第十二話 アルフォンスの誕生と出会い
アルフォンス•グラディウス•シエスタは
グランベル王国の守護を担う、
屈強な騎士を代々輩出してきた騎士の名門
グラディウス家の当主
ウォード•グラディウスと第三夫人との間に
生を受けた。
誕生の地は
グラディウス領 ローゼベル
グランベル王国西部に位置する花の名所。
騎士の名門グラディウス家が治める領地であり、
王国で最も美しい花の名勝を持つ「百花の町」
と称えられている。
春から秋にかけて、ローゼベル郊外の
丘一面に花が咲き誇り、
薔薇の女主人が手がける
『ロサ•レガリア』をはじめとした、
色とりどりの薔薇が絢爛と咲き誇る庭園
『薔薇の園』もあり
毎年多くの観光客や画家が訪れるという。
父親のウォードは武勇に優れた厳格な父であったが
第3夫人との結婚を機にすでに家督を長男に譲っていた。
剣を振るう才能がなかったアルフォンスには
騎士としての訓練や貴族としての礼節は教えても
騎士の道に進むことを強制しなかった
母親のエレナは黒髪の少女のような可愛い笑顔で
向日葵のような朗らかで包み込み
優しさを尊ぶ、領民の誰からも愛される人だった。
争うことが苦手だったアルフォンスには
武器を持たない強さも必要ということを肯定し
戦う以外の自分ができることを教えていた。
どちらも何かを強制することはなく
アルフォンスが自分らしく生きることを
望んでいた。
アルフォンスが生まれたとき
今日にも続く3つの運命の出会いがあった。
1人目はエレナの友人である教会所属の銀髪の神官
リリエル•ブランシュ
聖別を終えて、
エレナに抱かれたアルフォンスを見つけたリリエルは
長い銀髪がかかってしまわないように気をつけ
顔を覗き込むように少しかがんで、
「この子がアルフォンスちゃんですか。
とってもかわいいですね。」
と頬を優しく撫でる。
すると、小さな手がぎゅっとその指を握り
ニコッ
まだ言葉も話せない赤ちゃんが、
ただ嬉しそうに笑う。
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その瞬間、
リリエルは思わず微笑んでしまう。
「ふふ……男の人に初めて手を握られちゃいました。」
エレナは笑いながら
「あら、この子。
リリエルちゃんのこと大好きみたいね。」
なんて話している。
リリエルの中では、
ただの反射に過ぎないかもしれない
でも、
「この子は私の手を取り微笑みかけてくれた」
そんな小さな出来事だけど、
ずっと心の奥底から暖かな気持ちが溢れてきた
⸻
その後、
アルフォンスが教会へ来るたびに
グラディウス家にお邪魔する時に
「アルちゃん、大きくなったかな?」
と様子を見に行く。
「アルちゃんは可愛いですねぇ」
と頬擦り、かい繰りし放題
歩けるようになれば手を引き、
転べば抱き起こし、
泣けば
「痛いの痛いの飛んでけー。」
としてあげる。
アルフォンスもその優しさに安心して
「リリエルお姉ちゃん」
と懐いているので
「私はアルちゃんのお姉ちゃんなんです」と
豊満な胸を張り、
自他共に認めるお姉ちゃんとして
アルフォンスを愛し、
生涯共にあることを心に誓った。
その光景を見たリリエルを昔から知る人は
「誰にも優しかったが、
どこか一線を引いていたあやつが、
あんな笑顔が出来るようになったんだな」
と、この出会いを喜んでいたという。
「前から優しい人だったけど、
もっと寄り添ってくれるようになった気がする」
「あんな風に笑うんだ、可憐だ」
「えー、リリエルお姉ちゃんはずっと優しいよぉ」
と町の人々も変化を受け入れていた。
2人目は
リリエルが連れてきた黒髪の魔法使い見習の少女
ヘカテー•ノワール
生まれたアルフォンスを初めて見たのは
ヘカテーが5歳の頃だった。
昔から面倒を見てくれているリリエルに連れられ
グラディウス家に遊びにきたヘカテーは
そこでエレナに抱かれたアルフォンスに出会った
「あなたがヘカテーちゃんね。
この子と歳も近いし、
お友達になってあげてくれないかしら」
エレナに言われ、近づくと
そこには無邪気な顔で笑う赤ちゃんがいた。
「うわ…小さい…可愛い…」
「この子頭を撫でられるのが好きなの。
撫でてあげて。」
「じゃあ…」
と恐る恐るアルフォンスの頭を撫でる
その手のひらは暖かくて
「キャッキャ」
