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第二十四話 認めてくれる仲間と

炊き出しを終えてからも、


アルフォンスたちは、しばらく現地に残っていた。


避難民の様子を確認したり、足りないものを聞いたり。


まだやれることはないかと、町を歩いていると――。


「アルフォンス!」


聞き慣れた声が響いた。


「……兄さん?」


振り返る。


そこには、王国の兵士たちを率いたソリッドの姿があった。


アルフォンスは驚いて駆け寄る。


「兄さん、どうしてここに?」


「どうしてじゃねえ!」


ソリッドはアルフォンスの前まで来ると、頭をガリガリと掻いた。


「お前というやつは……」


「どれだけ心配させやがったと思ってる」


「……ごめんなさい」


アルフォンスは素直に頭を下げる。


ソリッドはしばらく黙っていた。


そして、周囲を見渡す。


救出された人々。


炊き出しを囲む人たち。


少しずつ戻り始めた町の姿。


「……だが」


ソリッドがアルフォンスを見る。


「お前の行動で、助けられた人間がたくさんいる」


「……」


「それだけは、忘れるなよ」


アルフォンスが顔を上げる。


ソリッドは、少しだけ笑った。


「よくやったな」


そして――


ぽん。


アルフォンスの頭に、大きな手が乗る。


「……!」


わしゃわしゃ。


「兄さん!」


さらに頭を撫でられる。


「ちょ、ちょっと!」


アルフォンスは顔を赤くする。


「やめてよ、兄さん!」


周囲には避難民や兵士たちがいる。


「みんなの前だよ!」


ソリッドは豪快に笑った。


「何言ってやがる」


「褒めてるんだから、素直に受け取れ」


「もう十五だよ!」


「十五だから何だ」


もう一度、ぽんと頭を撫でる。


「俺にとっちゃ、いつまで経っても弟だ」


「……もう」


アルフォンスは恥ずかしそうに笑う。


その姿を少し離れた場所から見ていたリリエルも、微笑んでいた。


ガルドは腕を組みながら呟く。


「……なるほどな」


「坊ちゃんが、あんな顔するのも分かる気がするぜ」


こうして――


アルフォンスの初めての大きな救援活動は、ひとまず幕を閉じようとしていた。


けれど。


この経験によって得たものは、決して小さくなかった。


人の話を聞くこと。


自分から動くこと。


人に頼ること。


そして――


自分にも、人を助ける力があるのだと知ったこと。


アルフォンスは、少しだけ大人になった自分の手を見つめる。


「……帰ったら、みんなに報告しないとね」


「そうだな」


ソリッドが頷く。


「その前に――」


「休みくらい、ちゃんと遊べ」


「え?」


ソリッドがニヤリと笑う。


「お前、海に行くんだろ?」


「……なんで知ってるの!?」


その横でリリエルとガルドが笑う。


そしてアルフォンスは――


少し先に待っている、夏の休日へ思いを馳せるのだった。



ソリッドはアルフォンスの頭から手を離すと、ガルドへ向き直った。


「ガルド」


「はいよ」


「お前のクエストは、こいつを無事にローゼベルへ連れて帰るところまでだ」


「分かってるよ」


ソリッドは少し苦笑する。


「すまないな。もう少し面倒を頼む」


「いやいや、ソリッドの旦那」


ガルドはアルフォンスの背中をぽんと叩く。


「こいつは将来の大器だぜ」


「今回、一緒に動いてよく分かった」


「アルフォンスがもし冒険者になりたいってんなら――」


ニヤリと笑う。


「俺が引き抜きたいくらいだ」


「……ほう」


ソリッドが少し驚いた顔をする。


「お前がそこまで認めたとはな」


そしてアルフォンスを見る。


「何したんだ、お前?」


「別に……」


アルフォンスは困ったように笑う。


「いつも通りのことだよ」


ソリッドは眉をひそめる。


「……ああ」


「いつも通り、無茶をしたんだな」


「……」


アルフォンスは何も言えない。


ガルドが吹き出す。


「はははっ!」


