↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/55

第十四話 グラディウスの子供たち ――家族の繋がり――

動物クッキーを完成させた、少し後のこと。


アルフォンスは、厨房で小さな包みを大事そうに抱えていた。


「……これなら、きっと大丈夫」


包みの中には、先日チェルシーから教えてもらった方法で作ったクッキーが入っている。


動物の形。


猫、熊、鳥。


まだ少しいびつなところはあるけれど、以前よりずっと綺麗に作れるようになった。


アルフォンスはその包みを持って、オルフェウス付きのメイドであるチェルシーのところへ向かった。


「チェルシーさん」


「あら、アルフォンス様?」


チェルシーが振り返る。


アルフォンスは少し照れながら、包みを差し出した。


「この間は、クッキーの作り方を教えてくれてありがとう」


「まあ……」


チェルシーは嬉しそうに目を細めた。


「わざわざお礼を?」


「うん。これ、僕が作ったんだ」


「まあ!」


包みを開くと、中には小さな動物クッキーが並んでいる。


チェルシーは一つ手に取った。


「では……いただきますね」


ぱくり。


少しだけ目を見開く。


「……美味しい」


アルフォンスの顔がぱっと明るくなる。


「本当?」


「ええ。とても美味しいですよ」


チェルシーは微笑んだ。


「アルフォンス様は、すごいですね」


「えっ……」


アルフォンスは照れくさそうに頬を掻いた。


「……でも、オル君の方がすごいよー」


「まあ」


「勉強もできるし、音楽もできるし……僕にはできないこといっぱいできるもん」


チェルシーは少しだけ考えるようにアルフォンスを見る。


そして、優しく笑った。


「そうですね。オルフェウス様は、とても素晴らしい方です」


「うん!」


「ですが――」


チェルシーは、もう一つクッキーを手に取った。


「このクッキーを作ったのは、アルフォンス様でしょう?」


「……うん」


「アルフォンス様が作ったものだから嬉しいんですよ」


アルフォンスはクッキーを見つめる。


「……僕が?」


「はい」


「……そっか」


アルフォンスは少しだけ嬉しそうに笑った。


「じゃあ、また作ってくるね」


「ええ。楽しみにしております」


「うん!」


アルフォンスは満面の笑みを浮かべると、厨房へ駆けていった。


その小さな背中を見送りながら、チェルシーは微笑む。


「……本当に、優しい子」


そして手元のクッキーをもう一度眺める。


誰かに喜んでもらいたい。


その気持ちが、確かに込められていた。


「アルフォンス様は、ちゃんとご自分の『できること』を見つけていらっしゃるのですね」


チェルシーはそう呟いた。




そのままアルフォンスは

オルフェウスの部屋に向かい、クッキーを広げた。


「オル君、これ僕が作ったんだ。

上手くできたから食べて食べて。」


「美味しい。

アルはすごいね


この前料理を始めたばかりで

こんな美味しいものを作れるんだから」


「ううん僕もまだまだ失敗ばかりだし

今日も自分で食べた失敗作でお腹いっぱいだよ」


「でもこんなに綺麗なものを作れているじゃないか

僕は勉強ぐらいしか取り柄がないから羨ましいよ」


「そんなことない、オル君はすごいよ。

オル君は僕の知らないこと、

本を読んでもわからないことを

わかりやすく教えてくれる

なんでも知ってる先生みたいだし


リラ母さんと一緒の演奏はすごく綺麗だし

オル君は勉強も音楽ができて

いつもすごいって思ってる」


アルフォンスに次々と褒められ、オルフェウスは恥ずかしそうに頬を赤くした


「料理の本には材料や作り方は書いてあるけど……」

「どうしてアルは、動物のクッキーを作ろうと思ったの?」


みたいな疑問を持つ。


アルはえーとと考えながら


「だって、ヘカテーちゃんに喜んでほしかったから。

ヘカテーちゃんの好きなものを作りたいって思ったんだ」


その回答はオルフェウスにとって衝撃だった。


オルフェウスが少し黙り


「……そっか」


オルフェウスは、手にした料理の本を見る。


材料も、作り方も、焼き方も書いてある。


けれど――

誰かに喜んでもらいたいと思ったとき、

何をすればいいのかまでは書いていない。


「知っているだけじゃ……駄目なんだ」


「え?」


「知っていることを、どう使うか……それが大事なんだね」



そしてアルフォンスは、それを実際にやってみせた。


オルフェウスは、もう一度アルフォンスを見た。