と笑うアルフォンスを可愛いと思った。
「あら、ヘカテーちゃんに手を伸ばして
抱っこして欲しいのかしら?」
おっかなびっくりした様子で
エレナに手伝ってもらいながら
その細い腕でしっかり抱っこすると
アルフォンスは顔をぐりぐりと擦り付けるように
喜びを表した。
「私この子のお姉ちゃんになる…」
と目を輝かせた。
エレナはそんな2人を抱きしめながら
「お姉ちゃんがいっぱいで嬉しいわね」
と喜んだ
ヘカテーがアルフォンスと会う時間を
楽しみにするようになって
笑顔も増えたことがリリエルも嬉しかった。
大きくなってからは
アルフォンスと立場は逆転していくものの
リリエルと同じく生涯を共にすることになる
3人目は同い年の甥、
ウォードの長男ソリッドの息子のオルフェウス。
ソリッドの第一夫人のリラ夫人の髪色を引き継いだ
母親譲りのブロンドの髪と美しい翠緑の瞳をもって生まれた。
家族に抱かれて連れられ、
町を歩くと
町の人々から可愛い双子の様
グラディウスの天使たちと称され
愛されていたという。
オルフェウスは温和な性格で
アルフォンスと同じく騎士の家系にあって
直接的な争いを好まない。
数日違いで生まれた2人は
本当の兄弟以上の仲良しに育ったし
父親のソリッドもリラも
2人ともを分け隔てなく愛した。
考え方もよく似ていたので
喧嘩することもなく過ごしていた。
アルフォンスもオルフェウスも
父も叔父も関係なく
家族全員で愛してくれるのがわかっているから
このグラディウス家の人々が何よりも大好きだった。
この後、アルフォンスとオルフェウスは
剣を振るう以外の方法で
それぞれが自分の戦う道を見つけたので
離れてしまうが
お互いのやっていること、
やりたいことは他の誰より理解している。
離れていても、互いに何かあったら
誰より一番に手助けするつもりでいる
血のつながった親友だと思っている。
グラディウス家の子育ては
他の家と比べると独特だったかもしれない
複数人いる夫人同士の仲も非常に良かった為
「複数人婚だから複雑な家族」ではなく、
みんなで一つの家を支えた家族だった。
「家族はみんなで育てるもの」
として他の家事はお手伝いに任せても
育児だけは自分達で行った。
幼いアルフォンスとオルフェウスが朝起きると、
第一夫人が朝食を用意している。
第二夫人が服を整えてくれる。
エレナが抱き上げる。
ソリッドが肩車する。
リラが音楽を奏でてくれる。
そしてみんなで笑い合った。
誰か一人が頑張るのではなく、
みんなで支え、みんなで育てる。
それが当たり前だった。
それがアルフォンスにとっての「家族」の形だった。
そしていつの日か。
アルフォンスは、
その当たり前を自分の手で繋いでいくことになる。
それが――
ハースベルにおける孤児院シエスタの始まりだった。
第十二話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回から、少しだけ時間を遡り、
アルフォンスの過去のお話が始まります。
第十二話では、アルフォンスが生まれた故郷ローゼベルと、
彼の人生に大きく関わることになる人々との「最初の出会い」を描きました。
リリエル、ヘカテー、そしてオルフェウス。
現在では、それぞれアルフォンスにとって大切な存在となっている彼らですが、
その始まりは、まだ小さな子どもだった頃の何気ない出会いでした。
そして今回、アルフォンスの幼少期を通して描きたかったのが、
グラディウス家の「家族はみんなで育てるもの」という考え方です。
誰か一人が優れている必要はない。
誰か一人だけが頑張る必要もない。
それぞれが自分にできることをして、
みんなで支え合い、みんなで笑う。
アルフォンスにとって、それが当たり前の「家族」でした。
だからこそ、大人になったアルフォンスがシエスタで子どもたちを育てる姿にも、
この頃の経験が繋がっているのだと思います。
優しさは、突然生まれるものではなく、
誰かからもらったものが、また別の誰かへ巡っていくものなのかもしれません。
ここから始まるアルフォンスの物語が、
現在の「おじさま」へとどう繋がっていくのか。
私自身も楽しみながら、少しずつ紐解いていきたいと思います。
それでは、また次のお話で。
旅人の皆さま。
また、ハースベルでお会いしましょう。