「そこは否定できねえな!」


ソリッドはため息をつく。


「お前はな……」


「心配をかける癖は、少しはなくせ」


「……はい」


「人を助けたい気持ちは分かる」


「だが、お前自身が倒れたら元も子もない」


ソリッドはアルフォンスの肩に手を置く。


「お前は前に立つより――」


少しだけ優しく笑う。


「後ろで待っている方が、俺は安心だ」


「……兄さん」


「分かったか?」


「……うん」


アルフォンスは少し考えてから、笑った。


「でも、後ろからでもできることはあるよね」


「……まあな」


ソリッドは苦笑する。


「そういうところだよ、お前は」


ガルドが横から笑う。


「だから俺も気に入ったんだよ」


「……ったく」


ソリッドは再び頭を掻いた。


「ガルド」


「ん?」


「本当に頼む」


「ああ」


ガルドはアルフォンスを見る。


「任せときな」


「こいつが無茶しそうになったら――」


「俺が止める」


「……ガルド」


「なんだ?」


「お前、アルフォンスを止めるより――」


ソリッドは呆れたように目を細める。


「一緒になって暴れるだろ」


「……」


ガルドが少し黙る。


「……まあ」


「否定はできねえな」


「だろうな」


ソリッドはため息をつく。


そして、アルフォンスの隣にいるリリエルへ目を向けた。


「まあ……」


「お目付け役のリリエルさんがいるなら、大丈夫か」


「ふふ」


リリエルが穏やかに微笑む。


「もちろんです」


ソリッドは少し真面目な顔になる。


「リリエルさん」


「はい」


「愚弟のことを、お願いします」

と言って頭を下げる。


その言葉に、リリエルは一瞬目を丸くした。


そして――


アルフォンスを見る。


「……承知しました」


「この子が無茶をしすぎないよう、ちゃんと見ておきます」


「……リリエル姉さん」


アルフォンスが少し恥ずかしそうにする。


「僕、そんなに無茶しないよ」


「アルちゃん」


リリエルがにっこり。


「今回、何度そう言いました?」


「…………」


ガルドが吹き出す。


「はははっ!」


「こりゃあ、リリエルの姉ちゃんに任せといた方がいいな!」


ソリッドも苦笑する。


「頼んだぞ」


「はい」


リリエルは静かに頷く。


そしてアルフォンスの肩にそっと手を置いた。


「大丈夫ですよ、ソリッド様」


「私が、ちゃんとこの子の隣にいますから」


ソリッドはその言葉を聞いて、少しだけ安心したように笑った。


「……それなら任せる」



アルフォンスに背を向け、

ソリッドは避難民たちの前に立った。


それまでの柔らかな表情から一転、

領主としての顔になる。


「――これからは、我々ローゼベル騎士団が引き継ぐ」


避難民たちが静かに顔を上げる。


「待たせてしまって、すまない」


深く頭を下げる。


「ここまでよく耐えてくれた」


そして、力強く言葉を続ける。


「諸君らを、我が領地で待つ家族のもとへ送り届ける」


「住む場所も、食事も、必要なものもこちらで手配する」


「だから、もう安心してくれ」


ざわめいていた避難民たちの間から、少しずつ安堵の声が漏れる。


「家族に……会える」


「よかった……」


「ありがとうございます……!」


ソリッドはその声を聞きながら、静かに頷く。


「礼なら、私ではなく――」


そう言ってアルフォンスを見る。


「ここまで皆を支えてくれた、

こいつに言ってやってくれ」


「……兄さん」


アルフォンスが驚く。


ソリッドは笑う。


「お前が始めたことだ」


「最後まで、ちゃんと見届けろ」


「……うん!」


アルフォンスは大きく頷いた。


その横で、リリエルが優しく微笑む。


ガルドは腕を組みながら、


「兄弟揃って、やることがでけえな」


と呟いた。


こうして、救援の役目はローゼベル騎士団へと引き継がれた。



アルフォンスたちも帰路につこうとしていた。


その時、ガルドがアルフォンスを呼び止める。


「……アルフォンス」


「はい?」


