第7話「違和感」
朝比奈悠太は、変わらずそこにいる。
「吉岡さん、これ確認いいですか?」
「いいよ」
仕事のやり取りは、いつも通りだった。
「ここ、少し詰めた方がいいですかね」
「うん、その方がまとまると思う」
「わかりました」
素直に頷いて、作業に戻る。
やりやすい。
変わらない。
(……変わってないはずなのに)
昼休み。
特に声はかけられなかった。
前は、自然に誘われていた気がする。
(まあ、忙しいのかも)
そう思って、一人で外に出る。
食事をしながら、なんとなくスマホを見る。
通知はない。
(別に、いつも通りか)
そう思って画面を閉じる。
午後。
「吉岡さん、ここどう思います?」
「いいと思う。ここだけ少し直したら良さそう」
「了解です」
それだけで終わる。
(あれ)
前は、もう少し何か続いていた気がする。
でも、それを確かめるほどの理由もない。
ふと、視線の端に段ボールが見えた。
デスクの足元。
さりげなく置かれている、小さな箱。
(あんなの、あったっけ)
深く考えずに視線を戻す。
帰り際。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
それだけ。
呼び止められることもない。
(……こんな感じだっけ)
帰り道。
ふと、スマホを見る。
特に用はない。
(来てない)
少しだけ間を置いて、またポケットにしまう。
(いや、別に)
何を期待しているのか、自分でもよくわからない。
次の日。
「吉岡さん、おはようございます」
「おはよう」
変わらない声。
でも、それ以上は続かない。
(こんなに、あっさりしてたっけ)
少しだけ考える。
(前が近すぎただけか)
そう思えば、納得できる。
午後。
「……最近、忙しい?」
気づけば、口に出していた。
悠太は少しだけ驚いた顔をしてから答える。
「まあ、ちょっとバタついてます」
「そっか」
それ以上は聞かない。
「……ちょっと、環境変わるかもしれなくて」
ぽつりと、付け足される。
環は視線を上げる。
「環境?」
「はい。まだ確定じゃないですけど」
曖昧な言い方。
それ以上は話さない。
(なにそれ)
少しだけ引っかかる。
でも。
「そうなんだ」
それだけで終わらせる。
(別に、関係ないし)
夕方。
「吉岡さん、これ今日中にまとめておきますね」
「無理しなくていいよ」
「大丈夫です」
短いやり取り。
前なら、もう少し何か続いていた気がする。
帰り際。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
それだけ。
呼び止められることもない。
(……普通だな)
そう思う。
でも。
(なんでこんなに気になるんだろ)
ほんの少しだけ、足が止まる。
振り返ることはしない。
そのまま歩き出す。
(まあ、いいか)
そうやって流そうとする。
でもその違和感は、消えなかった。




