↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/54

第十六話 君の瞳にあいたくて

あれから5年の月日が経ち

アルフォンスは10歳になった。


身長もあれから伸び、

自分のできる事をあれからも増やしていった。


勉強や体力作りの訓練の時間のほかは

時にはお手伝いのメイドさんの仕事をしていた。


「アルフォンス様、そんなことをされては奥様に叱られてしまいます。」


「ははは、母さんはそんなことで怒らないよ。

むしろ女性には優しくねって言われるぐらいだよ。

ねっ、だからいいでしょ?」


と言ってウインクをする


メイドさんはアルフォンスの仕草にドキッとして

消え入りそうな声で


「あ、ありがとうございます、アルフォンス様」

と返事した




最近、ヘカテーちゃんの様子がおかしい。


前髪も伸ばして、

ヘカテーちゃんの綺麗な瞳を隠してしまっている。


元気もないし、何か僕にできることはないのだろうか?


僕はヘカテーちゃんのはにかんだ笑顔が好きなんだ。



数日後、アルフォンスはヘカテーに遊びにきてもらい

おもむろに話を切り出した


「ヘカテーちゃん!」


「……?」


「僕はまだ10歳の子供で、ヘカテーちゃんみたいな

素敵なお姉ちゃんが悩むことはわからない。


だから僕からヘカテーちゃんに魔法をかけるね。」


アルフォンスは少し照れながら、


「目、つぶって?」


⸻


ヘカテーは突然のアルフォンスの申し出に心の中で、


(な、何をするんだろう……)


(ドキドキする……)


