていた。


「……で?」


「え?」


「どうだったの?」


「どうって?」


「海」


「楽しかったよ!」


「そうじゃなくて」


キリエがじっとヘカテーを見る。


「アルフォンス君と一緒だったんでしょ?」


「……うん」


「どうだった?」


「だから、楽しかったってば」


「ふーん?」


ニヤッ。


ヘカテーが嫌な予感を覚える。


「……なに?」


「別に?」


「その顔やめてよ」


「五年間、ずーっとアルフォンス君の話を聞かされてきた私を舐めないで」


「…………」


「今回の海で、何かあったでしょ?」


ヘカテーの顔が赤くなる。


「……何もない」


「ほう?」


「何もないもん」


「じゃあなんで赤いの?」


「暑かったから!」


ヘカテーの恋バナを聞き終えた女子たちはその物語のような展開に


「「「キャー」」」


「アル君、子供の頃から紳士だと思ったけど、凄みがましたね」


「あんた誰目線よ」


「だってー、ヘカテーさんのお話に毎回出て来るから、もはや生活を見守ってる気分になるじゃん」


「それもそうかな?


キリエはみんなのリアクションを待ってから

ヘカテーを拝む


「ご馳走様♪」


「……何もご馳走してないよ?」


「いいのいいの」


「海デートの情報までいただきましたから」


「…………」


ヘカテーの顔がまた赤くなる。


「もう……キリエちゃん!」


「ふふふ」


キリエは楽しそうに笑う。


「このポケポケ娘の恋は、どうなるやら?」


「恋って……」


「まだ自覚してないんだ?」


「…………」


ヘカテーは黙り込む。


キリエはそんな彼女を見て、優しく笑った。


「まあ、焦らなくていいわ」


「ゆっくりでいいのよ」


「その気持ちがどこへ向かうのか――」


「私達も、まだまだ見守っていくわよ!!」


「「「おーっ」」」


「もう! キリエちゃん!!、みんな!!」


ヘカテーが頬を膨らませる。


「ふふっ」


キリエは楽しそうに笑った。


「ああ、可愛い可愛い」


「……絶対楽しんでるでしょ」


「もちろん♪」


今日もヘカテーの恋バナは乙女たちを沸かせていた。

夏の海編、ここまでとなります。


水着を選んで、海で遊んで、少し騒がしい出来事もあって。


最後は三人で花火を見ながら、また一つ思い出が増えました。


アルフォンスにとっては、きっと「家族と過ごした楽しい夏休み」の一日。


リリエルとヘカテーにとっても、忘れられない一日になったことでしょう。


そして――


「また来ようね」


その約束が、いつか三人の大切な思い出として残っていけばいいなと思います。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


旅人の皆様、次の物語でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。