第三話 繋がる歌声
早朝のアマリリス大聖堂にて
シアが日課のお祈りを終わらせて顔を上げると
見知った水色の髪をツインテールにした
神官が入り口で待っていた。
「ラピスさん、おはようございます。」
「シアお姉ちゃんおはよー、今日も早いねー。
あたしは今から歌の練習だよぉ」
「今年も皆、あなたの歌を楽しみにしてるわ。
授業の準備があるから私は行くわ。また後でね」
「お姉ちゃんも頑張ってねぇ」
と二人は別れ、それぞれの目的地へと足を進める。
大聖堂では子供の教育を行っており、
一般教養だけでなく信仰に関わるものも
教育のカリキュラムに入っている。
シアが普段のシスター服に
眼鏡をかけた教師スタイルで
今日も子供達に教育を行っている。
大聖堂のとある一室で
机に座っている子供達に向けて
シアが黒板に三つの花の絵を書く。
「今日はアマリリス教についてのお勉強です」
「シア先生、神様のお話?」
「そうですね。でも、それだけではありません」
「これは、人とどう向き合うかのお話でもあります」
そこでアマリリス教の三聖人を説明する。
「エレミア様の教義は
困っている人を見つけたら、手を差し伸べる、です。
もし、誰にでもが難しかったら
まずお友達からでもいいと思います。
誰かを助けたいと思う気持ちに、
理由はいらないんですよ」
「フィリア様の教義は
人と繋がることで、人は愛を知る、です。
人は一人では生きることはなく
常に誰かと影響を受け合って生きています。
一人では気付けない温かさを、
誰かとの出会いが教えてくれます」
「ルーメン様の教義は
自分自身が輝き、誰かの道を照らす、です。
これは私が子供の頃、
憧れた先生のようになりたいと
思わせてくれた方がいました。
これは自分自身の信念を持ち、
迷う人の前に立って道を照らす教えです」
「じゃあお姉ちゃん先生はどの派の人なの?」
「私はエレミア様の教えを信仰していますが、
エレミア様の教えだけが
大切と思っているわけではありません」
「三つの教えは別々ではなく、
全部人を想う気持ちにつながっていますから
通る道は違っても目指す場所が同じなら
それは敵ではなく同士なのです」
授業が終盤に差し掛かると
「そういえばフィリア派の皆さんが
今度のお祭りの練習をしているはずです」
「せっかくなので、今からフィリア派の皆さんの
お仕事を見にいきましょうか?」
そういうと子供達からの歓声が上がり
「ラピスお姉ちゃんのお歌聞けるの?やったー」
と大喜びだった。
フィリア派の一室の大ホールに入ると
まさにラピスが歌や踊りの練習をしているところだった。
訓練用の神官服のままだったが
踊り舞う姿はその指先から頭のてっぺんまで美しく、
流れる汗ですらキラキラと輝いているように見えて、
魅力的なものだった。
子供達の誰かが呟いた
「すごい、みんなと同じお洋服なのに
ラピスお姉ちゃんだけ
お星様みたいにキラキラして綺麗」
演舞が進行して歌のパートなり
フィリア派の神官達が合唱する。
クライマックスに入る時に
水色の髪の神官は
そこから1人前に出たが、
胸に手を当てて不安そうな様子だった。
子供達から
「ラピスちゃーん頑張ってー!」
と声援が届くと
深呼吸をして気持ちを落ち着けた様子
顔を上げると太陽のような眩しい笑顔。
そして独唱。
その瞬間、ただ一人の歌声がホール中を包み込み
その歌声は天使のように包み込んでくれるような
優しさがあった。
曲が変わり今度は元気なナンバーが始まり
誰よりも楽しそうに歌うラピスを見て
子供たちのテンションも最高潮になり
他の見学者も最高の盛り上がりを見せて終幕となった。
ラピスが一礼し、顔を上げて笑顔で手を振ると
見学者から拍手や喝采が飛んだ。
「ラピスちゃんの歌を聴くと元気が出るなぁ。」
