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第二十八話 夏だ、海だ、お休みだ 前編

次のお休みはアルフォンスと3人での海デート。


そんな浮かれているヘカテーとリリエルはキリエに怒られていた。


あのね、ヘカテーさん。それにリリエルさん。

後数日ってこの間際になって水着がないってどういうこと?


「そういえば――」


キリエが、ふと思い出したように尋ねる。


「二人も水着は?」


リリエルとヘカテーが顔を見合わせる。


「水着……ですか?」


「うん」


「昔のなら、ありますけど……」


ヘカテーも小さく頷く。


「私も……昔のが一応」


キリエは二人をじっと見る。


そして――


「……あんたたち」


「?」


「そんなにスタイルいいんだから、

数年前の水着が着られるわけないでしょ」


「…………」


「…………」


二人が沈黙する。


キリエはため息をついた。


「それに女の子の水着は、流行もあるんだから」


「うーん……」


顎に手を当てて二人を眺める。


「よし」


「私が選んであげる」


「え?」


キリエはリリエルの手を取った。


「ちょ、キリエちゃん?」


「ほら、こっち来なさい」


「あらあら……」


リリエルはされるがまま、手を引かれていく。


その後ろから――


「待ってー!」


ヘカテーが慌てて追いかける。


「私もー!」


「はいはい、ヘカテーさんもね」


キリエは空いている手でヘカテーの手も掴む。


「ええっ!?」


「二人まとめて選ぶわよ」


「そんなに急がなくても……」


「あらあら」


「リリエルちゃん、楽しそう!」


「ふふ……そうでしょうか?」


「楽しそうじゃなくて、今から可愛くするの!」


「……可愛く?」


ヘカテーが首を傾げる。


キリエはニヤリと笑った。


「そうよ」


「週末、アルフォンス君と海でデートなんでしょ?」


「…………」


「…………」


二人の顔が、同時に赤くなる。


「デ、デート……」


「……そうですね」


キリエはそんな二人を見て、満足そうに笑った。


「ほら」


「やっぱり、ちゃんと選ばなきゃね」


数刻後、キリエはやり遂げた顔で、


「私の目に狂いはなかった。

完璧だわ、自分のセンスが怖いわ」


試着室のカーテンを開けた2人を見て満足そうにうなづく。


あとは、普段とのギャップを出すのに髪型を変えてみましょ


リリエルさんは髪を下ろして、ヘカテーさんは髪を、そうねぇ、ポニーテールにしましょうか」



「……ちょっと恥ずかしいですね……」


「あまり肌を出すのは恥ずかしいのですが……

アルちゃんには、見てほしいですから」


キリエは


「このお姉さんかわいいわね、

そういうことなら

腰と足回りを少し隠せるパレオはどうかしら?」


と水着にあったパレオを渡す。


「これならまだ大丈夫だと思います。」


「キリエちゃん、私は?」


とヘカテーが聞いて、


「あんたはもう、そのままを見せるのよ。

間違いなく、リリエルさんと並んでも遜色ないわ。

あんた綺麗なんだから、自信持って」


とキリエに押し切られる


「えぇぇ、アルちゃんに見られちゃうの……?」


とさらに赤くなる。



そして当日、待ち合わせの時間になり、近隣の浜辺へ遊びにきた。



「それでは着替えてきますから待っていてくださいね?」


そう言って別れてから幾ばくかして、

普段の装いとは違った新鮮な姿の2人がそこに立っていた。



「お待たせしましてごめんなさい。

周りの人になんか見られるし、

人が多くて、なかなか着替えられなくて時間がかかってしまいました。」



リリエルが身に纏うのは

キリエに選んでもらったのは、白を基調に金の差し色を入れたビキニタイプの水着。


白は真っ白というより、少し柔らかな乳白色。

そこに細い金のラインや小さな金具が入っていて、

清楚さの中に上品な華やかさがある。


腰には六花模様のパレオ。


白地に淡い銀や金の六花模様が散っていて、

歩くたびに柔らかく揺れる。


そして一番印象的なのが――

普段は結い上げている長い銀髪を、

全部下ろしていること。


背中へ流れる銀髪が夏の日差しを受けて淡く輝き、

水着の白と重なって、

普段以上に神秘的な雰囲気になる。


ただし本人はというと、


「……こ、これは少し……恥ずかしいですね」


頬を赤くして、パレオの端を指先でつまんでいる。


普段の穏やかで余裕のあるリリエルからすると、珍しく完全に照れている様子だった。



対してヘカテーが身に纏うは

黒を基調に銀の差し色が入ったビキニタイプ。


黒髪と水着の色が繋がることで、

普段より大人っぽく、少しミステリアスな印象になる。


そこへ銀色の細いラインや装飾が入ることで、

黒一色にならず、

夜空に浮かぶ星のような雰囲気が出る。


そして普段は下ろしている長い黒髪を、

今回は高めのポニーテールに。


結んだ黒髪が背中で揺れるので、

普段よりも活発で少女らしい。


ただし本人は――


「……やっぱり、これ恥ずかしい……」


顔が真っ赤。


腕を前で組んで、できるだけ身体を隠そうとしている。



リリエルは銀髪を下ろしているから柔らかく華やか。


ヘカテーはポニーテールだから元気で可愛い。


そして二人とも水着姿を見られるのが恥ずかしくて、

頬を赤くしながらアルフォンスの反応を気にしている。



「それで私たちの水着どうですか?

