↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/54

第十七話 隣歩く君は

あの日から、学校でも前を向いて歩けるようになった。


周りにいた女子も、一部の男子たちが、

ヘカテーにちょっかいを出す理由くらいは分かっていた。


好きな女の子に意地悪をしてしまう。


子供じみた、よくある話だ。


「好きな子にイタズラしても、意味ないのになぁ」


そう思ってはいた。


とはいえ、そこまで悪質なことをしているわけでもない。


だから、ヘカテーが嫌がっているのを知りながらも、

深く考えずに止めたりはしなかった。


――だが。


ある日から、ヘカテーは変わった。


前髪で顔を隠すこともなくなった。


背中を丸め、俯いて歩くこともなくなった。


男子たちが声をかけても、


「……そう」


と、気に留めることすらなくなった。


そして、ふと顔を上げた彼女と目が合った。


――その瞬間、男子たちは言葉を失った。


以前のヘカテーとは違う。


気弱そうに伏せられていた瞳が、

まっすぐ前を見ている。


その眼差しには、静かな芯があった。


怯えている少女の目ではない。


自分の足で立っている人間の目だった。


「……なんか、変わったな」


誰かが、ぽつりと呟いた。


もう、以前の気弱そうな女の子はどこにもいなかった。


喋ることは相変わらず苦手だけど。


猫ちゃんのヘアピンに気がついた女の子が話しかけてきた。


「ノワールさん、そのヘアピン可愛いね


ノワールさんの黒髪に似合ってるし

前髪に隠れてた目も片目だけど見えるようになってる


何か素敵なことがあったのかなって気になって

あっごめんね、私キリエ。

キリエ・ブルックス。キリエって呼んで。

あ!私ばっか話しちゃってごめんね。

うるさくない?

ノワールさんとお友達になれたらな?って思って話しかけたんだ。


迷惑だったら言ってね


私昔から勢いで突っ走るタイプだから周りのことを気にかけろって怒られるの」


怒涛の言葉にびっくりしていたが


「私もキリエちゃんとお友達になりたい。

…よろしく…ね」


「やった、そのヘアピンのこと聞いてもいい?」


「う…うん。

幼馴染の男の子がね…プレゼントしてくれたの。

それでね…」


と言ってその時のことを思い出して

恥ずかしそうに顔を赤らめる


「えー、めっちゃ素敵じゃん。

そんな御伽噺の王子様みたいな男の人いるんだ。」


(…じゃぁクラスの男子じゃ勝ち目ないよねぇ。)

と呟く。


「アルちゃんは10才の男の子。」


「えぇ、その年で?

最近の若い子は凄いねぇ」


「今度アルちゃんとお出かけするの」


「じゃあデートの2人におすすめなお店のこと

教えてあげるよ。

このお店、私の紹介って言ってくれれば

サービスしてくれるから。」


「デ…デートなのかな?」


「好きな2人がお出かけするなら

それはもうデートだよ」


「うん、じゃあお邪魔するね、

ありがとう、キリエちゃん」


「どんな子だろうなあ、

あのクールなノワールさんを

こんな乙女にしちゃう男の子って…」





今日はアルちゃんとのお出かけの日。


この気持ちを自覚してからの初めてのお出かけ。


昨日は楽しみすぎてあまり眠りにつけなかった


新しい服に、整えた黒髪。

アルちゃんにもらった猫さんのヘアピンをして準備万端。


アルちゃんに可愛いって言ってもらえるかな

一緒に歩いていて恥ずかしいって思われないかな


「リリエルちゃん、私、おかしくない?」


不安そうに尋ねると


「ヘカテーちゃんはいつも可愛いわ。

可愛い猫ちゃんのヘアピンもバッチリ、

綺麗なお目目もぱっちりよ」


「楽しんでらっしゃい、ヘカテーちゃん」


大好きなリリエルちゃんに太鼓判を押してもらえたから

行ってきます。



待ち合わせの噴水の元に到着した。


時間は待ち合わせの30分前に着いてしまった。


おかしなところはないかな、再度の身だしなみチェック


どんなことをしようかな、どんな話をしようかな?

と考えていると



クラスの男子が声をかけてきた。


「あーノワールさんじゃん。」


「私服めっちゃかわいいね。

いいとこ知ってんだけど暇ならこれから俺たちと遊ばない?」


「えっあっ…嫌、これから人と会うんです。」


「そんなこと言わずにさあ、あ、女の子?ならその子も一緒にど…」


と手を掴もうとした瞬間。


「その人に触るなっ!」


と貴族の服を着た少年が立ち塞がる


「なんだ、子供が入ってくるな!」


「嫌がっているのがわからないんですか?