ガルドは少しだけ真面目な顔をしていた。


「さっき言ったことな」


「冒険者になりたいなら、俺が引き抜きてえって話」


「……うん」


「ありゃ、冗談じゃねえぜ」


アルフォンスが目を丸くする。


ガルドは笑いながら続けた。


「お前がもし、本当に旅に出てみたいと思う日が来たなら――」


「俺も一緒に付き合ってやるよ」


「……ガルドの兄貴」


「まあ、まだしばらくはローゼベルにいるけどな」


「鍛冶屋もあるし、冒険者としての仕事もある」


「だから、急いで決める必要はねえ」


アルフォンスは黙ってガルドを見る。


「……僕、まだ何も決めてないよ」


「ああ」


「でも……」


ガルドはアルフォンスの頭を軽く小突く。


「お前がどんな道を選ぶにしても、今回一緒に動いたことは忘れねえ」


「俺は、お前ならやれると思ってる」


アルフォンスは嬉しそうに笑った。


「……ありがとう、兄貴」


ガルドはアルフォンスの肩をぽんと叩いた。


「俺はな――」


ニッと笑う。


「お前が気に入った」


「……僕が?」


「ああ」


ガルドは迷いなく頷く。


「特にな」


アルフォンスを見る。


「飯だ」


「……飯?」


「おう」


豪快に笑う。


「お前の飯、うめえんだよ」


「美味い飯ってのはな――」


自分の腹を軽く叩く。


「生きる活力だ」


「腹が減ってちゃ、何もできねえ」


「疲れてても、うめえ飯を食えばもう一頑張りできる」


「落ち込んでても、腹いっぱい食えば少しは前向きになれる」


アルフォンスは嬉しそうに聞いている。


「だからよ」


ガルドは笑う。


「お前の飯をまた食いたい」


「それだけでも、一緒に旅する理由には十分だろ?」


アルフォンスは少し照れながら笑った。


「……うん」


「じゃあ、また作るよ」


「おう!」


ガルドは満足そうに頷く。


「その約束、忘れるなよ」


少し離れたところで、リリエルも微笑んでいた。


美味しい飯を囲む。


それだけで、人は少しだけ仲良くなれる。


そしてアルフォンスは、この旅でまた一つ――


自分の料理が、人の心を動かす力になることを知った。

その様子を少し離れたところから見ていたリリエルは、静かに微笑む。


まだアルフォンスの未来は決まっていない。


けれど――


その未来を信じてくれる人が、また一人増えた。


そしてガルドは知らない。


この言葉がいつか――


本当にアルフォンスと共に旅へ出るための、約束になることを。



未来への約束を胸に、


アルフォンスは、ローゼベルへの帰路についた。


隣にはリリエル。


そして少し前を歩くガルド。


振り返れば、救援した人々が手を振っている。


アルフォンスも笑顔で手を振り返した。


「……また来ようね」


「ええ、アルちゃん」


リリエルが優しく答える。


ガルドは前を向いたまま笑った。


「その時は、また飯を頼むぜ」


「もちろん!」


三人の声が、夏の青空に響いた。


アルフォンスはまだ知らない。


この旅が、自分の人生を大きく変えたことを。


そして――


いつか本当に、この仲間たちと旅に出る日が来ることを。


今はただ、帰ろう。


待っている家族のもとへ。


第二十四話は、アルフォンスにとって初めての大きな救援活動の締めくくりでした。


ソリッドから「よくやった」と認めてもらい、リリエルやガルドにも支えられながら、アルフォンスは自分にも人を助ける力があることを実感していきます。


そして最後には、ガルドから「いつか一緒に旅をする」という未来への約束も生まれました。


まだアルフォンスの未来は決まっていません。


それでも――今回の旅で出会った人たちとの繋がりが、いつか彼の人生を動かす大切なものになっていきます。


次は少し息を抜いて、夏の時間へ。

アルフォンスたちの「帰る場所」でのひとときも、楽しんでいただけたら嬉しいです。


旅人の皆様、

次の物語でお会いしましょう。

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