頑張ったので感想が欲しいです」



「アルちゃん?」


リリエルが少し首を傾げる。


「どうでしょう?」


その隣で、ヘカテーも頬を赤くしながら尋ねる。


「……へ、変じゃない?」


「アルちゃんの好みじゃなかったら……どうしよう」


「…………」


アルフォンスは――固まっていた。


そして、その瞬間。


頭の中だけが、ものすごい勢いで回り始める。


――待って。


え?


ちょっと待って。


二人とも?


水着?


いつもの二人なのに?


いや、いつもの二人だ。


リリエル姉さんも、ヘカテーちゃんも、昔から知ってる。


普段から手も繋ぐし、肩を寄せてくるし、頭だって撫でてもらう。


二人が綺麗なのだって知ってる。


でも――


これは……。


眩しすぎない?


僕、ちゃんと二人の隣に立ててる?


というか、直視していいの?


見たい。


いや、見ちゃう。


だって二人とも、僕に「どう?」って聞いてるんだから。


でも恥ずかしい。


僕だって男なんだよ。


そりゃ見惚れるよ。


……落ち着け。


リリエル姉さんだ。


ヘカテーちゃんだ。


子供の頃から一緒にいる、大切な人たちだ。


……でも今は――


すごく綺麗だ。


……いや、だから落ち着け僕!


「…………」


数秒。


アルフォンスは、ようやく口を開いた。


「……似合ってるよ」


絞り出すような声だった。


「すごく……似合ってる」


「……!」


ヘカテーの顔がぱっと赤くなる。


リリエルも、一瞬目を丸くしてから頬を染めた。


「……本当?」


「うん」


アルフォンスは視線を逸らしながら頷く。


「二人とも……綺麗だよ」


「…………」


二人が固まる。


今度はリリエルとヘカテーの番だった。


「……アルちゃん」


「……アルちゃん」


「ん?」


「ずるいです……」


「え?」


「そんなこと、さらっと言うんですもの……」


ヘカテーも顔を真っ赤にして俯く。


「……私、もっと変じゃないって言ってもらうだけのつもりだったのに……」


「え?」


アルフォンスは困惑する。


「だって、本当に似合ってるから……」


その言葉に、二人はますます顔を赤くした。


アルフォンスはそんな二人を見て、また視線を逸らす。


(……やっぱり、まともに見られない)


(でも――)


(見惚れちゃったことくらいは、二人には秘密にしておこう)