と緊張。


言われるまま目を閉じる。


⸻


アルフォンスはヘカテーの頬に手を添え

優しく左眼側の前髪を耳にかける。


そして、


この日のために用意した

猫さんのヘアピンをそっと留める。


そして

ヘカテーちゃんが元気になりますようにと

頬に軽く口付けをした。


「はい。」


「目、開けていいよ。」


⸻


鏡を見るヘカテー。


片目が少しだけ見える。


そこには小さな黒猫のヘアピン。


アルフォンスは満面の笑みで、


「猫のヘアピン見つけたんだ。」


「ヘカテーちゃんに似合うと思って!」


そして照れもなく、


「ヘカテーちゃんの綺麗な目、僕は好きだよ。」


「それにヘカテーちゃんには無理やりじゃなくて、

心の底からの笑顔でいてほしいから」

⸻


「…………っ」


ヘカテーは顔が真っ赤にして口をパクパクさせる


普段ほとんど表情を変えない子が、


完全に固まる。


でも、アルちゃんが私のために

ここまでのことをしてくれたこと

本当に嬉しかった


その日以来。


どんな服でも。


どんな年齢でも。


どんな魔導装束でも。


黒猫のヘアピンだけは外さない。


それは、アルちゃんから初めてもらった宝物だから。


ーー


アルちゃんは

私にとってお姉ちゃんとして守ってあげたい

弟のような子だと思ってた


リリエルちゃんのようにはいかないけど、

お姉ちゃんであろうとした。


最近の私は

学校でクラスの男の子に意地悪されて悩んでいた、

声も小さいし、根が暗いからだろう。


人と眼を合わせないように前髪も伸ばして、

姿勢も猫背に丸めて、誰とも関わらないで

ひっそりと学校生活を終わらそうと思っていた


そんな時、アルちゃんは、何も聞かず

私を元気づけようとプレゼントと

…キス…までしてくれて


私の瞳が綺麗だから好きだって

笑顔が見たいって言ってくれた



髪をかきあげられた時、久しぶりに

真正面からアルちゃんの瞳を見た。


その笑顔が、とても愛おしいものに思えた。


胸の奥が、暖かい。


学校での出来事は何も変わっていない。


なのに――心だけが、軽くなっていた。


私は五歳も年下のこの子に、


恋をしてしまったのかもしれない。



私は一緒に住んでいる

リリエルちゃんに今日のことを教えた



「あのね、アルちゃんがね……」


とヘカテーが嬉しそうに話す。


リリエルは嬉しそうに相槌を返す。


「うん、うん」


「それで?」


「アルちゃんは何て言ったの?」


と嬉しそうに聞いてあげる。


「辛そうな顔だったこの子がこんなに笑顔になるなんて

どんな魔法を使ったのかしら」


魔法と聞いて、その時のことを思い出して

また顔が真っ赤になるヘカテー


「アルちゃんも隅におけないわねぇ」


と愛おしそうにヘカテーの頭を撫でた。


「ねぇ、リリエルちゃん、

今度は私の魔法でアルちゃんに

笑顔になってもらいたい。


どんな魔法が喜ぶと思う?」


「そうねえ、アルちゃんは優しい子だから

どんな魔法でも喜んでもらえると思うわ


でもどんな魔法にするかは

ヘカテーちゃんが決めなきゃ」


「わかった、頑張ってみる」


学校の授業を前向きにこなしながら

ヘカテーは家に帰ると自分の魔法の研究に没頭した。


綺麗な情景を表した図鑑を読んだ。


東方には華火と呼ばれるものがあるらしい

色とりどりの火薬を詰めた丸薬を

空に打ち上げ爆発させる


夜空で広がる火花はまるで

大輪の花のようであるとあった


ヘカテーはこれを魔法にしようと決めた


ここからが試行錯誤だった


炎を飛ばすだけでは花にならない

光も纏わす必要がある

色を変えるためには雷も入れよう

空に飛ばすためには飛距離を伸ばす必要がある

そして爆発させるタイミングを設定する必要がある


そもそも複雑になるので

私ができる詠唱ではそこまでの意味を込められない

それに私は声を出すのが苦手なのだ


何か手掛かりがないか文献を探すと

簡易的な詠唱魔法が主流になるより過去に

魔法陣を行使する手順があったことを知った。


大事なのは知識とイメージ。

それを魔法陣に落とし込む。


第一陣 → 発火

第二陣 → 飛翔

第三陣 → 色彩変化

第四陣 → 属性付与

第五陣 → 持続

第六陣 → 空中での炸裂

第七陣 → 展開

第八陣 → 工程反復


何日も何週間もかけてどうにか形にすることができた

時間はかかるが発動までは漕ぎ着けた


あとはこれをアルちゃんにお披露目するだけ


私はリリエルちゃんに見守ってもらい


ローゼベルの丘にでアルちゃんを待った。


どうしても夜にしか出来なかったので

エレナさんも一緒に着いてきてくれた。



「アルちゃん、エレナさん

今日は…来てくれてありがとう…


アルちゃんが私にくれた勇気の魔法

それのお返しをしたいと思います。」



心の中で独白する


「あなたが見せてくれた景色は、

こんなに美しいから……」


空を見上げて


「今度は、私が届けるね」




ヘカテーは杖を構えた。


アルフォンスの期待に満ちた顔を見たら

緊張も飛んでしまい

今までで一番落ち着いていた。


一度、静かに振る。


――キィン。


足元に一枚の魔法陣が浮かび上がる。


もう一度。


――キィン。


二枚目。


さらにもう一度。


――キィン。


三枚目。


杖を振るたびに、

一枚、また一枚と魔法陣が増えていく。


それはまるで、

指揮者がタクトを振るうたびに、

楽器が音を重ねていくようだった。


魔法陣は平面に留まらない。


ヘカテーを中心に、上下左右、

前後へと展開されていく。


幾重にも重なった紋章陣が、彼女を取り囲む。


円状に広がった魔法陣が、

限界まで膨らんだ、その瞬間

――


一斉に収縮する。


巨大な魔法陣が、まるで吸い込まれるように

ヘカテーの身体へ集束していく。


光がヘカテーの身体を包み込む。


そして――


ヘカテーが目を開いた。


静かに。


杖を空へ向ける。


「……スター……」


ほんの一瞬、呼吸を置く。


「……フレア……」


――放つ。


夜空へ向かって、一筋の光が駆け上がった。


そして遥か高くで弾ける。


無数の光が、星の火花となり夜空いっぱいに咲いた。


「…………」


アルフォンスは、ただ空を見上げていた。


「すごい……」


目を輝かせる。


「綺麗……!」


そして振り返り、


「ヘカテーちゃん、かっこいい!」


その瞬間。


ヘカテーの胸が、跳ねた。


――ああ。


これが、見たかった。


誰かを驚かせるためでも、

才能を証明するためでもない。


大切な人に、笑ってもらうために。


受け取った美しいものを届けるために。


ヘカテーは、初めて自分の魔法と真正面から向き合った。



従来の、詠唱によりイメージを固定して放つ魔法と違い


言葉ではなく、知識とイメージ。


それを幾重もの魔法陣へ落とし込み、同時に展開する。


それが、後にヘカテー独自の魔法体系となっていく。


無詠唱、多重魔法陣展開。


その始まりだった。


どれだけ練習してもここまでスムーズには行かなかった


そこに理屈はなく、ただ夢中になって、

タクトを振るように杖を振っていた。


ヘカテーは技術は誰よりもある。

でも、自分の価値を信じられなかった。


そんな子が、


「好きな人を喜ばせたい」


という極めて個人的で純粋な理由から、

自分の才能をもう一度信じ始めた。


だからこそ、15歳の少女の恋心から、

少女自身の魔法への向き合い方を変えた夜。

後の魔法史に残る技術が生まれた


彼女は大切な人に、

美しい光景を見せたいその一心で

魔法使いとしての殻を破ったのだ




夜のローゼベル。


突然、丘の方角から空へ光が打ち上がった。


――パァンッ!


夜空に無数の星が咲く。


「……なんだ?」


窓から顔を出す住民。


「魔物か!?」


「いや、違うだろ。あんな綺麗な魔法なら敵襲じゃなさそうだ」


別の家から声がする。


「ありゃ東方の華火ってやつか?」


「さあねえ。でも綺麗だねえ」


「子供たちにも見せてやりな」


「ほら、外に出てごらん」


やがて町のあちこちから人が出てきて、丘の方角を見上げる。


――パァンッ。


また一輪。


さらに光が広がる。


「おお……」


「綺麗だねえ」


「今日は何かのお祭りだったか?」


「いや、何も聞いてないぞ」


「じゃあ誰かが練習してるんじゃないか?」


「こんなものを練習で撃つのかい?」


なんて、ローゼベルの住民らしい

呑気な会話が飛び交っていた。



丘の上では、まだ少女は空を見上げていた。


笑顔のアルフォンスたちに見守られながら。


いつかの夜空に咲き誇る魔法の原型はこうして生まれた。


そして、その夜の光は


後に沈黙の魔女と呼ばれる少女と

優しい少年の思い出に、深く刻まれた。


今回のお話は、ヘカテーの小さな恋心から、新たな魔法が生まれるお話でした。


あなたに大切な人はいますか?


その誰かを喜ばせたいという気持ちは、

ときに大きな力になるのかもしれません。


アルフォンスからもらった勇気を、

今度は自分の魔法で返す。


そんな二人の思い出が、

夜空に咲く最初の一輪になりました。


それでは、旅人の皆様。

次の物語でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。