第十一話 優しさの理由
アルフォンスは今日もハースベル中を奔走していた。
ある時は新人郵便局員の道案内をしたり
「ロビンさんのところの新人さんだね。
いらっしゃい。
あぁ、ケビンさんの家だね。
ちょっと入り組んでるから
こっちを通るといいよ着いてきて。」
若いコマドリ(赤服の郵便局員の通称)は恐縮しながら
「ハースベルで何かあれば
アルフォンスさんを頼れと
先輩から言われてましたけど、
お世話になりっぱなしでありがとうございました」
「問題ないよ、初めてでは迷う家もあるから。
ロビンさんたちには
みんなお世話になっているから
これぐらい安いものさ」
と別れたコマドリは手紙を運び終えて
次の町へ飛んでいった。
ある時は仕事で腰を痛めた老夫婦の家に赴き、
雨漏りがするという屋根の修理をしたり
「アンソニーさん
昨日は漁で張り切りすぎたんだよ。
もう若くないんだから、安静にしてね。
屋根は直したから、これで大丈夫だと思うよ」
と大工道具を返しながら笑う。
「アルフォンスさん助かったよ。
お礼と言っては何だが昨日の魚が大物だったから
分前持っていってくれよ。
おーい母さん、昨日釣った魚の
一番いいところわたしてくれー」
「本当に大量だね、ありがたくいただくよ」
思った以上の量をもらい
あとでガレスのところに持っていこうと
思いながら受け取った。
そんなこんなで
一息つこうと陽だまりテラスで
ガレスのコーヒーを飲みながら休憩をしていると
いつの間にか、子どもたちが
アルフォンスの周りに集まっている。
「おじさまー!」
今日も町中を走り回って、
人助けをして帰ってきたアルフォンス。
子どもの一人、トーマ君が首を傾げる。
「ねえ、おじさま。」
「どうして、そんなにみんなのために頑張れるの?」
アルフォンスは少し驚いて、
「どうして……かな。」
と笑う。
その時、シアやラピス、
ヴィルヘルムたちも近くにいたので
興味深げに子供達に混ざっていた。
アルフォンスは少し空を見上げて、
「僕にも、昔から大切にしている人たちがいるんだ」
「僕はね、昔から何かに秀でている
人に自慢できることがなくて、悩んでばかりいたんだ
でもね、ありがたいことに
こんな僕でも前を向いて生きられるように
みんなに助けてもらった。
優しくしてもらった。
たくさん愛してもらった。」
「だから今の僕がいる。」
「今は、僕がかつてもらった分を
勝手にみんなに返しているだけなんだ。」
「自己満足かもしれないけど
それが、僕にとって一番の幸せなんだよ。」
そして、少し間を置いてから子どもたちへ。
「もしね。」
「みんなも、誰かに優しくしてもらったら。」
「その優しさを、今度は別の誰かへ渡してあげて。」
「そうやって優しさが巡っていったら……」
「きっと、みんな幸せになれると思うんだ。」
トーマ君が少し俯いて、
「でも……僕は、今のおじさまみたいに
何でもはできないよ。」
「お母さんが毎日僕の為に頑張っているのに
僕はお母さんに何もできないんだ」
アルフォンスは笑わない。
すぐに「そんなことないよ」とも言わない。
トーマ君の目線までしゃがんで、
優しく微笑みながら言う。
「そうだね。」
「僕も、何でもできるわけじゃないよ。」
そして続ける。
「誰も、同じことができる必要はないんだ。」
「大切なのは、自分にできることを、
一生懸命やること。」
「それだけで十分なんだよ。」
トーマ君は首を傾げる。
「それだけで?」
アルフォンスは頷く。
「うん。」
「僕も、それを家族から教わったんだ。」
ここで、少し遠くを見る。
「僕の家族はね。」
「誰かが誰かより優れているかじゃなくて。」
「それぞれが、
それぞれのできることで家族を支えていた。」
大切な家族の顔を思い浮かべながら
「力の強い人もいた。」
「頭を使うのが得意な人もいた。」
「花を育てるのが上手い人がいた。」
「人を笑顔にするのが得意な人もいた。」
「みんな得意なことは違ったけれど。」
「みんな誰かの幸せのために
自分にできることをしていた。
だからこそ、一つの家族になれたんだ。」
そして最後に頭を撫でて。
「だから、君も誰かになろうとしなくていい。」
「君は君のできることを、一生懸命やればいい。」
「きっと、それが誰かを笑顔にするから。」
子どもが目を輝かせて聞く。
「わかった。僕のできることを探してお母さんを笑顔にするんだ。」
「一緒に頑張ろうね」
また、ある子供がこんな疑問を投げかけてきた。
「そういえば、おじさまの家族って、
どんな人たちだったの?」
それは、シア、ラピスと言った孤児院出身者も
そしてヴィルヘルムでも
アルフォンスの過去を詳しく聞いたことはなかった。
だから、その日は誰も口を挟まず、
静かに耳を傾けていた。
アルフォンスは少し笑って、
「そうだねぇ……」
と懐かしそうに空を見上げる。
夕日が差し込むテラスの席で。
子どもたちはアルフォンスの周りに集まり、
シアやラピスたちも静かに耳を傾ける。
アルフォンスはゆっくりと言う。
「みんな、本当に個性的だったよ。」
「力持ちもいたし、頭の切れる人もいた。」
「ちょっと困った人もいたけれど……」
少し笑って。
「みんな、家族を大切にする人たちだった。」
そして最後に。
「じゃあ今日は……」
「僕の、大好きな家族の話をしようか。」
そう、あれはーー
旅人の皆さまへ
ハースベルへお越しいただき、ありがとうございます。
この町で出会った人々の物語を、楽しんでいただけているでしょうか。
次回からは、このお節介でお人好しな少年――アルフォンスが、
どのように生まれ、育ち、出会いを重ね、
どうやって今の「おじさま」になったのか。
その始まりの物語を、皆さんと一緒に紐解いていきたいと思います。
この物語が、皆様にとってのシエスタとなれば幸いです。
それでは、またハースベルでお会いしましょう。




