第二十六話 パーティーを考えよう
未来の予想図を立てた後、
話題はパーティーメンバーをどうするかになった。
「俺が前衛だろ」
ガルドが胸を張る。
「アルフォンスは……お前、戦うのがダメなんだよな」
「うん。剣とかは苦手かな」
「じゃあ後衛に控えてもらう」
そしてリリエルを見る。
「リリエルの姉ちゃんは神官だから、後衛だよな」
「あら?」
リリエルは微笑む。
「私も前衛、できますわよ?」
「……は?」
「女の一人旅って、結構物騒なんですもの」
「多少は自分の身も守らなくては」
そう言うと、リリエルは静かに構える。
身体に強化魔法を纏わせる。
次の瞬間――
シュンッ!
一直線に拳を突き出す。
空気が震えた。
ガルドの目が見開かれる。
「…………」
「どうでしょう?」
「……いや」
ガルドは拳を見つめる。
「見た目じゃ分かんねえもんだな……」
そして苦笑する。
「じゃあ、リリエルの姉ちゃんも前衛な」
「ふふ。ありがとうございます」
アルフォンスは嬉しそうに笑う。
「頼もしいね、リリエル姉さん」
「アルちゃんを守るくらいなら、これくらいは」
ガルドが呆れたように笑う。
「お前さん、アルフォンスのことになると妙に張り切るな」
「そうでしょうか?」
「そうだよ」
三人で笑う。
そしてガルドがふと考える。
「でもよ」
「後衛も一人くらい欲しいよな」
「回復はリリエルの姉ちゃんができるとして……」
「魔法使いも欲しい」
「あ、それなら――」
アルフォンスが顔を上げる。
「魔法使いなら、ちょうどいい人がいます」
「私も知ってる人がいます。」
二人の声が――
ぴたりと重なった。
「「ヘカテーちゃん」」
「……?」
「……ヘカテー?」
「あの、王国の魔法使いの中でも数本の指に入る――
無官の大魔法使いのことか?」
と驚く。
二人は、
「昔からの仲良しなんですよ」「ねー」
と、ものすごく普通に答える。
ガルドはそんな大物と知り合いなんてと慄いた
そんな会話が交わされている頃――。
遠く離れた学院の一室。
「……へっくしゅん!」
ヘカテーが小さなくしゃみをした。
「……?」
鼻を擦る。
「なんでしょう……」
呼ばれた気がする。
誰かが自分の噂をしているような――。
「……早く休みにならないかなぁ」
そう呟いて、再び机へ向かう。
ガルドはふと思い出したことをリリエルに尋ねる。
「……そういや、リリエルの姉ちゃんよ、あんたの名前と風貌で思い出したんだか」
「はい」
ガルドが何かを思い出したように眉を上げる。
「十数年前に姿を消したっていう――」
「『銀嶺』と同じ名前だな」
「…………」
リリエルは少しだけ目を瞬かせる。
そして、にこりと微笑んだ。
「あら」
「そんな呼ばれ方をしたこともありましたねえ」
「…………」
ガルドが固まる。
「……え?」
「本人かよ」
「ふふ」
リリエルは楽しそうに笑う。
「昔の話ですよ」
「いやいやいや!」
ガルドが慌てる。
「『銀嶺』って、あの銀嶺だろ!?」
「王国でも有名だった――」
「まあ、そんなに騒がなくても」
「いや騒ぐだろ!」
アルフォンスはきょとんとしている。
「ガルドの兄貴、リリエル姉さんってそんなに凄い人なの?」
「お前……知らねえのか!?」
「うん」
「……そういや、お前ら昔からの知り合いだったな」
ガルドは頭を抱える。
「伝説級の神官と幼馴染みって……」
リリエルは苦笑する。
「だから昔の話ですって」
そしてアルフォンスの頭を優しく撫でる。
「今の私は、アルちゃんのリリエルさんですよ」
「……うん」