そんなことで女の子は喜びませんよ」


「なんだこの生意気なガキは」


と言ってつかみかかろうとする


「あらごとは苦手なんだけど」


と言いながら素人の攻撃は躱して投げる


「こいつ、生意気だ、わからせてやる」


と言って街中で魔法を行使しようとする


「私のアルちゃんに何するの?」


底冷えする声で一歩歩く毎に魔法陣を展開する


圧倒的な魔力圧により停止する男たち


「あーヘカテーちゃん。

僕なら大丈夫だよ。」


と言って、 ヘカテーの手を握ると

途端に魔力は霧散する。


「申し遅れました。

僕はヘカテーちゃんの幼馴染のアルフォンス

アルフォンス・グラディウスと言います。」


と言って笑顔で男たちを見る


「グ、グラディウス?」

「領主の息子がなんでここに?」

「許してください」


「あぁ大丈夫ですよ、別に特に手を下したりしませんよ、でも、もうヘカテーちゃんにちょっかいかけないでくださいね」


「ごめんなさーい」

と言って脱兎の如く逃げ去った



一息おいて、ヘカテーの方を振り向いて


「ヘカテーちゃん遅れてごめんね


僕のことで怒ってくれてありがとう」


「アルちゃん…」


「気を取り直して、ヘカテーちゃん。


今日も可愛いね

新しいお洋服も似合ってるし、

そのヘアピン気に入ってくれてるんだ、嬉しいな」


手のひらに口付けしながら


「僕と一緒にお出かけしてくれますか?」


と誘う


「はい…」


と照れながら返事をした



その光景を見ていた人は語る

それはまるで御伽噺の一ページのようだった。



2人は手を繋ぎながら、

日常のあったことをお互いに報告し合い

並んで歩いて行った。


「あのねアルちゃん


学校でできたお友達におすすめされたお店が

この辺りにあるから行ってみない?」


「いいよ、ヘカテーちゃんとならどこでも楽しいよ」



案内されたそこは甘味屋だった

ブルックス夫妻が経営しているという『せせらぎ亭』


「あの…お友達のキリエちゃんから紹介されてきたんです」


「あぁ、君がキリエの…どうぞごゆっくり」

と言って、一番見晴らしのいい席に案内してもらえる


そこはローゼベルの近くの湖畔と丘の花畑を一望できる

絶景のスポットだった。


「うわぁ、ヘカテーちゃん綺麗だねぇ」


「うん、…アルちゃんと見れてよかった。」


そのあと店員の格好をしたキリエが来て


「それではお二人にスペシャルメニューです」


バターで焼いたトーストに

その上からハチミツやアイスクリームを乗せた食べ物が出てきた。


「当店の名物ハニートースト、是非ご賞味ください。

頑張ってね、ノワールさん」


と言ってウインクして去っていく。


最もキリエは隠れて様子を見ているのだが…



「ヘカテーちゃん美味しそうだね、食べよ?


わあ、食べやすいように

パンは細かく切られているんだ、勉強になるね。


はい、 ヘカテーちゃん、アーンして」


と言って、

トーストを刺したフォークに

アイスを絡めて差し出してくる


お外では流石に恥ずかしいと思いながら、

この嬉しそうな顔には逆らえない


「あ…アーン…美味しい」


お返しとばかりに


「はい、アルちゃんも食べよ…アーン」


一方アルフォンス恥ずかしがらずに

アーンと口を開けフォークを受け入れる。


「本当だ、すっごく美味しいね。

ヘカテーちゃんと一緒に食べてるからかな。」


と子供の頃から変わらない

人を蕩かすような笑みを浮かべる。


やっぱり私はこの笑顔が好きなんだ。

そう自覚して、


たわいもないおしゃべりをしながら

食べさせ合いっこを行った。


幸せな時間が終わり、


「ご馳走様でした。」


と言って店を出る時


「こちらもご馳走様でした」

とキリエが顔を赤くして送り出してくれた


(ご馳走になったのはこっちなんだけどなぁ)


と疑問符を浮かべて歩く2人だった


その後もウィンドウショッピングをしたり、


本屋に向かったりして楽しい時間を過ごした。


夕方の帰りになり


「ヘカテーちゃん、今日はありがとう。

ヘカテーちゃんの笑顔がたくさん見れて

僕は嬉しかったよ」


「うん…私も楽しかった。

アルちゃんが隣にいてくれるから…

私はこんなに幸せなんだって思ったの」


「そうなら僕も嬉しいよ。

また、お出かけしてくれる?


今度はリリエル姉さんも一緒にさ」


「2人でも楽しかったから…

3人だともっと楽しいよね

楽しみにしてる」


と言って別れた。


なお学校に行った際に

キリエにお礼を言おうとしたら


アルちゃんとの関係を根掘り葉掘り聞かれたことは

想像に難くない。


改めて私の気持ちを思い返す


アルちゃんが好き、1人の男の子として好き。


そう確信できる一日だった。


こんなことでお友達と笑える日が来るなんて


ありがとうアルちゃん。大好きだよ。


第十七話『隣歩く君は』を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、前話でアルフォンスから勇気をもらったヘカテーが、少しずつ前を向き、初めて友達を作るお話でした。


そして、初めての恋を自覚してからのアルフォンスとのお出かけ。


アルフォンスにとってはいつも通りの優しい一日でも、ヘカテーにとっては特別な一日。


キリエという新しい友達も加わり、ヘカテーの世界が少しずつ広がっていきます。


「アルちゃんが好き。ひとりの男の子として好き。」


自分の気持ちを確かめたヘカテー。


次回は、アルフォンス・ヘカテー・リリエルの三人で、久しぶりのお出かけです。


それでは、旅人の皆様

二人と一人の、もう一つの優しい時間をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。