「あの子が笑ってると、
こっちまで笑顔になっちゃう。」
「今年の歌も楽しみだ。」
「ラピスちゃんの歌を聴かないと、
お祭りが始まった気がしないね。」
感動する生徒達にシアが語りかける。
「ラピスさんは星のような輝きで
皆の心を掴み、気持ちを繋げていく
『星の繋ぎ手』って呼ばれる
我が町の誇るアイドルなんですよ」
舞台から降りて近づいてくるラピスに対して
見学者の一人の少女がラピスに問いかける。
「ラピスお姉ちゃんみたいな素敵な女の子に
どうやったらなれますか?」
「そうだねぇ、
あたしは自分の中で
これは誰にも負けないって思う芯をもつのが
大事だと思ってる。
まず自分自身で好きになったものを最大限楽しもう
周りの人にもそれをアピールできたら楽しいよね」
「私にできるかなぁ?」
「あなたはあたしのことが好き?」
「ラピスちゃんのこと大好き」
「じゃあ、大好きなあたしと一緒に笑ってみよっか!」
「ほら、一緒に、せーの、ピース!」
「めっちゃ可愛かったよ。
人は大好きなもので胸がいっぱいになると
自然に笑顔は素敵なものになるんだよ」
「ラピスちゃーん」
この日もまた、
ラピスの笑顔によって
新しい「好き」が生まれていった。
ラピスは練習を終えたあと、汗を流して禊を終えると
家路に向かった。
楽しそうにステップを踏みながら歩いていく。
帰宅の道のりでファンの人に
「ラピスちゃん、
今回もめっちゃ楽しみにしてるから
頑張ってね応援してるよ」
と話しかけられる。
「ありがとう、最高の舞台をするから見にきてねー」
と返事を返す。
声をかけられたことも嬉しくて
だんだんと歩くペースが早くなっていき
たどり着いた
その先は孤児院『シエスタ』だった。
扉を開けて開口一番
「おじさま、ただいま。
練習でお腹ぺこぺこだよぉ」
「おかえり、ラピス
シチューができてるからちょっと待ってね」
と労わるアルフォンス。
「今日ね、シアお姉ちゃんが
子供達を連れて練習見にきてくれたんだ。
ちょっと緊張しちゃったけど
頑張れーって応援してもらえて
嬉しくて嬉しくて
すごく気分が上がったから頑張っちゃった。
司祭様も貴女の煌めきがいつも以上だったって
褒めてくれたし楽しかったの」
と喜びが抑えきれない様で語りかける。
「それは本番が楽しみだね。
いつも通り一番前の席で見せてもらうよ」
ラピスはふふんと大きな胸を張り
「おじさまが見にきてくれるなら
あたしは誰よりも輝けるよ、
私の魅力でおじさまを夢中にさせちゃうから」
とウィンクをする。
アルフォンスは笑顔でこう返す。
「もう夢中だけどなぁ。
ラピスの第一のファンとして楽しみにしてるよ」
ラピスは今日の一日を振り返り
キラキラした目で見てくれる子供達や
今日来てくれたファン達に
また楽しんでもらえるように頑張ろうと思った。
そしてフィリア派のアクセサリを胸に抱いて祈りつつ
「誰かの好きがみんなに繋がっていけば
いつかみんな幸せになれるよね」
明日も誰かのキラキラになれるように頑張ろうと誓い
ラピスは眠りにつくのであった
第三話を読んでいただきありがとうございます。
今回はフィリア派の神官、ラピスのお話でした。
シアが「困っている人に手を差し伸べる優しさ」なら
、ラピスは「人と人を繋げる輝き」を持つ少女です。
誰かの好きなものや、
誰かへの憧れが繋がっていくことで、
新しい出会いや温かい時間が生まれていく。
そんな想いを込めて、
今回のタイトルを「繋がる歌声」としました。
ハースベルには様々な人が暮らしています。
それぞれ違う考え方や歩む道があっても、
誰かを想う気持ちはきっと繋がっていく。
これからも、この町で生まれる出会いを
楽しんでいただけたら嬉しいです。