自分の弟分。


けれど――

自分が本だけでは知ることのできなかったものを、

アルは知っている。


「……アルって、すごいな」


オルフェウスは、心からそう思った。



アルフォンスは突然

お菓子のレシピの書かれた本を取り出し


「オル君、美味しいお菓子の作り方が載っている本を借りたんだけど読めないんだ


オルくんなら読めないかな?」


「ちょっと待って。読めはする。」


「なら一緒に作ってみようよ」


そうして初めての共同作業が始まった



「小麦粉を二杯……卵を三つ……砂糖を――」


と文章を読みながら計量するオルフェウス。


でも、


「アル、ここに『生地が耳たぶほどの柔らかさになるまで』って書いてある」


「耳たぶってどれくらい?」


「……書いてない」


「じゃあ、触ってみよう」



混ぜる強さは…本には書いてない


「まだちょっとゆるいかな」


しばらくかき混ぜ


「これくらいだと思う」


生地の硬さは…本には書いてない


「ちょうど柔らかくなったよ」


焼き加減は…本には書いてない


「この匂いなら、そろそろ焼けてると思う」


オルフェウスが読み解き

アルフォンスが感覚で対応する


二人で試行錯誤。


一枚目は焦げる。


二枚目は形が崩れる。


三枚目でようやく、


「「できた!」」



オルフェウスが、


「僕一人だったら、作れなかったね」


アルフォンスが、


「僕もだよ」


そして、


「じゃあ……二人だったから作れたんだ」




出来上がったパンケーキをソリッド家のみんなで食べる。


二人がちょっと緊張しながら、


「みんなで食べてください」


とパンケーキを皿に乗せて渡していく


みんなが、


「すごいじゃない!」

「二人で作ったの?」

「美味しそう!」


と喜ぶ。


そしてソリッド。


普段は豪快なのに、パンケーキを一口食べた瞬間に黙る。


アルとオルが、


「……どう?」

「父様?」


と心配する。


ソリッドは俯いたまま、


「……美味い」


そしてもう一口。


「……本当に、美味いな」


目元を拭って、


「お前たち……大きくなったな」


と食べ続けるソリッド。


オルフェウスはソリッドにこう伝える


「父様、僕とアルは得意なことが違います。

でも、今日こうやってパンケーキを作ることで


僕にできないことはアルがやってくれる。

アルにできないことは僕がやればいいんだ


と言うことを学びました。」


「やっぱりオル君はすごいよ

僕1人では内容もわからないから

絶対にできなかったもん」


ソリッドは2人に対してこう伝える


「……そうだな」


二人が振り返る。


「それが家族ってもんだ」


「……兄上?」


「お前たちは、父さんの子で…俺の弟だ」


ソリッドは二人を見つめる。


「だが、それだけじゃない」


「お前たちは――グラディウスの子だ」


「母さんも、義母上たちも、みんなお前たちを愛して育てている」


「だから、誰か一人で全部やろうとするな」


「できる奴が、できない奴を助ければいい」


「そして、自分にできることがあったら、誰かを助けてやればいい」


「それでいいんだ」



アルフォンスとオルフェウスは顔を見合わせた。


「……うん」


「そうだね、アル」


そして頭をくしゃっと撫でて、


「それが俺たち、グラディウスの家族だ」



あとがき


今回は、アルフォンスとオルフェウスのお話でした。


アルフォンスは料理を通して「自分にできること」を見つけ、

オルフェウスは、知識だけではなく、それを誰かのために使うことの大切さを知りました。


そして二人で一緒にパンケーキを作ることで、


「一人ではできないことも、誰かと一緒ならできる」


ということを学びます。


得意なことが違うからこそ、助け合える。


自分にできないことを誰かに頼ってもいい。

そして、自分にできることがあるなら、誰かのために使えばいい。


そんな家族の在り方を、二人はまだ幼いながら少しずつ覚えていきました。


ソリッドが二人に伝えた言葉は、きっとアルフォンスの中に長く残っていくのだと思います。


そして今回登場したパンケーキも、いつかソリッド家にとって大切な「思い出の味」になっていくことでしょう。


アルフォンスが誰かを笑顔にするために作った料理。


それを誰かと分け合うこと。


その小さな積み重ねが、やがて彼の人生そのものへと繋がっていきます。


それでは旅人の皆さん、また次のお話で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。