外伝その1 乙女たちの恋バナ
どうしてこうなった。
私はただ、ノワールさんと友達になれたことを
喜んでいただけなのに。
そして学校で、
「ノワールさん今日も男子に告白されてる……」
「また?」
「また」
うちの店の紹介も兼ねて、
来てもらったデートだと思われる日以降、
明らかに男たちがノワールさんに言い寄ってくるようになった。
私は直接目撃していないけど
デートの日、うちの学校の生徒が
ノワールさんに言い寄って断られた。
無理矢理、手を掴もうとするので
途中から現れた男の子に叩きのめされたらしい。
しかも、小さい男の子にやられたことに逆上して、
あいつら魔法を街中で使おうとしたけど
その後何やかんやあって、逃げていったらしい。
今頃は特定されて、
学校から謹慎処分を受けているとのこと。
自業自得だ、
そういえばクラスの男子が休んでるのって…
その噂を聞いて声をかける。
「ノワールさん、うちに来る前に
しつこい男子に絡まれたって聞いたけど
大丈夫だった?」
「うん、
アルちゃんが守ってくれたから」
って、普段のクールな顔から一転して、
ほんのり頬を赤くして微笑む。
「……え?」
「今の顔……」
「ヘカテーさんって、あんな顔するんだ」
動揺するクラスメイト。
今までバレてなかったけど
女の私から見ても、
艶やかな黒髪から見える目元からもわかる美人な顔。
同年代の女子と比較しても抜群のスタイルの良さ。
勉学優秀、魔法使いとしても優秀。
しかも、お堅い感じかと思えば
あんなに可愛い表情をすることが皆に気づかれる。
「俺実はノワールさんのこといいな思ってたんだ。」
「物静かな感じだし押せばいけるんじゃ」
「可憐だ」
俺も俺もと声をかける男子たち。
「ちょっと男子たち!」
「急に声かけたらノワールさんびっくりするでしょ」
「ノワールさん、大丈夫だった。」
って怒る女子たち
「?」
本人は、はてなの顔だった。
「この子、自分がどれだけ可愛いか自覚ないわ」
キリエは天を仰いだ。
多分、しつこい奴らを追い払ったのって
一緒にうちに来たあの子だよね。
あのノワールさんにあんな乙女な顔をさせる
男の子が実在するんだ
どんな人なんだろう、教えてくれるかなぁ
何人かの女子たちとお昼を一緒に共にして
教えてもらうことにした。
女の子は恋バナが好きなのだ。
それから女子たちからの質問会が始まった。
「あの日一緒にいた、アルちゃん?って
身なりもしっかりしているから
ただの子ではないと思うけど
もしかして貴族の方?」
「アルちゃんは、グラディウス家の人。
子供の頃から一緒にいるの」
「グラディウスってあの領主様のグラディウス?」
「そう…でもアルちゃんはアルちゃん」
貴族とは思ったけど、
まさかの領主様の御子息だったー。
「なら、アルフォンス様って私たちは言うね。
アルフォンス様のどう言う方なの?」
ノワールさんは、はにかみながら
「……いつも優しい」
「うんうん」
「私が寂しい時、手を繋いでくれる」
「…………」
「あと、料理が上手で――」
「ストップ! ストップストップ!!」
「え?」
「これ以上は私たちが萌え死ぬ!!」
「……萌え死ぬ?」
「そう! もう十分なの!」
「まだあるけど……」
「あるの!?」
「この前も、私、自分に自信がなくて、みんなの目線が入らないように前髪で目を隠してたの」
「そんな時、アルちゃんは私の髪をかきあげて
このヘアピンをつけてくれて」
「私の目が綺麗で好きって言って、
頬にキスをしてくれたの」
と言って愛おしそうにヘアピンを撫でる。
「「「キャー、可愛いー」」」
「アルフォンス様って凄いのね」
「確か領主様の御子息の
アルフォンス様って10歳だよね」
そんな時、
「ヘカテーちゃん」
と教室の入口から声。
ノワールさんが振り返る。
そこには弁当箱を持った男の子。
「お昼、これ。忘れてたでしょ?」
「……アルちゃん」
その瞬間。
女子たちが見たことのないノワールさんの顔。
いつものクールな表情が一気にほどけて、
「ありがとう……」
ほんのり頬を染めて、嬉しそうに笑う。
女子一同、
「…………」
そして心の中で、
(めっちゃ可愛い……)
となる。
⸻
アルフォンス様が、
「じゃあ僕、行くね」
「……うん」
ノワールさんは見送る。
でも――
いつまでも目で追ってる。
女子の一人が、