アルフォンスは何の疑問も持たずに頷く。
ガルドはその様子を見て、しばらく黙った。
「……なるほどな」
「そりゃあ、あの拳も速いわけだ」
そして小さく呟く。
「とんでもねえ姉ちゃんを仲間に入れちまったな、俺たち……」
リリエルはいつもの穏やかな笑顔。
「よろしくお願いしますね、ガルドさん」
「……ああ」
ガルドは苦笑する。
「よろしくな、『銀嶺』さん」
「もう、その名前は忘れてくださいな」
「無理だろ!」
こうしてガルドは知る。
自分が「坊ちゃんの付き添い」くらいのつもりで参加した旅に――
かつて王国に名を轟かせた人物が、何食わぬ顔で混ざっていたことを。
ガルドは、改めてアルフォンスを見る。
「……なあ、アルフォンス」
「うん」
「…………」
ガルドは額を押さえた。
「お前……」
「どうしたの?」
「お前の家族、どうなってんだよ……」
リリエルがくすっと笑う。
「アルちゃんの周りには、昔から凄い方が多いんですよ」
「いや、他人事みたいに言うなよ……」
ガルドは頭を抱える。
そしてふと、自分の隣を見る。
かつて『銀嶺』と呼ばれた女。
前を見れば、領主家の御子息。
そして、その御子息が呼ぼうとしているのは――
無官の大魔法使い。
「……俺、鍛冶屋だぞ?」
「はい」
「冒険者としてついてきただけだぞ?」
「はい」
「なんで俺の周りだけ伝説級の奴が集まってんだよ……」
アルフォンスが申し訳なさそうにする。
「ごめんね、ガルドの兄貴」
「いや、お前が謝ることじゃねえ」
ガルドはため息をつく。
「ただな……」
腹を押さえる。
「俺、胃が痛くなってきた」
リリエルが心配そうに覗き込む。
「あら、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねえよ!」
「これから無官の大魔法使いまで仲間になるんだろ!?」
「たぶん……」
「たぶんじゃねえ!」
それでもアルフォンスは、いつものように笑っている。
「でも、みんなで行ったら楽しそうだよ」
「…………」
ガルドは二人を見る。
『銀嶺』と呼ばれていたリリエル。
そして、これから仲間になるかもしれない無官の大魔法使い。
その中心にいるのは、領主家の御子息であるアルフォンス。
「…………」
ガルドはしばらく黙っていたが、
やがて腹を押さえて笑い出す。
「はははっ!」
「俺みたいな、一般人には荷が重いぜ!」
「ガルドの兄貴は一般人じゃないよ」
アルフォンスが真顔で返す。
「鍛冶もできるし、冒険者としても強いし」
「それに、僕たちを守ってくれるでしょ?」
「…………」
ガルドは一瞬黙る。
そして照れ隠しのように笑う。
「……そういうこと言うから、放っておけねえんだよな」
リリエルも微笑む。
「ふふ。これからもよろしくお願いしますね、ガルドさん」
「だからガルドでいいって」
「では……ガルド」
「……それも悪くねえな」
アルフォンスが笑う。
「じゃあ決まりだね」
こうして――
アルフォンスたちの新しい旅の形が、少しずつ出来上がろうとしていた。
前衛――ガルド、リリエル。
後衛――アルフォンス。
そして魔法使い――ヘカテー。
遠く離れた本人だけが、そのことを知らない。
ガルドは、ふと何かに気づいたようにリリエルを見る。
「……ちょっと待て」
「はい?」
「『銀嶺』って確か……」
少し考える。
「俺の親父の頃から名前が残ってる、生きた伝説だよな?」
「…………」
「ってことは――」
ガルドの視線が、リリエルの顔からゆっくり下がる。
「リリエルの姉ちゃん、お前……」
シュッ!!パーン!!
