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第二十七話 ただいま、ローゼベル

ローゼベルへ戻る直前。


ソリッドは騎士団を率いて、アルフォンスたちを見送っていた。


「お前達は先に戻るだろう?、

何かやり残したことはあるか?」


アルフォンスは荷物から一枚の紙を取り出した。


「これ以上僕ができることは、なさそうかな?

ただ、僕から見て、まだ足りそうにないもの、

必要そうな物資を、リストに書いておいたよ」


ソリッドは受け取った紙に目を通す。


「……食料、薬、工具か、助かる」


ソリッドは頷く。


そして、自分がまとめた報告書をアルフォンスに差し出した。


「なら、これを戻ったらオルフェウスに渡してくれるか?」


「分かったよ」


アルフォンスは報告書を受け取る。


「ちゃんと渡しておく」


「ああ」


ソリッドは弟の頭を軽く撫でる。


「頼んだぞ、アル」


「……うん」


その様子を見ていたガルドが、ぽつり。


「……領主様の弟ってより、すっかり仕事仲間だな」


リリエルが微笑む。


「ええ」


「アルちゃんは、こういうところでも頼りになるんですよ」


アルフォンスは少し照れながら笑った。


「僕にできることをやってるだけだよ」


ソリッドはそんな弟を見て、満足そうに笑う。


「それでいい」


「それがお前のやり方なんだからな」


そしてアルフォンス達は、ローゼベルへ向かって歩き出した。


ソリッドや避難者も、その背中を見送る。


――一つの旅が終わる。


けれど、アルフォンスの新しい歩みは、まだ始まったばかりだった。


ソリッドと別れてからしばらく。


アルフォンスたちは、騎士団とは別の道を進んでいた。


「兄貴たち、まだ後ろかな?」


「ああ。避難してきた人たちを連れてるからな」


ガルドが答える。


「俺たちの方が先に着くだろうよ」


「じゃあ――」


アルフォンスは少し嬉しそうに笑った。


「みんなに『ただいま』を言えるね」


「ええ」


リリエルも微笑む。


「きっと皆さん、待っていますよ」


やがて、遠くにローゼベルの街並みが見えてくる。


見慣れた街。


見慣れた屋根。


そして――


街の入口に立つ人々の姿。


アルフォンスは歩く速度を少しだけ速めた。


「……帰ってきた」


ガルドが笑う。


「おう」


「お前の家だ」


アルフォンスは門をくぐる。


そして――


「ただいま、ローゼベル」



街へ入ると、屋敷の前に二人の姿が見えた。


「アル!」


オルフェウスだった。


その隣には、エレナもいる。


「母さん?」


アルフォンスは馬から降りるなり、驚いた顔をした。


「どうして外に出てきたの?」


エレナは少し困ったように笑う。


「あなたのことが心配だったんですもの」


「……母さん」


アルフォンスはため息をつく。


「僕は母さんの方が心配だよ」


「もう、心配性ね」


「それはこっちの台詞だよ」


そんな二人を見て、オルフェウスが苦笑する。


「まあまあ、二人とも無事に帰ってきたんだからいいじゃないか」


「そうだ、アル」


「父上から報告書を預かってきたんだろ?」


「うん」


アルフォンスは懐から報告書を取り出す。


「これ」


オルフェウスが受け取る。


ざっと目を通す。


「……なるほど」


「これなら、こちらでも先に動ける」


「助かるよ、アル」


そして、オルフェウスは弟の肩を軽く叩く。


「お疲れ様だ」


「うん」


アルフォンスは、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。


するとエレナが両手を広げる。


「アルちゃん」


「おかえりなさい」


アルフォンスは笑う。


「ただいま、母さん」


エレナは息子を抱きしめる。


「おかえり」


その温もりを感じながら、アルフォンスは目を閉じる。


長い旅だった。


けれど――


帰ってくれば、ちゃんとここにいる。


心配して待ってくれている家族がいる。


そして、自分の働きを必要としてくれる人たちもいる。


アルフォンスは、母の腕の中で小さく笑った。


「……やっぱり、帰ってきてよかった」


「でしょう?」


エレナも嬉しそうに笑った。


「母さん、聞いて」


アルフォンスは、エレナの腕の中から顔を上げた。


「今回の旅でね――」


少し照れながら、それでも嬉しそうに笑う。


「新しい仲間ができたんだ」


「まあ……!」


エレナの顔がぱっと明るくなる。


「どんな人なの?」


「ガルドの兄貴っていうんだ」


「鍛冶師で、冒険者もやってる人でね」


アルフォンスは、今回の旅であったことを一つずつ話していく。


野営したこと。


一緒に食事をしたこと。


自分の料理を認めてもらったこと。


そして――


「兄貴がね」


アルフォンスは少しだけ目を伏せる。


「僕が戦えなくてもいいって言ってくれた」


「……」


「僕には僕のやり方があるって」


エレナは黙って聞いている。


「ただのアルフォンスを、必要だって言ってくれたんだ」


その言葉を口にした瞬間。


アルフォンスの表情が、少しだけ崩れた。


「僕が今までやってきたことは……」


「無駄じゃなかったんだって」


「そう言ってくれた人がいた」


エレナは何も言わず、息子を抱きしめる。


「……そっか」


「うん」


「良かったわね、アルちゃん」


アルフォンスの目に、少しだけ涙が浮かぶ。


「うん……」


エレナは優しく頭を撫でる。


「ずっと見てきたもの」


「アルちゃんが誰かを助けて、誰かに手を差し伸べて」