「……帰っていくの、惜しそう」
キリエは言う。
「あれがこの前見たラブラブなノワールさんよ」
「嘘でしょ!?」
⸻
そして廊下に出る直前。
アルフォンス様が、
「あ、そうだ」
そう言ってアルフォンス様は戻ってくるなり、
ノワールさんの手を取る。
「じゃあヘカテーちゃん、また今度お出かけしようね」
「……うん」
「約束」
そして――
その手のひらに、ちゅっ。
「午後も頑張ってね」
「…………」
アルフォンス様
は何事もなかったように教室を出ていく。
しばらく沈黙。
女子たちは――
「キャーーーーーーーー!!!」
教室中、大爆発
「……ヘカテーさん」
「……なに?」
「今の……何?」
「……約束?」
「いやいやいや!!」
「手のひらにキスして『またお出かけしようね』って……!」
「普通じゃないの?」
「普通じゃない!!」
皆が散り散りとなった後、
ヘカテーは、アルフォンスが去っていった廊下をしばらく見つめていた。
やがて、そっと自分の手を見る。
先ほど口づけられた手の甲を、反対の手でゆっくり撫でる。
「……アルちゃん」
まるでそこに残った温もりを確かめるように。
そして――
大切そうに、その場所へ自分の唇を重ねる。
「……えへへ」
ほんの少しだけ、嬉しそうに笑う。
「……また、一緒に行こうね」
そして、その瞬間にキリエと目が合う。
ぷしゅー。
湯気が出そうなくらい真っ赤になって、その場で俯く。
もう、可愛すぎるでしょこの子。
また別の日
また別の日、
ヘカテーに弁当を届けに来たアルフォンスは
「ヘカテーちゃん、今日のお弁当」
「ありがとう、アルちゃん」
「どうだったか後で教えてね」
「うん」
「あっ、そうだ。
ヘカテーちゃんのお友達のお姉さんたちもどうぞ」
と、小さな包みを差し出す。
「え?」
「クッキー焼いたんだ。よかったら食べて」
「いただきます」と開けてみたら、
ちゃんと綺麗に焼けていて――
「……美味しい」
「えっ、何これ。普通にお店の味じゃん」
「アルフォンス君、料理だけじゃなくてお菓子までできるの……?」
アルフォンスは照れながら、
「まだ練習中だけどね」
なんて言って帰っていく。
女子一同、
「…………」
そして誰かがぽつり。
「……紳士じゃん」
別の子が、
「しかも美味しい」
キリエ、
「だから言ってるでしょ。勝ち目ないって」
ヘカテーだけは、
「アルちゃん、昔から優しいよ?」
「……待って」
「なに?」
「あの子、まだ十歳だっけ?」
「うん」
「…………」
「将来が末恐ろしいわ」
「わかる」
「あの年で料理できて、気遣いできて、紳士で、しかもあの顔でしょ?」
「将来どうなるのよ……」
「女の子泣かせまくるんじゃない?」
「でもヘカテーには弱いんでしょ?」
「そこがまた……」
「キャーーー!」
ヘカテーだけ、
「アルちゃんは女の子を泣かせたりしないよ」
と真顔で反論。
キリエが、
「……そういうところよ、ノワールさん」
「あの子、本当に彼氏じゃないの?」
「……まだ違うよ」
「『まだ』って言った!?」
「……?」
ふと思い出したように
「キリエちゃん、この前のハニートーストありがとう。すごく美味しかった」
「……っ」
キリエの顔が、みるみる赤くなる。
「……?」
「なんでキリエの方が顔赤いのよ」
「だってノワールさん……」
「?」
「アルフォンス様と、ずっと『あーん』で食べさせ合ってたじゃない」
「……そうだっけ?」
「そうだっけじゃないわよ!」
「こっちがお腹いっぱいだわ……」
「でも、美味しかったよ?」
「味の話じゃないの!」
周囲の女子たちが、
「えっ、何それ」
「二人で食べさせ合ったの!?」
「キャーーー!」
となる。
キリエは頭を抱えながら、
「しかもね……」
「お店にいた人たちまで、
すっかり二人のイチャイチャを
いい笑顔で眺めてたんだから」
「店員さんまで微笑ましそうにしてたし……」
そして当時の店内の声が蘇る。
「あぁ~、青春だぁ」
「羨ましい~」
「あんな可愛い子だから、もう彼氏もいるよね」
女子一同、
「…………」
「……それ、完全にカップルじゃん」
またお弁当の日はまたあるとのことだから
アルフォンス様とこの可愛い少女の恋バナを聞こう
普通じゃない二人だから、
次はどんな話が聞けるだろうか?
私たちは恋バナが大好きなのだ。