「――っ!?」
ガルドの目の前を、拳が風を切って通り過ぎる。
リリエルは、にこにこしていた。
「あら?」
「乙女に年齢を聞くのは――」
もう一度、拳を軽く握る。
「マナー違反ですわよ?」
にっこり。
「…………」
ガルドは固まる。
アルフォンスは、何が起きたのか分からず首を傾げる。
「ガルドの兄貴?」
「……アルフォンス」
「なに?」
「世の中にはな」
ガルドは額に汗を浮かべながら呟く。
「知らない方がいいこともあるんだ」
「……?」
リリエルは相変わらず、穏やかな笑顔。
「ふふ」
「さあ、アルちゃん」
「次はどこへ行きましょうか?」
「うん!」
ガルドは二人の後ろを歩きながら、腹を押さえる。
「……やっぱり胃が痛えわ」
こうしてガルドは学んだ。
『銀嶺』の過去を知ることより、本人の年齢を知ろうとする方が危険である。
ガルドは、先ほどリリエルが放った拳を思い返していた。
「……そういや」
「どうしました?」
リリエルが振り返る。
「さっき見せてもらった拳より……」
ガルドは苦笑する。
「今の方が、明らかに速かったよな?」
「まあ……少しだけ本気でしたので」
「少しだけ……?」
ガルドは引きつった笑みを浮かべる。
「いやいや、勘弁してくれよ」
拳が通り過ぎた空間を思い出す。
「空気を割る音なんて、初めて聞いたぞ」
「人間鍛えればあんな音出せるんだな……」
リリエルは困ったように笑う。
「驚かせてしまいましたか?」
「驚くどころじゃねえよ」
ガルドは自分の拳を見る。
鍛冶師として、戦士として。
自分もそれなりに鍛えてきた。
それでも――
「あれが『少し本気』かよ……」
リリエルはにこにこと笑っている。
「ふふ」
「……やっぱり、俺みたいな一般人には荷が重いぜ」
「まあまあ」
「これから仲間なんですから、頼りにしてくださいな」
「その笑顔で言われると余計怖えんだよ……」
アルフォンスだけが、二人の会話を聞いて楽しそうに笑っていた。
ガルドは、リリエルを見ながら苦笑する。
「……やっぱり、とんでもねえ姉ちゃんだな」
「ふふ、そうでしょうか?」
「そうだよ」
二人が顔を見合わせる。
その様子を眺めていたアルフォンスは、ふっと笑った。
「……仲良しだなあ」
「「え?」」
二人の声が重なる。
アルフォンスは、何の疑いもなく嬉しそうに笑っている。
「だって、二人とも楽しそうだから」
「……」
ガルドとリリエルは顔を見合わせる。
そして――
「……まあ、そうかもな」
「ええ。そうですね」
二人とも、少しだけ笑った。
アルフォンスは満足そうに頷く。
「よかった」
その笑顔を見て、ガルドは思う。
(……こいつ、本当にこういうところなんだよな)
相手がどれだけ凄い人間でも。
どんな過去を持っていても。
アルフォンスにとっては、ただの――
大切な仲間なのだ。
「さて、帰るか」
「うん!」
三人は並んで歩き出す。
その背中を見ながら、ガルドは小さく笑った。
「……まあ、悪くねえ旅になりそうだ」
リリエルも、アルフォンスの隣で微笑んでいた。
そしてガルドはリリエルとの会話を思い出す。
少し先を歩くアルフォンスとソリッドを眺めながら、ガルドがぽつりと呟いた。
「なぁ、リリエルの姉ちゃん」
「はい?」
「あいつは、いつもあんな感じなのか?」
「……あいつ?」
「アルフォンスだよ」
ガルドは首を傾げる。
「貴族とは思えねえ話し方に、接し方もあれだ」
「俺が知ってる貴族とは、ずいぶん違う」
「変わってるな」
リリエルは微笑んだ。
「ええ」
「それがアルちゃんのいいところですから」
「……よく知ってるんだな」
ガルドが何気なく尋ねる。
「ええ」
リリエルはアルフォンスの背中を見る。