――そんなアルフォンスの耳まで、真っ赤になっていた。


「……どうかな?」


リリエルが微笑みながら尋ねる。


ヘカテーも、その隣で少しだけ俯いている。


「変じゃ……ない?」


「…………」


アルフォンスは、二人を見つめた。


そして――。


頭の中だけが、猛烈な勢いで回り始める。


……待って。


二人とも、すごく綺麗だ。


リリエル姉さんは――


白い肌と長い銀髪に、白を基調とした水着が本当によく似合ってる。


金の差し色も、姉さんの柔らかな雰囲気に合っている。


六花模様のパレオも綺麗だ。


肌を出しているのに、いつもの清楚な雰囲気が全然失われていない。


むしろ――


いつもより少しだけ大人っぽくて。


綺麗で。


……すごく、魅力的だ。


微笑んで僕を見ている姿なんて、いつもの姉さんそのものなのに。


今日は、少しだけ違って見える。


余裕のある笑顔。


でも、よく見ると頬が少し赤い。


……そのギャップまで可愛い。


なんだろう。


夏の海に現れた――


雪の妖精みたいだ。


……僕、何考えてるんだ。


でも、本当にそう見える。


そしてヘカテーちゃんは――


……黒だ。


いつもの黒いローブを思わせる色なのに。


白い肌とのコントラストが、すごく綺麗だ。


長い黒髪も、いつもは下ろしているのに今日はポニーテール。


……うなじが見えてる。


なんだろう。


いつもと違うだけなのに、こんなに印象が変わるんだ。


それに――


思っていたより、ずっと……。


着痩せするんだ。


普段の服では分からなかった。


黒いローブの印象が強かったから、余計に驚く。


目を伏せて、恥ずかしそうにしている。


でも――


ときどき、ちらっと僕を見る。


「どうかな」って。


僕の言葉を待ってる。


……可愛い。


いや。


これ、ちゃんと言わないと。


二人とも、こんなに綺麗なのに。


何も言わないなんて失礼だ。


……僕だって男なんだ。


二人に見惚れるくらい――


普通だよ。


だから――ちゃんと伝えよう。


アルフォンスは、少しだけ息を吸った。


「……すごく似合ってる」


二人が顔を上げる。


アルフォンスは、今度は目を逸らさなかった。


「リリエル姉さんは……」


少し照れながら、リリエルを見る。


「白い肌と銀色の髪に、水着の色がすごく合ってる」


「それに、パレオの六花模様も綺麗」


リリエルは静かに聞いている。


「肌を出してるのに、姉さんの清楚な感じが全然なくなってなくて……」


「むしろ、いつもより綺麗で……」


アルフォンスは少し言葉を探す。


「……なんていうか」


「夏に現れた、雪の妖精みたいだなって思った」


「…………」


リリエルが固まる。


「……雪の、妖精……?」


「うん」


「……まあ……」


リリエルの頬が、じわっと赤くなる。


普段なら余裕のある微笑みを浮かべる彼女が、ほんの少しだけ視線を逸らした。


「……そんなふうに言われるとは、思いませんでした」


「本当にそう思ったから」


「……ふふ」


リリエルは微笑む。


けれど、その笑顔はいつもより少しだけ照れていた。


「ありがとうございます、アルちゃん」


そしてアルフォンスは、隣を見る。


「ヘカテーちゃんは――」


「……!」


ヘカテーがびくっとする。


「黒い水着が、いつものローブみたいで……」


「でも、全然違って見える」


「白い肌と黒い水着、それに黒い髪の組み合わせがすごく綺麗だよ」


「…………」


ヘカテーは目を伏せたまま、じっと聞いている。


「それに……」


アルフォンスが少しだけ照れる。


「今日は髪を結んでるから、いつも見えないところも見えて……」


「……っ」


ヘカテーの耳まで赤くなる。


「……うなじも、綺麗だと思う」


「…………!」


ヘカテーは完全に固まった。


「それに、普段の服だと分からなかったけど……」


「すごく似合ってる」


「……かわいいよ」


「…………」


ヘカテーは顔を上げられない。


けれど――。


口元だけが、ほんの少し緩んでいた。


「……ほんと?」


「うん」


アルフォンスは笑う。


「すごく可愛い」


「…………そっか」


小さな声。


そしてヘカテーは、ようやくアルフォンスを見る。


真っ赤な顔のまま。


「……ありがと」


その表情を見て、アルフォンスもまた少しだけ顔を赤くする。


(……やっぱり)


(僕、二人に見惚れてたんだな)


けれど。


そのことを、今はもう恥ずかしいとは思わなかった。


だって――。


大切な二人が、こんなにも綺麗なんだから。




……それに比べて、僕はどうだろう。


一緒に並んで歩いて、見劣りしていないだろうか。


せっかく二人が僕と一緒に海へ来てくれたのに。


僕だけが変に意識して、恥ずかしがっていたら――。


「…………」


その言葉を、アルフォンスは飲み込んだ。


そんなこと、二人の前で言えるわけがない。


それに――。


そんなことを気にするのは、二人に失礼だ。


二人は僕と一緒に海へ来てくれた。


今日を楽しみにしてくれていた。


なら――。


二人には、思いっきり楽しんでもらおう。


僕が「自分なんか……」なんて考えて、どうするんだ。


二人が笑ってくれれば、それでいい。


一緒に海へ来たんだから。


僕だって、ちゃんと楽しみたい。


それに――。


二人の隣に立つなら。


俯いている場合じゃない。


アルフォンスは、ぎゅっと拳を握る。


「……よし」


小さく息を吸う。


男だろ、アルフォンス!!


今日は二人をちゃんとエスコートするんだ。


せっかくの3人で過ごすお休みなんだから。


「……よし」


もう一度呟いて、アルフォンスは顔を上げた。


その表情には、先ほどまでの照れとは違う――少しだけ頼もしい笑顔が浮かんでいた。


「二人とも、今日はいっぱい遊ぼうね」


「はい、アルちゃん」


「うん!」


二人の笑顔を見て、アルフォンスも笑う。


――これでいい。


今日くらいは、僕が二人を楽しませるんだ。

ここから夏休み編です。


今回は少し趣向を変えて、アルフォンス、リリエル、ヘカテーの三人で海へ。


水着選びから始まる、ちょっと賑やかな休日です。


この先も続きますので、どうぞ三人の夏休みをお楽しみください。

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