表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いまは緑色の芝生  作者: 三号


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/118

流を汲んで

「ねえパパ」

 美陽が桜の木を見上げた姿で私へ問いかけた。

「桜の花ってなに?」

 日曜日の公園、暖かくなった三月末の陽気に誘われた人々が、それぞれの想いで桜の花を愛でている。桜の花は鮮やかな桃色で咲き誇っているが、今年で八歳になる一人娘の美陽には見ることが出来ない。

 美陽の両目が失明していることを私と妻が知らされたのは、美陽が生まれて間もない頃だった。だから美陽には桜の花が何色なのか、どのような形をしているのか分らないのだ。

 私は美陽の手を引いたまま、周囲に落ちている桜の花びらを二、三枚拾った。そして目の見えない美陽の手をとって、小さな掌に置いた。

「これが桜の花びら」

 美陽は私がのせた花びらを、壊れないように気をつけながらもう一方の手で触った。しばらくの間、美陽は桜の花びらを指先で愉しんでいた。

「ふうん、これが桜の花」

「そうだよ、凄く大きな桜の木がここには何本もあってね、太い幹で、その上で枝が方々に手を伸ばしているみたいで、その枝の上に桃色の花を咲かせてる。美陽が持ってる花びらが数えきれないくらい沢山あるんだ。そうだな、なんと言ったらいいのかな、見上げると桃色の花火が一面に広がってるみたいな……花火って言っても分らないか。うん、ちょうど満開だ。今日は晴れてるから、光って見えてさ、いい景色だよ」

「……とても綺麗」

 私は少し驚いた。見ることが出来ない桜の花を触っても、私には綺麗だと思えないだろう。美陽は花びらに触っただけで感じたのだろうか。

「パパがたくさん伝えようとしてくれるから、とても綺麗」

 美陽は見えないはずの瞳を私に向けて微笑む。私は桜の花びらをのせた美陽の手を、美陽の気持ごと包み込むように握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