「あの子が生まれた時から、ずっと見ていますから」
「……」
ガルドの足が止まる。
リリエルは何事もなかったように歩き続ける。
「…………」
ガルドはじっと彼女を見る。
そして――
「……何も言ってねえだろ」
「え?」
「なんで拳を握ってんだよ」
「……あら」
リリエルは自分の手を見る。
いつの間にか、ぎゅっと握りしめていた。
「ふふ……」
「無意識でした」
「怖えよ!」
ガルドが一歩引く。
「笑顔で拳握るな!」
「失礼ですねえ」
リリエルはにこにこと笑っている。
「私はただ、アルちゃんの成長をずっと見守ってきただけですよ?」
「……そういうことにしとくわ」
ガルドは肩をすくめる。
「なるほどな」
「だからあいつがあんなに嬢ちゃんを信頼してんのか」
「ええ」
リリエルは少し嬉しそうに笑った。
「私にとっても、大切な子ですから」
その言葉に、ガルドは少しだけ笑う。
「……どうも、ほっとけねえよな」
「はい?」
「アルフォンスだよ」
ガルドは頭を掻く。
「あんないいやつ、死なせちゃいけねえ」
「……」
「あんたも、そう思うだろ?」
リリエルはしばらく黙ってアルフォンスを見つめていた。
そして、静かに答える。
「あの子は――」
「今の私の、全てです」
「……」
「ですから」
リリエルは微笑んだまま続ける。
「もしあの子に何かあったら……」
「私、冷静ではいられなくなるかもしれません」
ガルドは少し目を見開く。
そして――
「お、おう……」
「そりゃあ、そうならないように俺たちで守ってやらなきゃな」
「ふふ」
リリエルが嬉しそうに笑う。
「ガルド」
「なんだ?」
「あら、もしかして――」
少しだけいたずらっぽい顔になる。
「ガルドも、アルちゃんファンクラブに入りますか?」
「……なんだ、その怪しい組織は」
「ふふ、冗談です」
リリエルはくすくす笑う。
そして、少しだけ真面目な表情に戻る。
「でも……」
「あなたみたいな人が一緒にいてくださるなら」
「私も安心ですわ」
ガルドは照れくさそうに鼻を鳴らした。
「……まあ、俺もあいつの飯が食いてえからな」
「それだけですか?」
「それだけじゃねえよ」
ガルドは前を歩くアルフォンスを見る。
「気に入ったんだ」
「……そうですか」
二人は並んで歩く。
少し先では、何も知らないアルフォンスが楽しそうに歩いている。
ガルドとリリエルは、同じ少年を見つめながら思う。
――こいつは、守ってやらなきゃな。
その理由は少し違っていても。
二人が抱いた結論は、同じだった。
後書き
第二十六話、読んでいただきありがとうございます。
今回は、これから始まる「未来の冒険」のパーティーが、少しずつ見えてきたお話でした。
前衛のガルド。
そして、まさかの前衛もこなせるリリエル。
後衛として皆を支えるアルフォンス。
さらに魔法使い候補として名前が挙がったヘカテー。
……本人だけ、まだ何も知りません(笑)。
そして今回、ガルドにはリリエルの過去も少し明かされました。
かつて『銀嶺』と呼ばれた人物が、今ではアルフォンスの隣で穏やかに微笑んでいる。
その姿を知ったガルドが「とんでもねえ姉ちゃんを仲間に入れちまった」と頭を抱える一方で、最後にはアルフォンスを守る仲間として、リリエルと同じ気持ちを抱くようになりました。
アルフォンス自身は、相手がどれほど凄い人物でも関係ありません。
強いから仲間なのではなく、
一緒に笑って、一緒に歩けるから仲間。
そんなアルフォンスらしさが、今回の話では特に出ていたかなと思います。
そして、いつか本当にこの三人とヘカテーが旅に出る日が来るのか。
その「いつか」を楽しみにしていただけたら嬉しいです。
旅人の皆様、
次の物語でお会いしましょう。