「そうやって少しずつ積み重ねてきたものが――」


「ちゃんと、あなた自身のところに返ってきたのね」


アルフォンスは母の胸に顔を埋める。


「……うん」


その様子を少し離れたところから見ていたオルフェウスも、静かに微笑んでいた。


新しい仲間。


新しい繋がり。


そして――


自分の歩いてきた道が、誰かに認められたという実感。


十五歳のアルフォンスにとって、それは何よりも大きな贈り物だった。


エレナは、アルフォンスを優しく抱きしめた。


「……良かったわね、アルちゃん」


「うん」


しばらくして、エレナはそっと息子の背中を撫でる。


そして、いつもの笑顔で。


「おかえり、アルちゃん」


アルフォンスも、母の温もりを感じながら微笑んだ。


「ただいま、母さん」


その一言だけで――


長い旅の疲れが、全部ほどけていくようだった。



そしてもう一人、アルフォンスの帰りを待っていた。


ヘカテーは帰ってきた二人の話を聞いていた。


ガルドとの旅。


避難民の救援。


野営。


アルフォンスの料理。


そして――新しい仲間ができたこと。


「…………」


ぷくー。


頬が膨らむ。


「ヘカテーちゃん?」


「……ずるい」


「え?」


「私も行きたかったのに」


アルフォンスが困ったように笑う。


「いや、ヘカテーちゃんは学院が……」


「分かってるもん」


ぷくー。


「分かってるけど……」


リリエルがくすっと笑う。


「ふふ。ヘカテーちゃん、拗ねていますね」


「だって!」


ヘカテーがアルフォンスを見る。


「アルちゃんとリリエルちゃんだけで冒険して」


「しかも新しい仲間まで作って」


「……私の知らないアルちゃんの話がいっぱいある」


アルフォンスが少し考える。


「じゃあ、今度は一緒に行こうよ」


「……ほんと?」


「うん」


「約束?」


「約束」


ヘカテーの頬が、ようやく元に戻る。


「……じゃあ許す」


「何を許すの?」


「知らない!」


リリエルが笑う。


「ふふ……可愛らしいですね」


「リリエルちゃんも笑ってる!」


冒険の話を聞いて膨れるヘカテー。


でも本当は――


自分も二人と同じ景色を見たいだけだった。



「だから――」


アルフォンスは、ヘカテーを見る。


「今度、冒険に出る時は……一緒に来てくれるかい?」


一瞬、ヘカテーが目を丸くする。


そして――


「うん!」


満面の笑み。


その笑顔は、夜の星よりも眩しかった。


リリエルも、思わず微笑む。


「ふふ。では、次は皆で冒険ですね」


「うん!」


ヘカテーは嬉しそうに頷く。


「絶対だよ!」


「約束」


アルフォンスが小指を差し出す。


ヘカテーが自分の小指を絡める。


「約束!」


その隣から、リリエルもそっと小指を差し出した。


「私も入れてくださいな」


「もちろん!」


三人の小指が重なる。


その瞬間――


夜空に、流れ星が流れ落ちる。




久しぶりの故郷の街。


星空。


消えていく流れ星。


そして三人の笑顔。


夜は、静かに更けていった。


いつか果たそう、その約束を

今回は、救援の旅を終えたアルフォンスが、ようやくローゼベルへ帰ってくるお話でした。


タイトルの通り、今回のテーマは――

**「ただいま」**です。


旅先でたくさんの人を助け、新しい仲間と出会い、自分にも人を助ける力があることを知ったアルフォンス。


そんなアルフォンスを待っていたのは、変わらない家族の温かさでした。


エレナに抱きしめられ、


「おかえり」


と言ってもらう。


そしてアルフォンスが、


「ただいま」


と返す。


この瞬間を書きながら、改めてこの作品で描きたい「帰る場所」というものを感じました。


そして今回は、アルフォンスがガルドからもらったものが、もう一度家族のもとへ返ってきた回でもあります。


「戦えなくてもいい」

「お前にはお前のやり方がある」


そう言ってくれる人と出会えたことで、アルフォンスは自分の歩いてきた道を、少しだけ肯定できるようになりました。


そして――。


帰ってきたアルフォンスの話を聞いて、ぷくーっと頬を膨らませるヘカテー。


今回は完全にヘカテーちゃんの拗ね回でした(笑)。


「私の知らないアルちゃんの話がいっぱいある」


という言葉には、ヘカテーの「自分も一緒にいたい」という気持ちを込めています。


そんなヘカテーに、アルフォンスはいつものように自然に言います。


「じゃあ、今度は一緒に行こうよ」


その一言から、次の冒険への約束が生まれました。


そして最後は、三人で交わす小さな指切り。


その瞬間に流れる流れ星。


まだ次の冒険は始まっていません。


でも――


約束は、もう始まっています。


いつかガルドと。

いつかヘカテーと。

そして、リリエルと。


アルフォンスが大切な人たちと旅に出る未来を、これから少しずつ描いていきたいと思います。


今回の救援編を通して、アルフォンスは少しだけ成長しました。


そして何より――


帰ってきた彼を待ってくれる人たちがいる。


だからこそ、また新しい場所へ行ける。


「ただいま」と言える場所があるから、「行ってきます」と言える。


そんな物語を、これからも大切にしていきたいと思います。


それではまた次回。


次は、どんな日常が待っているのでしょうか。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


旅人の皆様、

次の物語でお会いしましょう。

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