第二十話 あなたのためにできること
今日は、アルフォンスの母親
エレナの40回目の誕生日
今日は朝からグラディウス家は大騒ぎ。
特にキッチンは戦場だった
お母さん立ち入り禁止と貼り紙を扉に貼り
今日の料理に取り掛かっていた。
「アルフォンス様、
今日はお外から料理も頼んでいます。
そこまでされなくても…」
「いやいや、お母さんの誕生日だよ
僕が何も作らないなんてないよ。
これは僕がやりたいことなんだ」
「ではアルフォンス様、
お手伝いをさせていただいても?」
とチェルシーが問いかける
「チェルシーさん、ありがとう。
どうしてもこれは自分でやりたいんだ。」
「かしこまりました。
それでは何かありましたらお呼びください。」
とアルフォンスの気持ちを汲んで引き下がった。
一人でもくもくと作業をしてるが
「お母さんのためにケーキを作るんだ」
と気合を入れて、
一人でやりたいからと言い張ったものの
やっぱり1人では時間が足りなかった。
どうしようと思っていると、
「アルちゃん、どうしたの?」
とリリエルが声をかけてきた。
「リリエルお姉ちゃん…
お母さんにケーキを作ってるんだけど、
うまくいかなくて時間が足らない、間に合わないかも…」
と泣きそうになる
「アルちゃん、頑張りたいのはわかるわ。
でもね、一人でできないことを
恥ずかしがることはないの。
あなたの周りにはたくさんの人がいる。
私だっている。
だから、無理をしなくてもいいの。
私を頼って、だってあなたのお姉ちゃんなんだから」
「リリエルお姉ちゃん…うん。」
涙を拭うと、リリエルに向き合う。
「よしよし、泣いた顔じゃ、
せっかくの男前が台無しよ」
「リリエルお姉ちゃん、僕一人ではダメだった。
僕を助けてください。」
「うん、ちゃんと言えたね。
お姉ちゃんは何すればいい?」
「えーとね」
と言って
生地を混ぜる、スポンジを焼く
生クリームをかき混ぜる
スポンジをカットする
ケーキに生クリームをコーティングする
カットしたフルーツを乗せていく
途中からチェルシーも参加して
手際よく仕上がっていく。
「完成だ、ありがとう。どうにか間に合った。
リリエルお姉ちゃん、チェルシーさん」
「いえいえ、アルフォンス様の頑張りですよ
私はちょっとのお手伝いをしただけです」
「アルちゃん、やったわね。すごいわ」
「そんなことないよ、意地を張ったままで、
二人が背中を押してくれなかったら間に合わなかった」
ーー
それではエレナさんの
誕生日パーティー開始する
というソリッドの音頭に合わせて
リリエルが一歩前に出て
「創世の女神アマリリスの御名のもと
エレナさんと出会えたことを感謝いたします。」
それではエレナの誕生を祝して、
乾杯と各々のグラスを掲げる
「エレナさんの誕生日だからってレストランの店主さんだいぶん張り切ってくれたのよ」
たくさんの料理が運ばれて舌鼓を打ったり
「次はうちの家族からの演奏会だ。
リラ、オルフェウス、華燐、頼んだぞ。
うん、俺か?俺は手拍子かかりだ!」
そう笑いながら、
竪琴、東方の琴、ヴァイオリンの
三種の弦楽器による演奏が行われる
それは誰もが知っている民謡であったが、
聞いたことのない音の重なりで
新しい感動があった。
三つの楽器の音が重なり、
エレナは目を細めて聴き入っていた。
その横ではウォードが、ソリッドの手拍子に合わせて
珍しく楽しそうに手拍子をしている
「エレナさん、私たちからのプレゼントです。
私の薔薇園でチェルシーが育てた
ロサ・レガリアから作った香水と香油に精油よ。」
とマリーはアロマセットをエレナに渡す。
「エレナ、お誕生日おめでとう。
薔薇のアロマは美容だけだけじゃなく
香りに包まれるとリラックスできるの。
お風呂に入れてもリラックスできるから
是非使ってね」
とフローラは補足する。
「マリーお姉様、フローラ姉様、とっても素敵な香り。
ありがとうございます。大事に使いますね」
そしてウォードは言葉少なに
「エレナ誕生日おめでとう」
と自分で選んだであろう花束を渡した。
「ウォード様、わざわざ花束を?
あなたの柄じゃないでしょうに。
ありがとうございますね」
最後に、アルフォンスが台車に乗せた
ケーキを運んできた。
それは2段重ねになった、
お店で出るようなイチゴのホールケーキだった。
「お母さん、お誕生日おめでとう。
最初は自分だけでやろうと思ったんだけど、
リリエルお姉ちゃんやチェルシーさんに
手伝ってもらって作ったんだ。
このサイズは初めてだから、
ちょっと下手かもしれないけど、
お母さんのことが
世界で一番好きな気持ちは込めたから
食べてくれると嬉しいな。」
「お口開けて、はい、あーん」
エレナは胸がいっぱいだった。
それにこんなサプライズもあって涙が流れた。
「アルちゃん、とっても美味しいわ。
こんなに美味しいならどれだけでも食べられそうだわ」
「お母さんったら、みんなの分もあるからね」
「そんなに気に入ってくれたなら
来年もその先もずっと
僕がお母さんの誕生ケーキ作るから
楽しみにしててね」
「……ええ」
エレナは笑った。
そして――ぎゅっ。
「わっ、お母さん……痛いよー」
「……ごめんね」
そう言いながらも、エレナは腕を緩めなかった。
「こうさせて……」
「お母さん、嬉しくて……嬉しくてたまらないの」
「アルちゃんがこんなに大きくなって」
「私のために、こんなに一生懸命になってくれて……」
「……お母さん」
アルフォンスは少し照れながら、エレナの背中に手を回す。
「じゃあ、来年も美味しいケーキ作るね」
「……うん」
エレナは目を閉じる。
「楽しみにしてるわ」
その声は、少しだけ震えていた
リリエルは、
アルフォンスの肩にそっと手を添えて
「大丈夫よ。いい手際だったもの」
「ええ、アルフォンス様なら、次はきっともっと素敵なものができますよ」
チェルシーはそう言って、優しく微笑んだ。
「……うん」
アルフォンスも嬉しそうに頷く。
「次はもっと上手に作るよ」
ーー
この日は、皆の笑顔が溢れる誕生日会となった。
エレナは、家族からの祝福を胸いっぱいに受け取り、
何度も笑った。
そして――
この日は、皆の記憶に残る誕生日となった。
私は果報者ね。
こんなに大好きな家族に愛されて。
女神様、お願いです。
願わくば、この子が大人になるまで、
見守らせてください。
どうか、もう少しだけ…
あとがき
今回は、エレナさんの40歳の誕生日のお話でした。
アルフォンスが「お母さんのために何かしたい」と、一生懸命ケーキを作るところから始まり、最後はグラディウス家みんなでエレナさんの誕生日を祝う一日になりました。
一人で頑張ろうとしたアルフォンスが、最後には「僕を助けてください」と言えたことも、10歳の彼の成長の一つです。
そしてエレナさんにとって、この日は大好きな家族からたくさんの愛情を受け取った、幸せな誕生日。
アルフォンスの「来年も、その先もずっとケーキを作る」という約束に、エレナさんが「楽しみにしてるわ」と答える場面には、母親としての願いを込めました。
どうか、もう少しだけ。
エレナさんが大切な家族と過ごす時間が、続きますように。
旅人の皆様、
次のお話も、よろしくお願いします。




